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妖精と王子様のへんてこワルツ  作者: 魚野れん
何なら私と……!

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9

 ……最悪だ。青い染料を滴らせながらエルフリートは反省していた。ロスヴィータを強く抱きしめたおかげで彼女が青い染料をほとんどかぶらずに済んだのは、不幸中の幸いと言って良いのだろうか。

 そう思ってしまうのは、彼女がエルフリートの動きを完全に読み、罠にはめた張本人だからである。

「騙してすまなかった」

「……ううん。ロスが私に『助けてくれ』って言うなんて不自然極まりないのに乗っちゃったんだもん。自業自得だよ」

 味方の時だって、助けてくれと言われた事はない。なのにどうして乗ったのか。


 ロスヴィータなら、あの高さからであっても受け身をとれただろう。なのに助けてしまったのは自分の甘さだ。

 人の事を言えたものではなかったな、と少し前の自分を思い出す。

「あー、悔しい!」

「今回は騙し合いだったな」

「全部読まれてたのが悔しい」

「気が付いた時点で突き放してくれて良かったのに」

 染料のせいですっかり顔色が悪くなってしまったエルフリートの顔を見ながらロスヴィータが苦笑する。


「しないよ。私は魔法で隠せるけどロスは隠せないでしょ」

「でも、私は敵だったんだぞ」

「……敵だけど、ああなったら二人とも離脱しかないし。敵味方関係ないかなって」

 守りたかった、なんて言ったら困らせてしまいそうで。それっぽい言い訳を口にする。

 彼女を守れるのはあと少し。そしてまだ、ロスヴィータからの返事はない。つまり、そういう事だろう。

 ちょっと寂しいけど、この繋がりだけでもありがたいと思うべきなんだよね。

「それもそうか。ならば、私は純粋に感謝した方が良いな。フリーデ、ありがとう」

 ロスヴィータの笑みがまぶしい。なんだか全てを見透かされてる気がする。この話題はこれでおしまい。


 攻防戦の残り時間はそう多くはないし、敵味方関係なくなった今だからこそ聞ける事がある。

「結局、どんな作戦だったの?」

「ああ……実に簡単だよ」

 エルフリートが聞けば、ロスヴィータはそう言って教えてくれた。エルフリートが攻めてくるかどうかで作戦が決まる事になっていた。

 エルフリートが攻めてくる場合は旗が奪われる可能性がぐんと上がる為、ロスヴィータたちは主戦力として旗守になり、戦力外のメンバーが旗を取りにいく予定だった。


 エルフリートが攻めてこない場合は旗を持つ“おとり”として建物の中にいるはずで、そう考えると大立ち回りの邪魔になる旗は『屋敷の外という判定にならない外』にある可能性が高い。おとりに引っかかったと思わせる為、少数の旗取り人員を控えさせてロスヴィータたちが攻め込む。

 そうなれば、後は自分たちの旗が取られるのを防ぐだけである。つまり大多数が屋敷の守備に回るという訳だ。


「実はあの屋根にレオンハルトが率いる小隊がいたんだ。だから、私が屋根のトラップを一通り作動させて飛び降りた後、旗の回収に動いたはずだよ」

「えー、じゃあ負け確実かぁ」

 エルフリートは脱力してごろりと横になった。

 少し体を動かしただけで離脱する事になってしまった今回の演習は、不完全燃焼のまま終わってしまいそうだ。

「まあ……一騎当千のブライス軍を我々の隊長が制す事ができるかが、私には疑問だから何とも」

 意外にもロスヴィータは自信がなさそうだ。


 聞くにはブライスの隊はかなりの強豪らしく、本人(エルフリート)が知らないだけでエルフリート並の人間がごろごろといるらしい。

「引き分けになれば合戦が待っている。そうなれば、私たちはまた敵同士になるな」

「うん。真っ先に倒しに行ってあげる」

「勘弁してくれ、あなたは手強すぎる」

「ふふふ」

 結局、エルフリートとロスヴィータが合戦に参加するまでもなく、ブライス軍がロスヴィータの仲間を圧倒的な戦力で蹂躙して終わったのだった。




「フリーデ、お前の犠牲は忘れないぜ」

「屋根から落っこちた敵をかばって一緒に死ぬたぁ思わなかったけどよ……まあ、フリーデがいたから勝てたって相手に言われるよかマシかね」

 戻ってきたブライスが泥だらけの手でエルフリートの頭をがしがしと撫でた。もともと乱れ気味だった編み込みがぐちゃぐちゃになるが、悪い気はしない。

 ブライスの無骨な部下たちも次々とエルフリートを乱雑に撫でていく。


「王都にいながら、ほとんど訓練場にいないから一緒に戦える機会があって嬉しかったよ」

「アントニオ隊長を罠にかけた瞬間見たかったなぁ」

「あ、俺罠にかかってるアントニオなら見たよ。バルティルデ嬢の下敷きになって暴れてておもしろかった」

「くっそー屋敷護衛にしときゃよかった!」

 好き勝手言う騎士たちと、エルフリートは大きな声で笑いあった。


 その一方で隣にいるロスヴィータは作戦を一緒に組み立てたケリーに謝られていた。

「せっかく体を張ってくれたのに勝てず、すまなかった」

 ケリーは騎士団副総長で、騎士団の参謀役を務めている策士である。そんな彼に頭を下げられて彼女は居心地が悪そうだった。

「いえ、良いんです。とても楽しかったので。

 それに私、あのフリーデに悔しいって言わせただけで十分です」

 一気に視線がロスヴィータとエルフリートに注がれ、次の瞬間には騎士団全員が大笑いしていた。

2021.6.26 誤字修正

2022.6.22 誤字修正

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