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妖精と王子様のへんてこワルツ  作者: 魚野れん
何なら私と……!

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3

 マロリーはバルティルデの説教を聞く羽目になっていた。

「あんたには女性騎士団の一人であるという自覚はないのか?」

「あ、あるわよそれくらい!」

 バルティルデたちは勘違いしている。だが、それを指摘するつもりはない。マロリーはただ、自分の能力向上に勤しんでいるだけなのである。


 エルフリーデがエルフリーデではなかった一件については、何となく気がついていたし、それが策略でなければ良いとさえ思っていた。だから、正体が分かってすっきりした。マロリーにとってはそれだけである。

 男で、それだけ見込まれてここにやってきている実力者なのだから、容赦なくできる。そんな風にすら思っている。周囲に嫌がらせだと勘違いされている奇襲は、そういう考えから始まった“自主練”であった。


「なら、今回のあれはどういう事だい」

「う……それは、ちょぉーっと考えが甘かった、からかな」


 前回は一点集中だったから、今度は陽動を加えた二段階攻撃にしようとしたのである。前回と同じと見せかけて、エルフリートに範囲攻撃を仕掛けたのだ。が、エルフリートは属性弱化の結界も張っていたらしく氷の刃は一瞬にして水となったのであった。

 もちろんその水は結界に吸収される事なく周囲へ散らばった。つまり、エルフリートの周囲が水浸しになったのである。バルティルデが怒っているのは、その件であった。

「ちゃんと片づけたじゃない」

 そう、しっかりと片づけたのだ。魔法も使って完璧に元通り。しかしその現場はバルティルデに見られていた。


「いい加減にフリーデを認めなよ」

「うるさいわね……ちゃんと認めてるわ」

「なら、何で!」


 バルティルデはマロリーが思っているような個人主義者ではなかった。むしろ、協調主義者である。傭兵なんて存在は協調性など不要だという考えはマロリーの思いこみだった訳である。

 バルティルデは手加減してくれていた。それは彼女が掴みかかってこない所から何となく察せられる。そうしないように己の拳を強く握って耐えている事にもマロリーは気がついていた。


「手加減しなくて良いって分かったから、遠慮なく胸を借りてるだけ」

「は?」

 バルティルデがいつになく険悪な声を出す。さすがに長身の彼女に上からにらまれて恐ろしく感じないほど鈍感ではない。

「たぶんだけど、フリーデは私を育てようとしてくれてるもの」

 半信半疑な視線を投げかけられるのは仕方ない、とあきらめる。だが、エルフリートの事をちゃんとエルフリーデと呼んでいる時点で気がついてほしい。

 本当に許せなかったら、認められなかったら、今頃上に暴露している所であるというのに。


「フリーデ、時々アドバイスをくれるのよ。まるで、もっとうまく攻撃してみせろって、言ってるみたい」

「はぁー……」

 このため息はどの意味だろうか。マロリーはバルティルデの一挙一動を観察する。心なしか、拳に込められた力が弱まっているように見える。肩の強ばりも治まっているし、これは気を静める為のものだったか。


 マロリーは気を引き締め直し、バルティルデの手を握った。

「私、こう見えて彼女の事尊敬してるの。だから安心して?」

「……分かったよ。信じる」

 その場限りに言っている訳ではない。エルフリートは得がたい人間である。マロリーだけではなく、バルティルデやロスヴィータにとっても、彼は大きな役割を果たしてくれている。

 女性騎士団の今後を思えば、もうしばらく身分を偽ってでも居座ってほしいくらいである。


 エルフリートほど、女性騎士団の事を考えてくれている人間はいないのではないだろうか。マロリーはそんな風に思っていた。

 初めの頃こそ疑心暗鬼になりかけていた。だが、これほどまでにロスヴィータの事を思い行動する姿を見れば、そんな気持ちは失せてしまった。

 彼の名誉や人生をかけた取り組みに報いる為、マロリーはマロリーなりに考えているのであった。


「断トツの……他と比較できない強さを手に入れたいの。きっと私ならできるわ」

「そ、そうか」

「ええ。女性だから、とかではなくやれる人なら性別関係なく選択できる職業にしていきたいの。男たちの騎士団のようにね」

 まずは女性にしておくには惜しい、を目指すつもりだ。そんな人間が増えれば、空気は変わっていくだろう。男性が役に立たないとか、そういう話ではない。“できる人間がやる。”そんな世界を目指すのである。


 エルフリートなんか、エルフリートとしてここに現れれば箔がついただろうに、妹として生活している為、何の実績にもならない。

 ただ、ロスヴィータの為。それだけでここにいるのである。負けていられない。マロリーはバルティルデに好戦的な笑みを投げかけた。

「私たち、新しい価値観の礎になるのよ。あの子にだけ任せてのんびりなんて、してられないわ」

「そりゃそうだ。意外にもマリンって真面目で熱血だよねぇ」

「何よ、私を何だと思ってるの?」

 マロリーの問いかけにバルティルデが笑う。そのニヒルな笑みに嫌な予感が走る。


「ただの魔法戦闘狂、いわゆる狂気の魔女だな」

「ひどいわ!」

「ははっ、私たちは見捨てないよ!

 見ている分には面白いからねえっ!」


 けらけらと笑うバルディルデは颯爽と逃げだした。夕食の時間帯まで楽しそうに追いかけっこをする二人の姿は、エルフリートを大いに笑わせ、ロスヴィータの頭を大いに悩ませるのだった。

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