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第99話 希望

「うわあああああ~~~~ん」


 思わず座り込んで泣いてしまった。


「えー、ほら、なんじゃ、治るまで時間がかかるという話だったじゃろ? のぅ?」


 リリアーヌが、おーよしよし、と頭をなでてくれる。

 それはそうだけど! 分かってはいたけれども! 実際目の当たりにしたら、ちょっと耐えられなかったんだよぅ!


「……ちっ、ガキンチョ。なにお姉さまに心配かけてるの。昨日のことくらい、さっさと思い出すの」


 ジゼルちゃんが、ナルちゃんをじろりと睨み付ける。

 うぅ、ダメだよ、そんなこと言っちゃ。一番辛いのはナルちゃんなんだから。


「うぅ、ぐすん……」


 ……そうだよね、ナルちゃんの方がもっと辛いんだよね。

 一時的にぶあっと膨らんだ感情が、ナルちゃんのことを考えていると収まってきた。


 そんなボクの顔をのぞき込むのは、申し訳なさそうな顔のパルフェとエステルさん。


「そ、そうよ。記憶に障害の出た兵士なんかは、完治するまで何年もかかるらしいわ。だから……シルリアーヌ姫様の気持ちは伝わってるとは思うけど、も、もうすこし時間はかかるんじゃないかなぁ、って思うの」

「申し訳ありません。そもそも私が覚えていられるかもしれない、なんて言ったのが悪いんです。無責任に特に根拠の無いことと言ってしまって、申し訳ありません」


 二人のそんな優しい言葉に、思わず「そんな、悪いのはボクだよ!」と叫んで立ち上がる。


「そうだよ、初めから分かっていたことなのに、ボクが勝手に落ち込んじゃっただけなんだよ。だから、エステルさんは悪くなんかないよ!」

「シルリアーヌ様……」


 ほっとした様な、申し訳ない様な、そんな表情を浮かべるエステルさんに軽く頭を下げる。

 そして、まだぽかんとしているナルちゃんに向き合う。そうだよ、みんな悪くないし、そんな話をしている時でもなかった。ボクは決めたじゃないか、ナルちゃんを構い倒してボクのことを覚えて貰うんだって。


「うぅ?」


 そんな事を考えながら、もう3度目になる自己紹介をする。


「混乱しているところゴメンね、ボクの名前はシルリアーヌ。ナルちゃんと、友達になりたいんだ」


 そう言って右手を差し出すと、ナルちゃんは「う?」と首をかしげる。そして、むぅ~~っと両手で側頭部をぐりぐりっとすると、口を開く。


「おねえさん、まえにも我とあったこと、あるにょら?」


 え?


「そにょなまえ、まえにも、きいたことあるような、きがするにょら」


 えええ??


 それって、もしかして?


 思わず、みんなのほうを振り返る。

 みんなポカンとしていたけど、我に返ると笑顔で頷いてくれる。


「ナ、ナナナ……ナルちゃんっ?!」

「うぅ?」


 お、覚えててくれたっ?!

 ちょっとだけど、ほんのちょっとだけど……覚えていてくれたっ!


 うれしい気持ちが、ぶわあっと胸の中に広がる。

 そして、気がつけばナルちゃんに抱きついていた。


「ナルちゃんっ! ありがとう、覚えていてくれてありがとうっ! 大好き、大好きだよっ!!」

「ううううっっ?!」


 戸惑うナルちゃんを抱きしめて、頭をネコ耳フードの上からわしゃわしゃと撫でる。

 これは、ナルちゃんの症状が治るかもしれない、って事だよね!



◇◇◇◇◇



 ボクたちは朝食を済ませると、馬車の前に集合してベルトランとパルフェの話を聞いていた。


「ナルの症状が治るかもしれないのは朗報だが、そろそろ俺たちが何をしにここへ来たのか思い出してもらおう」

「うっ……」


 その言葉に、恥ずかしくなって下を向く。

 そうだよね、昨日と今日はナルちゃんのことばっかり考えていたけど、ボクたちは国王陛下と王太子殿下を探しに来たんだよね。


「ま、まぁ確かに王都を出てから国王陛下の情報はとくに無かったしな。ナルの事も心配ではあるし、気持ちは分からなくもないが……」

「そうね、でもそろそろ陛下達と合流できる可能性が高まってくるわね」


 パルフェが続けて、現在の状況を説明してくれる。


 そもそもの話だが、御親征の軍が敗れたあと国王陛下達がどうなったのか、詳細は不明だ。近くの森へ落ち延びた、という情報があるが確かな情報では無いらしい。まぁ、国王陛下がもしお亡くなりになっていればその動揺はたちまち伝わるので、それは無いだろうというのが王宮側の分析だ。


「それでね、陛下達が落ち延びたと言われている森……王国最北端の大森林がそろそろ見えてくるのね。戦場周囲の地形を考えてみても、逃げ込めるような場所はそこしかないわ。陛下達がそこに避難されている可能性は高いけど……」

「おそらくそれは魔族側も分かっているはずだ。必ず追っ手がかかっているだろう」


 パルフェとベルトランの言葉に、頷くみんな。

 ナルちゃんだけはポカンと話を聞いていたから、軽く頭を撫でてあげる。


「こちらは少数だけど、幸い場所は深い森で大軍を動かすことは出来ないわ。そしてこちらは腕利きぞろいだからね、ささっと入っていってちゃちゃっと陛下達を見つけて、ぴゃぴゃっと退散するわよ」


 軽い調子でそんなことを言うパルフェに、リリアーヌが呆れた顔をする。


「……そんな適当な感じでよいのか? もっと細かい作戦とかないのかのぅ?」

「そうは言ってもね、森の中の状況も陛下達がどこにいるのかも分からないわ。加えてこちらは少数で、その少数をさらに分ける危険も冒せないわ。だから、細かい作戦なんて立てようが無いの」

「なるほど……」


 たしかに、それはそうかもしれない。


「なんて言ってもね、本当に何も考えていないわけじゃないのよ? 身を隠せそうな場所のある地点をいくつかピックアップして、さらに比較的軍を入れられそうな場所は除外して……どういうルートで探索するかは決めてあるわ」

「だったら安心だね、さすが近衛騎士だね」


 笑顔を向けると、ちょっと顔を赤くするパルフェ。


「で、でしょ? 美少女近衛騎士パルフェちゃんは、とびっきり優秀だからね? 近衛騎士としてこのくらい普通よ、普通!」


 赤い顔で普段より早口でそんなことと言うパルフェだけど、たしかにとっても頼もしいかも。

 そんな事を考えていると、ベルトランが真剣な表情で口を開く。


「で、だ。ここで改めて話し合いたいが……」


 そしてベルトランはナルちゃんに顔を向けた。

 自然と、みんなの視線もナルちゃんに集まる。


「うぅ?」

「ナルも、連れて行くのか?」


 その言葉に、だれもとっさに返答を返せなかった。

 

 そうなのだ。

 これから向かうのは、大事な任務の場で、確実に戦闘になる。そこにナルちゃんを連れて行くの? じゃあ、どうするのか? この場に置いていくなんてのは、もちろん論外。近くに村か町でもあればそこに送り届けるけど、この辺りは魔帝国との国境が近いこともあり、小さな村さえも無い。引き返して安全な村や町に送り届ける、ってのも難しい。この任務は国王陛下の命がかかっているんだ。国王陛下よりナルちゃんを優先するなんて選択はちょっと取れない事は、ボクもさすがに弁えている。


 ということは、正直ちょっとどうかとは思うけど連れて行くしかない。


「で、でもナルちゃんは連れて行くよ?!」


 思わず声を上げていた。

 まぁそう言うだろうな、みたいな感じの視線が集まる中、さらに続ける。


「このメンバーだと、ボク・ジゼルちゃん・ベルトランが前衛で、後衛がリリアーヌとパルフェ、そしてエステルさんが後衛の護衛、という事になると思うんだ。で、エステルさんとパルフェのお仕事がちょっと増えると思うけど、リリアーヌと一緒にいてもらえればそんなには負担にはならないと思うんだけど……」


 ごめんね、という気持ちでエステルさんとパルフェの方をちらと見ると、エステルさんが考えるように少し首を傾げた。


「……まぁ、そうですね。確かに後ろにいて護る人が一人でも二人でも、それほど手間は変わりませんが……」

「パルフェはいちおう近衛騎士だからね、エステルちゃんとは比較にならないけどちゃんと剣の鍛錬もしてるからね! 自分で自分の身くらいは護れるから、大丈夫よ!」

「ぬあっ?! それは妾がただ護られるだけのお荷物だと言っておるのか?!」

「あ、いえ、そういう意味ではありませんが……」


 エステルさんとパルフェに「妾はこれでもB級冒険じゃぞ!」と訴えるリリアーヌを見ながら、思う。

 そうだよね、みんな頼りになる人たちばかりだもんね。きっとナルちゃん一人増えても、ちゃんと護ってくれると思う。だからと言って甘えてばかりは良くないから、ボクもちゃんと見ていないと。


 ボクがそんなことを考えながらニコニコしていると、ベルトランが仕方ないなぁという風に苦笑した。

お読みいただいて、ありがとうございます。 


 少しでも面白い、と思って頂けましたらブックマークや、下の☆を入れて頂ければ嬉しいです。


 つまんねぇな、と思われた方も、ご批判や1つでもいいので☆を入れて頂ければ、今後の参考にさせて頂きます。


 なんの反応も無いのが一番かなしいので……。



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