第91話 サイクロプス
「くらうのじゃあっ! ゆけリンドヴルム、火球流星群!」
リリアーヌの叫びに合わせて、聖遺物・創炎たるリンドヴルムが振り下ろされる。
すると、空からいくつものファイアボールが降り注ぐ。
「グギャアッ?!」
「ブヒイイッ?!」
炎に包まれ、ごろごろと転がるオークやゴブリンたち。
リリアーヌがリンドヴルムを振ると新たな火球が生み出され、次々降り注ぐ。ただのファイアボールだけど、次々と降り注がれるとオークやゴブリンなんかはひとたまりも無い。リリアーヌの創炎たるリンドヴルムは、弱いけど数の多い魔物を蹴散らすのに適した聖遺物だ。
「んじゃ、パルフェも行っくよおっ! |風の太后その廃滅せし狂飆!!」
パルフェが叫ぶと、現出する雷を纏う嵐。
風が竜巻となり渦巻き、その中で稲妻が吹き荒れる。その巨大な暴力装置により次々と息絶えていくオークやゴブリン。直接術の被害を免れた魔物たちも、その脅威に混乱し背を向け逃げ惑う。
「もうひとつ行くね~? |終末の帝王その降臨せし瞋恚!!」
パルフェのその声が響いた瞬間、ずあっと頭上の雲を押し退け現れる巨大な質量。
空に火山が現れた、それが第一印象。巨大といっても人の何倍という感覚ではかれる大きさじゃ無い。家が何軒もがすっぽり覆い隠せるほどの、信じられないような大きさ。炎を帯びた、火山そのものの様な巨大な塊が空に浮かんでいるのだ。
そして「行って!」とパルフェが腕を振り下ろすと、その巨大な質量が魔物の群れの中央に落ちてくる。
「ブヒイイイッッ?!」
「ビギャアアアアッ?!」
「ブギー?! ブギー?!」
数十、もしかするとそれ以上の数の魔物が押しつぶされた。そして、可哀想なほど混乱し逃げ惑う魔物達。
「んなあっ?! 妾のファイア・メテオールと名前が被っておるではないかあっ?! しかも威力も桁違いじゃとおっ?!」
「あはっ、ごめんね? ほら、パルフェって優秀だからね?」
「自分で言うのか、それをっ?!」
リリアーヌとパルフェのそんなやりとりに、くすりと笑う。
メテオ・ストライクの術は規模があまりにも大きいから、狙いなんかは大雑把だ。サイクロプスは狙いから外れたみたいだし、まだ残っている魔物も多い。だけど魔物達は壊乱し右往左往し、ボクたちの方から注意が逸れた。
「今だ、行くよっ!」
「分かりました、付いていきます!」
「わたしも行くのっ!」
その混乱に乗じて、三人でサイクロプスへ向かって走る。見るとベルトランも、もう一体のサイクロプスへ向かって走り出していた。
これなら、届く。
視界に入ったオークやゴブリンを斬り捨てながら走ると、すぐに目の前の巨体が現れる。
「ヴオオオオオオッ!!」
雄叫びを上げ、手に持った強大な大剣を振り上げるサイクロプス。
その身の丈は、軽くボクの倍以上はある。その巨体が、これまたボクの身長より大きな大剣を振り上げて叫ぶ。その迫力は近づいてみると想像以上。
「ヴァアッ!!」
振り下ろされる巨大な質量。
「散開!」
地面を揺らすような爆音をあげ叩きつけられる大剣を、散らばって避ける。
ちらとこちらに視線を投げかけるエステルさんとジゼルちゃんに、こくりと頷き答える。最初は術で牽制するというのがセオリーだ。
「じゃあ、いくよっ! 万象を滅す神の剣!!」
ファフニールを掲げ叫ぶと、雲を裂き光が降り注ぐ。
上位上段神聖術エクスターミネーションによる、邪悪を滅する神の光。
「グアッ?!」
サイクロプスはたまらず、剣を引き盾に身を隠す。
エクスターミネーションの光はかなりの部分が盾に防がれてしまったけど、それでも防ぎきれなかった光がサイクロプスの肌を焼いた。巨大な神聖術の光は、サイクロプスの巨大な盾でさえ防ぎきれないほど大きい。
「ジゼルちゃんっ!」
「分かってるのっ! オラアアアアアッ!! でかい図体してんじゃねぇよーーーーッ!」
その構えられた巨大な盾に、ジゼルちゃんがウォーハンマーを振り下ろす。
ガアアアアンッ!!
響く耳をつんざく様な音。
ジゼルちゃんの天職・バーサーカーは、スキルが使えない代わりに全天職中最高クラスの攻撃力を持っている。
そのスキルを最大限活用して繰り出される攻撃は、非力なボクなんかじゃとても考えられないくらい重く、響く。
「ウラアアアアッ! お姉さまのためにーーーーッ!!」
「グオッ……?!」
ジゼルちゃんが雄叫びを上げ、ウォーハンマーをがあんがあんと叩きつける。
するとたまらずぐらりと傾く、サイクロプスの巨体。
そう、彼女の三倍はあろうかという巨体を、揺るがしてしまうほどに。
「エステルさん!」
「ええ、分かってます。シルリアーヌ様」
揺らいだサイクロプスの巨体に、かつんかつんと歩み寄るエステルさん。
その歩みはいつもと何ら変わらない調子で。すうっと腰の鞘に収められたカタナに手をかけ、いつもと変わらない調子で口を開いた。
「九十九杠葉流――秘技・残灰――」
その言葉がボクの耳に届いた時には、すでに彼女はサイクロプスの背後でカタナを振り抜いていた。
そしてかちんとカタナを納める音が響いた時、サイクロプスの胸がばくんと裂け、鮮血がばっと吹き上がる。
「ガアアッ?!」
エステルさんの使う流派、九十九杠葉流は目にとまらない早さの剣さばきと体さばきを得意とする流派だ。
今も、静から動へ一瞬でトップスピードに乗ることによる急加速とそこから繰り出される神速の抜刀術により、サイクロプスは自分が斬られたことも知覚できなかったに違いない。
「じゃあ、次はボクの番だね?」
右足を引き、水平に構える。
腕の中には、聖遺物・疾風たるファフニール。この剣を手に入れてまだ一年もたっていないけど、今では長年の相棒のように手になじむ。
「佑より穿星突死、佐より四連斬――」
右手と左手から光が、力がファフニールに流れ込む。
「断て――流星伐征!」
視界に満ちる、剣閃。
あらゆる方向から、数え切れないほどサイクロプスへと殺到する剣の煌めき。ひとつ煌めくたびに鮮血が吹き出す。
一瞬でサイクロプスは自らの血で真っ赤に染まり、足下には血だまりが出来る。
「ガア……」
ぐらりと傾く、サイクロプス。
その巨体はまだ息絶えてはいないけど、あれだけ血が流れればもう長くはないだろう。サイクロプスがガクリと膝をつき、それにより目の前に無防備にさらされた極太の首元を視界に収め、かちりとファフニールを構え直す。
「ごめんね……、飛龍砕黎!」
腕を振り抜くと衝撃波が発生し、サイクロプスの首をごとりと落とした。
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