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妖精と王子様のへんてこワルツ  作者: 魚野れん
王子様、お家騒動に巻き込まれる

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17

 いつか見た、狩る者の目がロスヴィータを射抜く。向けられているのは今度こそ自分である。だが、今度は瞳が美しいだけで、恐ろしいとは感じなかった。

 むしろ、この視線どこかで……。

「どうしてそういう“おイタ”するかなぁー」

 眉をつり上げて「めっ」と言うと、エルフリーデは破顔した。

「そういう余裕が出てきたのは嬉しい事だけど」

 ロスヴィータが瞬きを繰り返している内に上半身を起こされる。思い出しかけていた何かはすっかり遠くに行ってしまった。


「ふざけるのは、脱出してか――え?」


 ゴアァァァッ! エルフリーデのお説教は轟音にかき消された。エルフリーデが顔を上げたのにつられるようにしてロスヴィータもそちらへ顔を向ける。

 いつの間にか、瓦礫がなくなっていた。

「ちょっとぉ……私たちの事、何だと思ってるのー!?」

 エルフリーデが目を見開いている。先ほどまで瓦礫の山だったはずの結界の外は、彼女による魔法で――はなく、瓦礫の山の外側からの攻撃で消滅したらしい。

 すっきりと更地になった視界の隅には、こちらに駆け寄る人影がいくつか見えた。


 その人影の遠さからして、割と派手な攻撃魔法が使われたのだろう、と何となくロスヴィータは察した。普段の練習試合ですら距離を取られるのである。

 これだけ距離を取るのであれば、比例的に大きな魔法を使おうとしたのだとロスヴィータにだって想像がつく。

「……フリーデ」

「多分マリンよ。あの子、私たちのいる瓦礫に向けて攻撃魔法使ったんだわ。しかも強力な。私が強度のある結界を張ってなければ死んでいたかもしれない」

「えぇ……?」

「大義名分ができたからって調子に乗ったんだと思う。後で叱ってあげて」

 建物がここにあったとは思えない、いや、確かにここに建物はあった。エルフリーデの張った結界内の床だけがその事実を証明している。マロリーの攻撃魔法の選択について、何と言えば伝わるのだろうか。

 ロスヴィータはうまくマロリーを指導する自信はなかったが、力なく頷いた。


「二人とも無事?」

「私がちゃんとした結界を張っていたおかげでね」

 マロリーののんきな声に、エルフリーデがとげを刺す。

「無事だったなら良いじゃない。それより、あんた何者?」

「は?」

 マロリーがにらんでいるのはエルフリーデ。ロスヴィータは突然何を言い出したのか、と二人を交互に見た。


「ちょっと待ってくれ、マリン」

「ロス、まさか本気で気がついてないの?」

「何がだ」

 マロリーがロスヴィータに驚きの表情を送る。そういう顔をしたいのはこちらだ、とロスヴィータは毒づいた。

 目の前までやってきたマロリーはロスヴィータの体の向きを無理矢理エルフリーデの方へと回す。

 文句を言う間もなくマロリーが彼女を指で示す。


「どこからどこを見ても――とは、ちょっと言い切れないのが悔しいけど、こいつ男じゃない」

「はぁ?」


 マロリーの発言はロスヴィータを心底驚かせた。いや、どこからどう見たって女の子だろう。

「よく見れば喉仏があるし、胸だって平らよ。それに、よーく見れば時間が経ちすぎてちょっとだけ髭が伸びてる」

「いや、まさか」

「ロスを助けるのに気を張り続けていたのが仇になったわね。女の子じゃなくなってる。

 ってか胸くらい隠しなさいよ……本当に女の子なら、だけど」

 まさか。


 ロスヴィータはずっとエルフリーデだと思っていたが、エルフリーデじゃない? だが、これまでの会話を思い出す限り、エルフリーデそのものだった。

 ロスヴィータは自分の感覚を信じれば良いのか、仲間の言葉を信じれば良いのか、選べなかった。

「ふ、フリーデ」

 思わず本人に助けを求めてしまう。エルフリーデはすぐには答えなかった。いや、マロリーの言葉に対して何の反応も示していないのが、答えなのかもしれない。


「……実は、私はエルフリートなんだ。

 知らせを受けて心配で。妹の代わりに――」

 ロスヴィータは手を伸ばした。自称エルフリートはその手を邪魔しなかった。

「ここにやってきたんだ」

 頬を触るが、普段のエルフリーデよりもざらつくくらいで違和感はない。

「黙っていてごめん」

 謝る声は普段よりも低く、確かにこの前の夜会で聞いた時と同じ声のようにも聞こえる。だが、確信とまではいかない。

 だって、見た目はエルフリーデそのものなのである。それに会話だって。話し方、仕草何もかもがエルフリーデである。


 ロスヴィータには、目の前にいる人物をエルフリーデではないと否定する気になれなかった。

「……でも、エルフリーデだろ?」

「ロス」

 マロリーの声を無視し、ロスヴィータは自称エルフリートと見つめあった。魔法の使いすぎでいつもよりも紫がかっている。

 いつも、妖精のようで美しいと思っていた。その瞳にも違いが分からない。ロスヴィータの中で、変な閃がついた。

 一瞬でも早くそれを確かめるべく、思い切った行動に出た。


「違っていたら後で殴ってくれて構わない!」

「ちょっ……!!」

 ビリビリと威勢の良い音を立てて、エルフリーデの服を破く。そしてあらわになった腕に顔を近づける。

「……あった」

「…………」

 ロスヴィータの視線の先には、紛れもなくエルフリーデがロスヴィータを守った時の傷。彼は、エルフリーデ本人なのだ。

「エルフリーデ、本当は男だったのか」

 ロスヴィータの呟きに、エルフリーデは小さくため息をついた。

2021.8.14 誤字修正

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