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閑話 鋼の戦斧亭にて6

 ここは王都の冒険者ギルド近くにある酒場、鋼の戦斧亭……があった場所。


 二日前にあった王都への魔物の襲撃の際に、この辺りは一番被害が大きかった。

 鋼の戦斧亭も例外ではなく、大きな被害を受け建物は半壊、とても営業できる状態ではない。


 だけど、男たちはたくましい。


 酒はある。


 料理も……凝ったものは難しいが簡単な物なら。


 なら飲むしかないだろ!


 王宮からの迅速な支援もあって物資や食料にそれほど不足はしていない。被害も出たし不自由だが、段階的に復旧していけるのだという希望が見えていた。一応勝利し魔物を追い払った事もあり、人々はあちらこちらの瓦礫の上などに座り込み、酒を酌み交わしていた。


 命を失った者は多い。

 仲のよい友人や家族を失った者もいる。

 しかし、自分たちは生きている。だからこそ亡くした者を悼み、お互いの無事を喜び、集まり酒を酌み交わす。


「乾杯!」

「おうよ、乾杯!」

「魔物どもめ、冒険者の力を見たか!」


 欠けたカップにエールを注ぎ、見知った顔を見つけると乾杯をする。

 主人のロドリゴも冒険者たちにエールを注ぎ、常連達に声をかけて回る。娘のパメラも焚火の上に鍋を設置して煮込み料理を用意していた。


「おう、店主。傷はいいのか?」

「ああ、シルリアーヌちゃんに治療してもらったからな、問題ねぇよ」

「しっかし、パメラちゃんは危なかったんだって? 無事でよかったよな」

「ああ、本当に良かったが……許せんのはレックスだ」


 愛娘の話題を出された店主の瞳に、めらめらと怒りの炎がともる。


「本当だよな、今回の魔物襲撃はレックスが犯人なんだって?」

「そうだ、王宮からも正式発表あっただろ? オレは実際見たから間違いないと思うぜ?」

「ああ、あのレックス(クズ)はパメラを盾にして近衛騎士を殺そうとした。シルリアーヌちゃんが来てくれなかったら、あの近衛騎士もパメラも俺も殺されてたかもしれん」


 憤懣やるかたない、といった様子の店主。

 その店主に、客の一人が「でもよう」と声をかける。


「レックスがクズなのはいいとしてもよ、魔物を操って王都を襲撃、ってどういう事だよ? そんな事した理由が分からんし、そもそも魔物を操る、っていうのが意味分からん。魔物が人の言うこと聞くわけないだろ」

「そう、それよ。オレも気になってた」


 皆が関心のある話題だったのか、ざわざわとし始める。

 レックスを心底嫌いになった店主は「それはアイツがクズだったからだろうよ」と吐き捨てるが、冒険者たちはいやいや、と首を振る。


「いやいや、それで片づけられる話じゃないだろ」

「そうだよな。襲撃した理由は単にアイツがクズだったからだろうが、魔物を操った方法、ってのは説明つかんだろ」


 首をひねる冒険者たちの中で、一人の冒険者が「これは噂だけどよ……」と口を開いた。


「なんか、魔族が王都に侵入していてクズに手を貸した、って噂がある」

「ハァ? 王都に魔族が? ウッソだろ、そんな話聞いたことねぇよ?!」

「ああ、事が事だからな。王宮から発表はないが、騎士の奴らには事情が説明されているらしい。衛兵の友人から聞いた」

「おいおい、じゃあなにか? レックスは魔族の協力で魔物を操って王都を襲撃した、ってのか? そりゃもうクズとかそういう次元の話じゃねぇぞ? 売国奴、神敵、そういうレベルだろ!」

「なんだそりゃ、意味分かんねぇ!!」


 冒険者たちから悲鳴が上がる。

 あの魔物の襲撃で失ったものは、あまりにも大きい。悲しみが癒えないうちに、その情報は衝撃だった。首謀者であるレックスへの怒り、憎しみが彼らの中で増幅されていく。


 だけどそんな感情も、聞こえてきた言葉でふっと霧散した。


「まぁ、そんなクズもシルリアーヌちゃんに成敗されたんだけどな」


 その言葉を聴くと、みなの顔に明るい表情が浮かぶ。


「そう! シルリアーヌちゃんが戦ってるの遠くから見てたんだけどよ、凄かったぜ!」

「あ、オレも見てた見てた! A級どころじゃねぇよ、S級だろ、あれ!」

「うああ~~、まじかよ、オレ見てねぇんだよなぁ。見たかったなぁ~~!」


 シルリアーヌ、という少女の話題になるとみなの顔に笑顔が浮かぶ。

 そして思い出されるのは、今日王宮であった式典の様子だ。


「はぁぁ~~、今日の式典のシルリアーヌちゃん、綺麗だったなぁ~~」

「ああ、いつもはかわいい、って感じだけど、今日は綺麗というか神々しいというか……なんか感動したわ」

「そうそう、ああ、本当に王女様なんだなぁ、って実感したわ」

「ああ、あんな娘が冒険者として俺たちと気軽に話してくれてるなんてな……」


 男たちの胸に訪れれるのは、温かい感情。


 シルリアーヌが王女だと知ってから距離を取ってしまった事もあったが、それは先日直に話をして解決した。親しい少女が遠い存在になってしまったかのような寂しさは、無いといえば嘘になる。

 だけど自分たちのために戦ってくれたシルリアーヌ王女が、自分たちの仲間だと、自分たちと繋がっているのだという事を疑うものはここにはいなかった。


「シルリアーヌちゃんこそ、次代の勇者だな!」

「ああ、間違いねぇ! シルリアーヌちゃんがいれば、魔族なんかに負けねぇ!」

「そうだ! 冒険者の底力、見せてやるぜ!」


 そして男たちは、欠けたカップを掲げる。


「乾杯!」

「シルリアーヌちゃんに!」

「シルリアーヌ王女殿下に、乾杯!」


 あちこちで上がる声と、掲げられるカップ。


「われらの王女殿下に、乾杯!!」


 そして男たちの夜は更けていく。


これにて第一部完結、最初に考えていたプロットまでは書き切ったことになります。

初めにプロットをいろいろ考えてはいましたが、正直そこまで書き切ることが出来るとは思ってませんでした。全然読まれなくて飽きてやめるだろうと思ってました。

でも、ここまで書くことが出来ました。


それもこれも読んでいただいた方、応援していただいた方のおかげだと思っています。

ありがとうございました。


第二部も書くつもりではいますが、なにぶんプロットがまだ全然出来てません。

なにか他の作品も書いてみたいですし、年内に開始できたらいいなぁ、くらいのイメージです。ですから気長に待っていただければ有難いです。


もう一度改めて、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 大変面白く一気に読んでしまいました 二部も期待しています。
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