第78話 対レックス4
「とは言ったものの……」
どうしよう、と考える。
ベルトランは言っていた。右手と左手で同じ、もくは別のスキルを発動して、それを武器の中で融合し強化して放つ、と。
「うーん……」
疾風たるファフニールを、正眼に両手で構える。
スキルはボクたちが自分の意志で制御している力じゃない。女神様に与えていただいた力で、発動すれば勝手に体が動き技を繰り出すようになる。身体の動きや技の軌道も、微調整は出来るけど基本的にはあらかじめ決められた動きしかできない。
……それを抑え込み二つ同時に発動し、しかも融合させ別の技として昇華して放つ。
……もしかして、とんでもない精神力が必要なんじゃないだろうか?
すぅ、と息を吸い、吐く。
もう一度吸い、吐く。
でも、やるしかない。
レックスを止めて、これ以上悲劇を広げないためにも、やるしかない。
ファフニールを正眼に構え、両手でぎゅっと握りしめる。
勝手に技が発動しないように、抑え込むように。
「いくよ……穿星突死――う、うわっ?!」
ボクの両手から込められたスキルの光が、剣に伝わっていく。
すると、とたんにがたがたと音を立てて震えだすファフニール。
手の中のファフニールは、今にも勝手に動き出そうと暴れまわる。ボクはそれを抑え込むので必死だった。
「こ、ここにもうひとつスキルを籠めるの? む、無理なんじゃ……いや、そんなこと言ってる場合じゃない」
ふるふると首を振り、睨みつけるように剣を見る。
でも、上位スキルふたつだとちょっとボクの手には余る気がする。もうひとつは下位スキルの方がいい。
「四連斬――くうううっ?!」
スキルの光がさらにもうひとつファフニールに伝わると、剣全体がさらに眩い光に包まれる。
今にも飛び出さんとがたがたと震える剣を、両手に渾身の力を籠め無理やり抑え込む。
な、長くは抑えきれないかもっ?!
リリアーヌたちの方を見ると、今にも押し切られそうな所だった。
「第四位階・剣炎おォォ!!」
レックスの手の中には炎で出来た巨大な剣。
その炎の大剣を振り回し、リリアーヌ達を追い詰める。
「死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ、オレは最強ナンだアあァッ!! 飛龍砕黎ううゥゥゥ!!!」
レックスがスキルを放つ。
スキルで放たれた衝撃波は炎を纏い、目標をリリアーヌに定め襲い来る。
「くううぅっ?!」
「リリアーヌ様あっ?!」
思わず硬直するリリアーヌと、そこへ駈け込もうとするエステルさん。
ここしかない!
そう思い、腕の中の暴れ狂う力を解き放つ。
瞬間
顕現する、流星――
視界を流星のような剣閃が埋め尽くす。
縦横無尽に飛ぶ剣光は幾何学的な軌跡を描き、あらゆる敵を断ち切らんと奔る。
「なァにイッっ?!」
幾重もの剣閃によりレックスの放った衝撃波は霧散。さらに流星の様な剣光はレックスに迫り――
「グがアアあッッ?!」
防御しようと突き出された炎の大剣がいくつもの剣閃によって吹き飛び、レックスの身体もずたずたに引き裂かれる。
「シルリアーヌ、助かったのじゃ!」
「お姉さま、今のすごかった、すごかったの!」
「シルリアーヌ様、上手くいったのですね?」
フォローしてくれみんなにお礼を言いながら、リリアーヌの横に並ぶ。
「レックス、もう観念してよ。出来たら荒っぽい方法じゃなくて、穏やかな方法がいいと思うんだ」
もう命を助ける事は出来ないのだとしても、荒っぽい方法で無理やり命を奪うより穏便な方法がいい。
そんな事を考えながら声をかけるけど、レックスはぎらぎらと昏い光を放つ瞳でボクを睨みつける。真っ赤に充血した瞳は涙のように血を流し、身体のあちこちに刻まれた裂傷からもどくどくと鮮血が流れ落ちる。
ぶくぶくと泡をふく口で、血を吐きながらレックスは叫ぶ。
「売女アああアぁッッ!! キサマ、何様のツモリだアアっっ!! オレは、オレハ最強ナンだアアっっ!!」
「レックス……」
そっと目を伏せる。
レックスは、もう駄目だ。
とても、とても悲しいけどそれは認めるしかないのかもしれない。
「忌々シイ売女がアッ!! 貴様さエ、貴様サえイナければアアっっッ!!」
レックスの身体から黒いオーラが吹き上がった。
「レックス、こんな事になっちゃって……ボクはとても、とても悔しいよ。纏渾轟臨――」
ファフニールを両手で持ち、正面に構える。
「オレハ最強、S級ダアあっッッ!! 世界最強ナンダあアアッッ!!!」
爆発的に溢れ出る黒いオーラはとぐろを巻き、ばくんと口を開き、炎の竜を形作る。
「そうだね、レックス。ボクはレックスはいつかS級に至れると思ってたよ。佑より穿星突死――」
やることは、さっきと同じ。
右手を通じて剣技スキル、ペネトレイション・エアラリスの光をファフニールへ。
「どイツもコイつも、オレを認メなイ、オレの足ヲ引っ張リやがッテえぇェェっ! 第二位階・竜焔轟!!!」
空を埋め尽くさん勢いで舞い上がる、ボクたち四人を一瞬で飲み込めるほど巨大な炎の竜。
「ボクは少しでもレックスとみんながうまく纏まるようにしてたつもりだけど……力不足だったならゴメンね。佐より四連斬――」
左手を通じてファフニールへと注がれる、オービット・クアッドの光。
二つの剣技スキルの祝福を注がれたファフニールが、神々しい光を放つ。
「認メロ、認メロ、認メロ、オレヲ、オレを認めロオおォォォッッ!!!」
ボクたちを焼き尽くさんと舞い降りる炎の竜。
「初めから認めてたよ、ボクは。断て――流星伐征!!」
そして地上に降臨する無数の流星。
幾重にも奔る流星のごとき剣光が、炎の竜をずたずたに引き裂く。
そして無数の剣閃は霧散する炎の竜を置き去りにし、レックスへも殺到する。
「グあアアああッッ?!」
あちこちから鮮血を吹き出し、レックスの身体がぐらりと傾く。
ごめんね、レックス――
とんっ、と数歩踏み込み、レックスの懐へ潜り込む。
そして、レックスの胸にファフニールを突き刺した。
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