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妖精と王子様のへんてこワルツ  作者: 魚野れん
何なら私と……!

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8

 アントニオとバルティルデのコンビは手強かった。エルフリートの動きを把握しているバルティルデが先回りし、絶妙な攻め方が特徴のアントニオが迫ってくる。やっかい以外のなにものでもなく、エルフリートは必死で屋内を駆けずり回った。

 階段付近のトラップは後少しという所でかわされ、途中の部屋にあるトラップは防がれてしまった。時折剣を交え、逃げる。エルフリートはトラップを発動させながら逃げていた。


「ちょっこまかと!」

「やぁん、バティがこわぁい!」

 度重なるトラップに追跡者たちはいらついているようだ。精神的余裕をすり減らしていくのは作戦の一つである。ここまで追いかけたのだから、という心理を利用してエルフリートに意識を向けたままにさせておきたいのだ。

 あわよくば、トラップに引っかかって離脱させたい。エルフリートはまだ使われていないだろう玄関付近のトラップに向けて方向転換するのだった。


「旗を持っている限り、この建物からは出られない」

 アントニオが呆れた声を出した。その通り、エルフリートは“旗”を手放さなければこの建物から出られない。そういうルールだ。これが本物の旗ならば、であるが。

 しかしエルフリートが一歩出た瞬間、彼が持っている旗が偽物であると自ら証明する事になってしまう。

「私が攻めに転じるとは思わないの?」

「旗を持っている限り、そんな不利な事はしないだろ」

「うーん、分かってるぅ。けど、はずれ!」

 旗を片手に剣を抜く。剣は目くらましだ。何度か剣を交え隙を見つけてバルティルデをアントニオに向けて投げ、追い打ちに魔法を放つ。


「善神よ、我に追い風、敵に向かい風!」


 ごぉっとすさまじい突風が吹く。アントニオはバルティルデを受け止める事はできたが突風にはかなわなかった。彼は突風に押し出されるようにして玄関から追い出される。そして、その追い出された先には引き上げ縄のトラップが仕掛けられていた。

「うわああぁぁっ」

「くっそぉぉぉ!!」

 ひょぅっと縄が引っ張られる音に雄叫びが混じる。これは即死トラップじゃないけど、仲間が来てくれるか自力でどうにかするまではこのままなんだよね。見せしめにもなるし、一気に何人もひっかけられるから一石二鳥以上の価値がある。


「ルールは守ってるよ」

 エルフリートの声はきっと二人に聞こえていないだろう。良い感じに一括りにされた二人は不安定な網の中で、もごもごともみ合っている。これでしばらくは安泰だね。

「バティ! アントニオ!」

 頭上から声が響いた。聞き覚えのあるその声はマロリーである。という事は、もしかしたらマロリーともう一人がバルコニーの方にいるのだろう。

 玄関が見える場所、それもこの建物の中と言えばバルコニーか屋根しかない。

 よし、マロリーたちを戦線離脱させに行こう。ひとまずバルコニーに向かって移動すれば途中で落ち合うだろうとエルフリートは走り出した。


 何と、マロリーはキャンベルとペアを組んでいた。ロスヴィータだったら良いな、というエルフリートの思惑がはずれたのと同時に一番ありえない組み合わせだったというのもあって、驚きの余りに動きを止めた。

 あっと思った時には、マロリーとキャンベルの二人は目の前にいた。

「おっと」

「旗を持って移動なんて、考えたじゃない!」

 身を翻してキャンベルの攻撃を避ける。建物は広い。簡単には遭遇できない。現にエルフリートがバルティルデアントニオペアと追いかけっこをしている間、マロリーキャンベルペアには会わなかった。


 エルフリートは近づいてきてくれた機会を逃さず、一気にキャンベルをトラップに向けて投げ込んだ。うーん、キャンベルはもう少し能力を伸ばすべきだなぁ。

「……あっけない」

「……だから組みたくなかったのよ」

 エルフリート以上にがっかりとした様子でマロリーがため息を吐いた。敵の前で気を抜くなんて、まだまだ甘いね。

「人のふり見て我がふり直せ、ってね」

「しま――っ」

 マロリーの真横にあるトラップにキャンベルの持っていた剣を投げて作動させる。


 マロリーは避ける間もなく天井に設置されていた即死条件が入った袋の落下に巻き込まれた。

「うわ、真っ青……すご」

「ちっ」

 わなわなと身体を震わせる真っ青なおばけがいる。大きな舌打ちをしたマロリーの視線が強い、そそくさとバルコニーのある部屋に身を隠す。

「余裕ぶってるのも今の内よ! 本物の旗は今頃ないかもね?」

「まさかっ!」

 マロリーの悔し紛れの声にはっとする。もしかして、隠し場所がばれてた!?


 バルコニーから屋根を見れば、風見鶏がくるくると回っている。そしてその近くには見慣れた姿が。

「あ」

「ロスっ!」

 まずい、そこには最後のトラップが――。ばれてしまったのなら一気に奪って逃げ出さなければならない。ロスヴィータがそう考えるのは当然だし、エルフリートがロスヴィータの立場だったら同じ行動をしただろう。

 つまり、エルフリートの予想通り一歩下がってトラップを踏んだのである。エルフリートは仕上げと称して屋根にあらゆる事を想定したトラップを仕掛けた。これらを避けるのは至難の業だ。

 しかしそこはロスヴィータ。器用に避けていく。が、避けた先もまたトラップが仕掛けられていたに違いない。


「うわっ、何だっこれ! くっ」

 トラップで死ぬ事はないが、場所が場所なだけに不安だ。ロスヴィータが立ち回る気配と彼女の声がバルコニーにいるエルフリートの方にも聞こえてくる。

 その時。

「フリーデ、助けろっ」

 彼女の声と同時に頭上を飛び越える姿が見えた。屋根から飛んだ? いや、違う! 避けようとして落ちたんだ。エルフリートは瞬間的に安全なトラップの場所を選び、ベランダからロスヴィータめがけて飛んだのだった。

 落下中のロスヴィータを抱きしめると、彼女が小さく呟いた。

「悪いが、これでこちら側の勝ちが確定したな」

 エルフリートは、自分たちの動きが完全に読まれている事を知った瞬間だった。

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