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妖精と王子様のへんてこワルツ  作者: 魚野れん
何なら私と……!

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1

「……妖精と王子様のコンビ、調子悪そうだな」

「王子様誘拐事件から変な空気なんだよなぁ」

「あのコンビだけじゃなくて女性騎士団全体が、だろ」

「あの憂いの表情からの笑顔……健気で可愛い。俺、エルフリーデ嬢に告白しちゃおうかな」

「んなバカな事言ってないで訓練集中しろ!」


 ロスヴィータ誘拐の一件から、エルフリートは微妙な立場に立たされていた。エルフリートの女装がばれてしまったのが大きな原因である。

 ロスヴィータの安全が確保されて気を抜いてしまった自分が悪い。エルフリートは誰にも分からないくらい小さなため息を吐いた。

 彼女たちへの説明は済ませたものの、反応が分かれてしまった。意外な事――いや、むしろ予想通りか――バルティルデは全く性別の事など気にしていないらしく、今まで通りに接してくれる。

 が、マロリーはたびたび睨んでくるし、突然陰湿な魔法を仕掛けてくるようになってしまった。


 訓練以外での団員への魔法行使は基本的に禁止されている。それを破ってまでやっているのだから、彼女の中に相当な怒りがため込まれているのだろう。

 ロスヴィータの方は、完全に沈黙である。業務では普通に接してくれるものの、それ以外ではぎこちない。

 無視される訳ではないけど、ずっとこんな感じだったら嫌だなぁ。エルフリートはロスヴィータが視線を逸らす度、寂しく思うのだった。


 ロスヴィータとの生活は残りわずかである。あと一ヶ月を切った今、こんな寂しい生活を続けるのは嫌だ。エルフリートはロスヴィータとの微妙な関係を一方的に断ち切る事にした。

 ロスヴィータにだって、考える時間は必要だと思って好きなようにさせていた。が、何かを言おうとして口をつぐみ視線を逸らす、という事をされ続けていて限界だった。


「ロス、ちょっと良い?」

「あ、ああ……何だ?」

 何でもないように執務室に入る。ほかには誰もいない。人払いをせずに済んで良かった。仕事の事だと思っているのか、ロスヴィータは騎士団長っぽく振る舞っている。

 やっぱり格好良い。

「……何か深刻な事案でも発生したか?」

 話を切り出さないエルフリートに、ロスヴィータが眉をひそめた。エルフリートは覚悟を決め、その場で膝をつく。

 全面的にエルフリートが原因なのである。それ以外にはありえない。偽りの存在だったけど中身は本物で、ついでに他の人間と結婚するくらいなら自分にしてほしいなどと言われれば頭にくるはずだ。


「思ってる事、全部言って。どんな罵詈雑言だったとしても聞くから。

 全部受け止めるから。私が原因なのは分かってる。

 何なら私の事殴っても良いよ。ロスの気が済むまで、何しても――」

「ちょっと待て!」


 がたんと勢いのある音を立てながら椅子が倒れた。両手を机にたたきつけるような格好をした彼女の表情には、驚きと戸惑いが混ざり合っていた。

「どうしてそうなる!?」

「えっ?」

 ロスヴィータの指す“そう”が何の事なのか分からなかった。ひざをついたままぽかんと見上げていると、軽々と机を乗り越えて目の前にやってきた。気まずそうな視線が送られる。

 エルフリートが考えていたものとちょっと違う。内心で首を傾げた。


「普通は返事をくれ、とかじゃないのか」

「えっ、ああっ、それはそうなんだけど、でも突然親友が女装してた男だったり誘拐された直後だったりして気持ちの整理なんかついてないと思ったのよ。

 だから騙されていた怒りをまずはぶつけてもらおうかと」

「……あなたの思考が分からん」

 ロスヴィータのむっとした顔につられるようにエルフリートの表情も変わる。エルフリートにとって、そういう配慮もできない男だとロスヴィータに思われていた事こそが不服だった。


「私、そんなに自己中心的な人間じゃないもん」

「それは分かっている」

 即答されるのは嬉しい。

「だからこそ、悩んでいるんだ」


 エルフリートには何に悩んでいるのか見当もつかない。ただ、ロスヴィータが真剣に考えている事は伝わってくる。

「言いたい事とかある?」

「今はない!」

「うん」

 どうやらまだ何も言うつもりはないみたい。残念だけど、彼女の気持ちは大切にしたいから頷いた。


「だが、変な態度は改める。悪かった」

「えっ」

 エルフリートが顔を上げれば、ロスヴィータは苦笑していた。

「気持ちの切り替えが下手ですまない」

「悪いのは私だから!」

「何でもあなたのせいにはしないよ」

 真摯な瞳に射止められ、エルフリートの体が固まった。エルフリートの好きな碧眼がきらきらと煌めいている。

 ああ、好きだなあ……誠実な人柄がその瞳にあらわれている。


「……だから、泣かなくて良い」


 くい、っと指で拭われて気がついた。瞬きを繰り返して潤んだものを引っ込める。

「……これは違うもん」

「はいはい。じゃあ、仕事に戻るね?」

 こんなに涙もろくないはずなのに。エルフリートはぐっと口元に力を込めた。

「仕事に戻る」

「ああ、頼んだ」

 ロスヴィータが小さく笑い、それに口をとがらせる。……もう良いもん。エルフリートは目に力を入れて涙を完全に引っ込めた。

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