3話.魔法
今更になるが、私は魔法が使える。
信じられているからこそ、魔法が使える時代である。
それでも使えるのは一部の人のみ。
一応貴重なものだ。
使えば有名になれる。貴族にだってなれるだろう。
だが、私はほとんど使わないことにしている。
なぜなら、
有名になれば、私が不老不死であるとバレてしまう。いつまでも老けないと、皆怪しがる。
そして不老不死が知れ渡ってしまえば、研究者に解剖されてしまう未来が見えているからである。
......まぁ実際どうか知らないけれど。
コンコン、と扉をノックする。
「誰です?」
扉の向こうから清さんらしき人の声が聞こえた。
「十夜です」
「あぁ、入ってくれ」
(良かった部屋あってた)
洗い物が終わったので、十夜は清さんの部屋に来た。
部屋の場所の説明が結構雑で十夜は少し迷った。
「失礼いたします」
ガチャリと扉を開け、中に入る。
(これまた広い部屋だな)
大きなテーブルが真ん中に置いてあり、壁に付ける形で机が置いてある。机の上には大量の紙があった。
豪華だけれど、客間よりもずっとシンプルな色合いの部屋だった。
なんというか、少し落ち着く。
清さんはテーブルにくっつけるように置かれたソファを指さして、
「ここに座ってくれ」
と言った。
「はい」
言われた通り座る。
清さんは書類のようなものを持って向かい側のソファに座る。
(...これから何すんの?)
いざ来ると十夜はなんだか怖くなってしまった。
清さんは書類のようなものをペラペラとめくっている。
待ち時間がもの凄くしんどい。
何か声をかけようか、と十夜が思っていると、
清さんがぱたりと書類を閉じた。
そして、
「やっぱり!」
と叫んだ。
「? どうされました?」
十夜は少しびっくりしたものの、冷静に聞いた。
「昨日契約した人、お前しかいなかったんだ」
「...?そうなのですね」
(1日に何人も来るもんなのか?)
「つまり、お前が、士郎を助けた人ってことだな?」
「ええ、そうですが」
さっきと雰囲気が違う清さん。なんだか、はしゃいでいるみたいだ。
そして清さんは目をキラキラさせながら言った。
「話してみたかったんだ。空飛ぶ少女と」
「?! いえ、私、空は飛んでおりませんよ」
(急に何言うんだこの人)
それに少女なんて歳じゃないし。まあ確かに見た目は14、15歳くらいだけど。
十夜が冷静につっこむと、清さんは少し呆気にとられたような顔をした。
「え、そうなのか?」
「はい、私は地面から勢いつけて跳び上がっただけ。空を飛ぶと言うと少し語弊があるかと思います」
「そうなのか...って、あの高さまで跳んだというのか?20メートルだぞ?」
「はい、その通りです」
(そもそもどっから聞いたんだその話。まあさしずめ満子さんから、とかかな)
清さんはさらに熱が冷めたような顔をする。
十夜の返しが冷静すぎてつまらなかったのかもしれない。
「そりゃあ、びっくりだな...」
「そうですか」
「うん...」
「.....」
「.......」
(...気まずっっっ)
話すことが無くなったみたいで、清さんも無言になってしまった。目上の人と会話に詰まるなんて、この上なく気まずい。
「...あの、要件は話すこと、でしょうか?」
「え、あぁ、まあ」
「では、もう失礼してもよろしいでしょうか」
(こういう時は逃げるが勝ちだ。もう話すこともないだろう)
そう思い、十夜が立ち上がろうとすると、
「あ、すまん、待ってくれ。ひとつ聞きたいことがあるんだ」
(先に言えよ)
口悪いことを考えた十夜だったが、とりあえず座り直した。
「何でしょう」
「えーっと、もしかしたら失礼になるかもしれないし、...違っていたら申し訳ないが」
「はい」
はっきり言わない清さん。失礼なことを聞くつもりなのか?と十夜は考える。
まあたとえ内容が失礼でも、貴族が使用人に聞くのは失礼にあたるかは分からないが。
(どうでもいいけど、さっさと言ってくれよ...)
「お前、魔法使えないか?」
「─────!」
急に、そんな質問をされて
思わず十夜はびっくりと同時に固まるのだった。