表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

13/140

第12話 ドラゴン戦2

 エステルさんが、そのままの勢いでドラゴンに突っ込んでゆく。


九十九杠葉流(つくもゆずりはりゅう) 朧白夜(おぼろびゃくや)――!」


 呟くと、腰の鞘から閃光が走る。

 ドラゴンの体表へとぶつかる一条の閃光。そして鋭角的な軌道で方向転換し、そしてまた方向転換し、その勢いのまま何度も何度も切り付ける。


 以前見た『朧』という抜刀の技の強化版だろうか?

 ふつうの抜刀術だった朧と違って、複数回斬りつける高度な剣術。


 ――チン


 透き通る様な涼やかな音を立てて、カタナが納められる。

 しかし――


「そんな!」

「天職の力を借りて扱えるようになった上位剣術でも、その程度ですか……」


 ドラゴンの体表の鱗は傷付いてはいた。何か所か剥がれ落ちている鱗もあるし、その場所からは血も流れている。


 しかし、その程度だ。

 人間であれば、指の先を何かにひっかけて皮膚がさけて血が出た、という程度。畑仕事や料理なんかをしていると、そんなことはしょっちゅうある。その程度の怪我だという事だ。


 とはいえ――


「グギャオオオオオオーーーーーーーーッ!!」


 間違いなく、痛い事は痛いのだ。

 ドラゴンは怒りの形相でこちらを見ろしてきた。尻尾はぶおんぶおんと左右に振れており、あれがこちらに飛んでくるのではないかと、目が離せない。


「これは、そのー、なんじゃ、いたずらに怒らせただけではないのかの?」

「まぁ、そうとも言うね……。これで逃がしてくれる可能性は無くなったかも……」


 リリアーヌが「駄目ではないか!」と叫ぶけど、そちらに目をやる余裕はない。


「来ます!」


 エステルさんの声が響き、ドラゴンの尻尾が振りかぶられる。


「くっ……守り給え神の腕(プロテクション)!」


 叫び、出現する光の壁を見届けることなくボクとエステルさんは後ろに大きく飛びのく。


 ドラゴンの尻尾のリーチは長い。

 ボクのプロテクション程度では一瞬で砕け散ってしまうだろうけど、無いよりはマシだ。


 パキンと硬質な音を立てて砕け散るプロテクション。

 でも、攻撃を避けることは出来た。


火精霊よ集え(ファイアボール)!」

土精霊よ貫け(ロックバレット)!」


 ボクとリリアーヌが精霊術を発動し、火球と岩の弾丸がドラゴンに降り注ぐ。


「ギャオオッ!」


 痛みから逃れるように身をよじるドラゴン。

 ……正直、あんまり効いている気はしないけど。


 そこへエステルさんがカタナを正眼に構えて突っ込んでゆく。

 半身になって低く構えることが多かった今までのエステルさんとは、少し違う構え。


重撃侵命(ヘヴィ・インヴェイド)!」


 叫んだエステルさんの存在感が、瞬間的に大きくなったような感覚。

 そして、ゆらりと振り上げられたカタナが、ドラゴンへと爆発的な加速で振り下ろされる。


 放たれるのは、中位職ソードマスターの祝福で得られる上位剣技スキル。

 下位剣技スラッシュの進化版で、衝撃波は出ないが剣技スキルで最大の攻撃力を誇るスキルだ。


 レックスも得意だったスキルだったので、なんども見たことがある。

 ドオン、と人がこんなに重い攻撃を放てるんだ、というほどの大きな音が響きわたる。


「ギャオオオオッッ!」


 痛みに叫びをあげるドラゴンと、飛び散る鮮血。

 とはいえドラゴンの巨体からすれば、さほどの傷でもない。


 でも、今がチャンスだ!


「リリアーヌ!」

「まかせておくのじゃ! 火精霊よ集え(ファイアボール)!」


 リリアーヌの手の平から火球が飛び、エステルさんが与えた傷に追撃を与える。


「ギャオオオオオン!」


 痛みに身をよじるドラゴン。


 ボクは両手でレイピアを持ち、頭上に振りかぶる構えを取った。

 このスキルは細いレイピアじゃ威力を出し切れないと思うけど、仕方ない。ボクの扱える下位剣技スキルでは最も攻撃力の高い技だから。


重両斬(ターミネイト)!!」


 叫び、渾身の力を込めて、ドラゴンへと振り下ろす。

 数枚の鱗が宙を舞い、ドラゴンの血が飛び散る。


 ――いける!


 そう思ってしまった。

 ボクが発動出来た天職は、ドラゴンにも通じる。クズだなんだと言われてたけど、ボクの力は上位冒険者にだって見劣りしないんじゃないか、って。


 しかし


「ギャウオオオオオオン!」


 ドオオオオオオオオン!


 傷を与えられ興奮したドラゴンが、怒りをまき散らすかのように腕を、足を、尾を振り回し暴れまわる。


 それだけだ、それだけなのに、地面はまるでボクの知る地面ではないかのように揺れる。

 大きく大きく何度も何度も揺れ、天井の岩石がばらばらと崩れ落ちてくる。


「うおっ、た、立っていられぬのじゃ……」


 リリアーヌが立っていられなくなり、両手を地についてしまう。

 ボクとエステルさんも、なんとか立っているだけという状態で、とても攻撃が出来る状態ではない。


 これが、これがドラゴン。


 ちょっと本気で暴れまわるだけで、ボクたちは地に伏せ動けなくなる。

 勝つとか負けるとかじゃない、生物として立つステージが違う。


 そして、ドラゴンは怒りに燃える目でボクたちを睥睨する。

 その憤怒を、目の前のちっぽけな生き物に叩きつけるのだと。


「……これはマズイんじゃないかな?」

「そうですね、良くない状況だと思われます」

「冷静に言っとる場合か! お主らなんとかするのじゃ!」


 リリアーヌは必死の形相で叫ぶけど、これは本当にマズイ。


「いざとなれば、私が盾となります。お二人が逃げる時間くらいは稼いでみせます」


 エステルさんが覚悟を決めたような表情で、静かに言った。

 リリアーヌが「なにを馬鹿なことを言っておるのじゃ!?」と叫ぶのが聞こえる。


 エステルさんの言葉はボクの胸に突き刺さった。

 エステルさんは貴族だ。リリアーヌは王族だから当然逃がさないといけないとして、囮になるのなら当然平民のボクのはずだ。ボク自身なにも出来ないボクが囮になって皆を逃がすべきだと思うし、実際レックスはそうした。


 自殺願望なんか無いし、死にたいわけじゃない。

 見捨てられるのも見限られるのも悲しいけど、一番合理的で損失が無い選択がボクが犠牲になることなんじゃないかな、と感じるボクがいるだけだ。

 そしてなにより、助けられてばかりで何の力にもなれない事が悲しい。


 にも関わらず、エステルさんは自分が盾になると言った。


 嫌だ。


 そんなエステルさんを犠牲になんてしたくない。

 だからと言って、ボクが囮になります、というのも違う気がする。みんなで生き延びるんだ。


「……考えろ、考えろ……」


 ベルトランは言っていた。

 常に考えろ、考えるのを止めたやつから死んでいくのだと。


 ボクの天職の特性は剣技スキルと術スキル両方が使えること。

 とはいえ、あんまり効いていなかった。


 ――ばらばらにぶつけたから?


 でも、間隔を短くしてもたかがしれている。


 ――なら、同時にぶつけたなら?


 ボクの中に浮かぶ、わずかなひらめき。


「……いけるかもしれない」

「なんじゃ?」


 なんとか体を起こしたリリアーヌが、怪訝な顔で聞いてくる。


「リリアーヌ、エステルさん、数分でいいから時間を稼いでくれないかな?」


 今にも襲いかかってきそうなドラゴンから目を離さず、二人にお願いをする。


 そう、お願いだ。

 リリアーヌの精霊力はたぶんもう限界だし、エステルさん一人でドラゴンを抑える事なんて無茶なことを言っているのは分かっている。でも、ボクはこのひらめきを形にするためにも、そう言うしかなかった。


「……何か、考えがあるのですね? 分かりました、数分くらい稼いでみせましょう」

「無茶言うのぅ、妾はもう一発くらいしか打てぬのじゃが……」


 何も聞かず頷くエステルさんと、口をとがらせてなにやら言いたげなリリアーヌ。

 両極端な反応の主従だけど、それでも二人ともボクのお願いを聞き入れてくれた。

 

 ボクの胸が熱くなってくるのを感じる。

 仕方ない事とはいえ、レックスはボクを犠牲にするという選択をしたけれども、リリアーヌとエステルさんはその選択肢を選ばなかった。ボクを信じて体を張ってくれると言う。


 ならば、ボクの言う言葉は決まっている。


「ありがとう、任せて」

 お読みいただいて、ありがとうございます。 


 少しでも面白い、と思って頂けましたらブックマークや、下の☆を入れて頂ければ嬉しいです。


 つまんねぇな、と思われた方も、ご批判や1つでもいいので☆を入れて頂ければ、今後の参考にさせて頂きます。


 なんの反応も無いのが一番かなしいので……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ