第1話 追放
自分が読みたい、と感じる女装主人公ものが案外少ないので自分で書き始めました。
完全にどストレートな話にしようと思ってます。
地を揺るがすような咆吼が響く。
暗い縦穴に閉じ込められた空気が、びりびりと振動するような感覚。
ごつごつとした鱗に覆われた見上げるような巨体で、ベテランの冒険者であっても一生に一度見るかどうかのA級モンスター、ドラゴン。それが、ボクたちが隠れている巨石の向こうで咆吼を上げていた。
ここは王都近くで最近見つかった、最深部に聖遺物があると噂されているダンジョン。
そこにボクたちA級冒険者パーティー『勇者の聖剣』は挑戦していた。
「くそっ、ドラゴンが出るなんて聞いてないぞ!」
レックスが舌打ちして、イライラと剣の柄で巨石を殴りつけた。
目の前のドラゴンは、ランドドラゴンと呼ばれる種類のドラゴンだ。
空を飛ぶ翼が退化し地上や地中深くに住むドラゴンで、空を飛ぶことは無いのと翼を持つドラゴンよりも一回り小柄な事が特徴。矢や魔法も届かない空の上からブレスを放ってくるようなドラゴンと違い、比較的与しやすい事からドラゴン種の中ではランクの低い魔物だと言われている。
とはいえ、それはあくまで他のドラゴン種と比較して、という話。
大きさだって、ほかのドラゴンより小柄と言ったって、見た感じ5メートル以上はある。
そこらに徘徊している魔物とは一線を画す存在であることは間違いないので、レックスが怒るのも無理ない、と思う。
レックスは、上位職パラディンの天職を持つA級冒険者で、パーティーのリーダー。すこし言葉がキツイ事もあるけど、肩にかかるくらいのサラサラの金髪が綺麗なスラリとした体形の美丈夫だ。20歳をすこし超えたくらいなのにA級パーティーを率いるスゴイ人だ。
「このダンジョンの事を聞いてきたのはシリルだったんじゃないのか!」
レックスの怒鳴り声に、思わず身がすくむ。
ボクが聞いてきたのはうわさ程度の話でどんな危険があるかは分からないと言ったし、それを聞いて「今すぐ挑むべきだ」と言い出したのはレックスだったと思うんだけどなぁ。
シリル、というのがボクの名前。
辺境の小さな村出身で家名は無しの、ただのシリル。15歳、男。
歳のわりに小柄で童顔な事が悩みの、どこにでもいる田舎者。
ボクは冒険者になる事を夢見て、両親の反対を振り切って村から王都まで出てきた。
そこでボクが出会ったのは王都で当時話題の、魔王を倒す者の称号である「勇者」に一番近いと言われていたA級パーティー「勇者の聖剣」。この人たちと一緒に戦いたいと思ったボクは、頼み込んで下働きや荷物持ちでもいいからとパーティーに加えてもらう事にしたんだ。リーダーであるレックスは、上位職パラディンの天職を持っていると、もっぱらの評判だったから。
冒険者になるきっかけを作ってくれたあの人にも筋がいいと褒められたし、女神様の祝福である天職無しでも頑張れるんじゃないか、そんな風に考えていた。
それは、間違いだったんだけれども。
「やっぱ使えないな、オマエは! 雑魚職なんかをパーティーに入れるんじゃなかったよ! いつもいつも上位職パラディンのオレの足を引っ張りやがって!」
「ご、ごめんなさい……」
レックスの怒声に、謝罪の言葉と一緒にぺこりと頭を下げてしまう。
ボクは、天職を最下位職であるファイターである、ということにしている。
ボクは持っている天職を誰にも知られたくなかった。だから、身体能力の強化の祝福が一番少ない最下位職なら嘘をついてもバレないのではないかと思い、そういうことにした。冒険者でもF級やE級なら天職がファイターである人も少なくはない、と聞いていたから。
でもダメだった。
ボクは何をやってもダメで、全然パーティーの役に立てていない。
自分なりに頑張ってはいるのだけど、何をやっても他の人たちには全然およばない、役に立てない。他の人がさっとこなしてしまう事もすごく時間がかかってしまうので、いてもいなくても同じなんじゃないか、そう思ってしまう。
戦闘だって荷物持ちだって料理だって頑張ったけど、全然上手くいかなくて怒られてばかり。
「その灰かぶりを連れた来たのはレックスだったのでは? 私は所詮クズはクズ、役に立たないから止めた方がいい、と助言したはずだが?」
眼鏡をくいと上げ、フンと鼻を鳴らしたのは中位職プリーストの天職を持つオスニエル。
ちょっと神経質な感じのする、パーティーで一番の長身の高位神官だ。いろいろな神聖術で回復や防御を行う重要な役割を果たしているうえに、戦術などの考案もしているパーティーの頭脳でもあるとっても頭の良い人だ。
オスニエルもボクにきつく当たってくるので、ちょっと苦手だ。
ちなみ灰かぶり、というのはボクの事だ。ボク髪の色はくすんだ灰色で、毎日忙しく夜はすぐ寝てしまうせいで、いつの間にか伸びてしまった髪を後ろで適当に結んでまとめている。
それはあまり褒められた容姿ではないみたいで、馬鹿にしてそう呼ばれる事がある。
これも役に立たないボクが悪いんだから、こんなことを思ってはダメなんだろうけど。
「ちっ、ギルドからも頼まれたんだよ。断ったらオレの評判に傷がつくだろうが」
舌打ちするレックス。
やっぱりそうだったんだ、と胸がずきり、と痛んだ。
僕みたいな役立たずがA級パーティーに思ったよりあっさり入れたから、そうじゃないかと思っていたけど。
「そんな事より、どうする。ここを抜けんと外に出られんぞ」
ドラゴンから目を離さず、低い声で呟いたのは中位職重剣士の天職を持つダグラス。
歳は30をちょっと超えたくらい、茶色の髪でボクたちのパーティーで最年長、筋骨隆々の巌の様な重剣士だ。その漢らしい体はボクのあこがれだし、このパーティーでは一番ボクに優しいのでそんなに嫌いではなかった。
そして、ダグラスの言ったとおり、目の前に広がるダンジョン内の広場の様なスペース、ボクたちはそこを通ってきたんだ。その時にも魔物はいたけれど、ドラゴンの姿なんて見えなかった。
奥に進み中を探索して、食料や水が心もとなくなってきたので一旦外に出よう、となり来た道を戻っていた時、ドラゴンに遭遇してしまった。
今はまだドラゴンには見つかっていないけど、このまま隠れていてもいつか見つかるかもしれないし、そもそもドラゴンのいる場所を通らないと外に出ることも出来ない。
「そうよ、そんなクズのことなんか考えたくも無いわ。私は早く屋敷に帰ってお風呂に入りたいんだけど?」
爪を噛みながらイライラとした声を出したのは、中位職ウィザードのミランダ。
いろいろな精霊術で魔物をなぎ倒す、ボクたちパーティーの紅一点。上位精霊術ももちろん使えるけど、一番得意なのは下位下段ファイアボールを無数に出現させて飽和攻撃をしかけることだ。何度も見たけど、底なしの精霊力をもっているんじゃないかとビックリした。
赤く長い髪が綺麗な女性で、なんと彼女はパーティーで唯一家名を持つ貴族だ。
正式な名前は教えてくれなかったけど伯爵様の末娘で、それはそれは可愛がられてるみたいで彼女は聖遺物である聖杖「創炎たるリンドヴルム」を持たせてもらっていた。
買ったら金貨何百枚になるのか想像もつかないその聖杖を、彼女はいつもいつもボクたちに自慢するのだ。
もっとも、そのせいでレックスが対抗心を燃やして、自分用の聖遺物を手に入れるためにこのダンジョンに潜ろうと言い出したんだけど。
「……まともに戦うのはマズイか。まぁ、パラディンであるこのオレが負けるとは思えないが……」
ぶつぶつと呟きながら考え込むレックス。
そしてレックスが、にやり、と笑みを浮かべる。
……あ、これは悪い予感がする。
ボクをいじめたりする時に浮かべる笑いだ。
そう思ったボクにレックスが言った。
「シリル、お前はパーティーを追放だ」
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