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第100話 合流

「ご無事ですか? 王太子殿下?」


 王太子殿下に声をかける。

 あれからボクたちはみんなで森の中を探索して、戦闘の物音が聞こえたから急いで駆け付けたんだ。もう少しで間に合わない所だったから、間に合って本当に良かった。ちらと周囲に目を向けると、周囲の魔物はベルトラン・パルフェ・ジゼルちゃんが倒してくれていた。あれなら安心だろう。


 尻もちをついた王太子殿下に手を差し伸べる。

 だけど、王太子殿下は真っ赤な顔でこちらを見ているだけで、何の反応も帰ってこない。


「?」


 どうしたのかな? 外からは分からないけど、どこか怪我でもしているのかな?

 首をかしげていると、横から声が上がった。


「父様! ご無事でしたか?!」

「おお、エステル! よくぞ来てくれた!」


 顔を向けると、エステルさんとガルドス様の親子が抱き合っているのが見えた。

 よかった、エステルさんもお父様のガルドス様の安否を心配していたから、本当に良かった。


 リリアーヌが走ってくるのも見える。


「お父様、お兄様! 大丈夫なのか……う、うわっ?! ガルドス、お父様は大丈夫なのかのぅ?!」

「おお、リリアーヌ殿下までこのような所まで! 国王陛下は命に別状はありませんが、安心できる状況でもありません」

「うおっ、それは大変ではないか! ま、まぁ命に別状はないのなら、とりあえずは良かったのじゃ……」


 リリアーヌはびっくりして飛び上がるけど、それほど深刻な状態ではないことを聞いて胸を撫で下ろした。

 国王陛下も王太子殿下もご無事で、ボクも安心したよ。よかったね、リリアーヌ。あ、でも治療は後でした方がいいよね。専門家じゃないからどこまで出来るか分からないけど、やらせてもらわなくっちゃ。


 そんなことを考えていると、パルフェが周囲を警戒しながらガルドス様達の方へ近づいていく。


「団長、無事でよかったよホント」

「パルフェ! お前が来てくれたのか、助かったぞ!」


 喜色をあらわにするガルドス様とは反対に、パルフェはハァとため息を吐く。


「団長、国王陛下と王太子殿下を連れて、今どこへ向かおうとしてたの?」

「むむ? 決まっておるだろう、確かこの辺りに洞窟があったはずだ。そこへ避難しようとしておったのよ」

「その洞窟は、方向が違うわよ。万が一の場合避難できる場所は、軍議で資料渡して何回も説明したよね?」

「うむむ……確かに聞いたぞ。聞いたがな……こちらの方向だとワシのカンは訴えておったのよ!」

「こちらの方向には、なにも無いわよ……」


 がははと笑うガルドス様と、肩を落とすパルフェ。

 ……なんとなく、このやりとりでガルドス様がどんな方なのか分かった気がするかな? 申し訳ないけど、ちょっと笑っちゃったよ。


 そんな事を思いながら、視線をふたたび王太子殿下へと戻す。

 まだ赤い顔でぽかんとしている王太子殿下の腕を取り、ちょっと強引かもしれないけど引っ張って立たせてあげる。


「あ、ああ、すまない……」

「いえ、こちらこそ王太子殿下に対して失礼しました」


 軽く頭を下げたあと、王太子殿下の瞳を正面から見つめてもう一度改めて言った。


「ご無事でよかったです、王太子殿下」



◇◇◇◇◇



 その後は全員集まり簡単に自己紹介を交わしたあと、パルフェの指揮で避難場所の洞窟へと急いだ。

 急いで引き返すという選択肢もあるにはあった。しかしもう遅い時間だから夜を明かす場所も必要だし、なにより国王陛下の治療を優先したかったからだ。


 うっそうと茂る森を抜けると、その奥にその洞窟はあった。入り口は大量のツタに覆われていて、遠くからでは洞窟だと分かりにくい、隠れるにはいい場所だ。みんなで洞窟の奥に進み、ガルドス様が比較的平たい場所に国王陛下を下ろす。


 ……よく考えてみると、こんな間近で国王陛下を見たのなんて初めてだ。


 失礼かな、なんて思いながら国王陛下の顔を覗き見る。国王陛下は、王族に多い綺麗な金髪と碧眼をお持ちの方だ。王太子殿下も同じだよね。たれ目がちの真面目で優しそうな雰囲気を纏っていて、年齢はたしか40代半ばだったと思う。背は高い方でも低い方でもなく、自ら戦闘をこなす方ではないみたいで筋肉はあまり付いていないみたい。中肉中背、っていうのかな?


 その国王陛下は今、意識を失って苦しそうな表情で横たわっている。

 あちらこちらに切り傷や打撲を負い、血が足りないのか何かの病気に感染しているのか顔色は非常に悪い。


「お父様……」


 リリアーヌが心配そうに国王陛下の顔を覗き込む。

 そんな彼女を見て思い出した。……そうだ、国王陛下はボクにとっても父様なんだよね? でもボクの認識ではボクにとっての父様は村の父様だから、父様だとはちょっと思えないかな……。あくまで国王陛下、としか考えられないよ。


 横からナルちゃんが国王陛下の顔を覗き込むと、こちらを見上げて首を傾げる。


「うぅ? このおじさん、うごかないにょら。しんじゃうにょら??」


 そのナルちゃんの言葉に、ガルドス様が「こら、娘! なにを言うか!!」と声を上げた。

 でもナルちゃんは悪びれるでもなく声に怯えるでもなく、不思議そうに首を傾げる。


「うぅ?」

「ダメだよ、ナルちゃん。そんなこと言っちゃ」


 ナルちゃんの頭をなでてあげると、国王陛下に向き直る。

 今は国王陛下の治療が先だ。


死神を斥る神の聲(サルベイション)! それに……癒し給え神の慈愛(ヒーリング)!!」


 手を向けて神聖術を使うと、きらきらとした光が国王陛下に降り注いだ。

 あらゆる状態異常を治すサルベイションと、怪我を治すヒーリング。光に触れた国王陛下の体の怪我がみるみるうちに治っていき、顔色もいくぶんか赤みが戻ってきた。


「おおっ?! これはすごい! シルリアーヌ殿下は神聖術が使えるというのは本当だったか!」

「すごい……美しい……」


 そばで見守っていたガルドス様が興奮した声を上げ、後ろの方で様子を見ていた王太子殿下が感極まったような声をあげた。

 うん、そうだよね。神聖術は女神様の奇跡だからね、すごく綺麗だよね。


「怪我も治ったしだいぶん顔色が良くなったから、すぐにどうこうなるような状態ではなくなったと思う」


 現状の経過を説明しながら、国王陛下の額に手を当て腕を取り脈を取る。

 呼吸も規則正しくなってきた国王陛下だけど、まだ目を覚ます気配はない。


「だけど……体力の消耗が激しい。血を失いすぎているし、怪我のせいでなんらかの病気にかかっている可能性もある。神聖術じゃ病気は完治できないし、ここじゃ正確な診断も出来ない。今のところ安定しているし特に心配はいらないと思うけど、早く王都に戻って専門のお医者様に見てもらった方がいいよ」


 振り返って伝えると、当面のところ問題ないと知ってほっとした空気が広がる。

 それはそうだよね。国王陛下だ、みんな心配だったよね。


 だけど、誰より大きな反応をしたのは王太子殿下だった。


「はは、よかった……。父上……」


 王太子殿下は泣き笑いのような声を上げる。

 安心して力が抜けたのかよろよろと後ろに下がると、洞窟の壁にもたれかかりずるずると座り込む王太子殿下。その殿下の目元には涙が。ここまで逃げてきて身体的な疲労もあったんだろう、そのまま座り込んでしまう殿下。


 そんな王太子殿下を見て、ガルドス様ががははと笑う。


「がはは、これで安心ですな王太子殿下! なに、ワシは心配してはおりませんでしたよ。これも国王陛下と王太子殿下の人徳の賜物ですな!!」


 ついでにボクの方にも視線を向けると、がばりと頭を下げた。


「おお、そういえばシルリアーヌ殿下に御挨拶もしておりませなんだ。近衛騎士団長を拝命しております、ガルドスと申します。娘のエステルが世話になっております上、ワシまで危ないところを助けていただき誠に感謝の念に堪えませぬ」


 そして、ニカリと人好きのする笑顔を浮かべるガルドス様。


「いやぁ、それにしてもシルリアーヌ殿下はお強い。部下の近衛騎士でも殿下並みに使える者ははたして何人おるやら……。剣だけでなく術まで得意としているうえに、この通りお美しいときておる。王女殿下でなければ、なんとしても近衛に入ってもらう所ですな!」

「おお、話が分かるなガルドス! そうじゃ、シルリアーヌはスゴイじゃろう! 強くて美しい……なにせ妾の妹分じゃからの!」

「……お姉さまが()()というその脳内設定、まだ生きてたの? いいかげん現実を認めるの、偽王女」

「ぬあっ?! ジゼル、お主またしてもっ?!」


 ガルドス様のおかげか、にわかに明るくなってきた暗い洞窟内。

 いつものやりとりを繰り広げるリリアーヌとジゼルちゃんの、そんな様子にくすりと笑みを浮かべた。

お読みいただいて、ありがとうございます。 


 少しでも面白い、と思って頂けましたらブックマークや、下の☆を入れて頂ければ嬉しいです。


 つまんねぇな、と思われた方も、ご批判や1つでもいいので☆を入れて頂ければ、今後の参考にさせて頂きます。


 なんの反応も無いのが一番かなしいので……。



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