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妖精と王子様のへんてこワルツ  作者: 魚野れん
王子様、お家騒動に巻き込まれる

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15

 浮遊感の次は急激な落下による強い風を感じた。それ以上に馬を跳ねさえる時のような、内臓がおいていかれてしまいそうなほどの気持ち悪さが襲ってきた。

 ロスヴィータは思わず目をつぶる。ほとんど同時に、抱きしめられた。エルフリーデだ。彼女は右手でロスヴィータの頭を抱え込み、左手で背中を固定した。

 どしゃっ! エルフリーデに抱えられたまま、彼女を下敷きにするようにして落ちた。小さくエルフリーデが息を詰まらせる。彼女が庇ってくれたとは言え、その衝撃は軽いものではない。

 申し訳ない気持ちでいっぱいになりながら、彼女の上からどく為にもたつきながら動いていると視界が反転した。


 一瞬エルフリーデが身を起こしたと思ったら、鞘に納めた剣を突き刺し覆い被さってくる。ロスヴィータは、その素晴らしい身のこなしに目を見開いた。

「な……」

 何が起きたのか分かるまで、時間がかかった。ロスヴィータに瓦礫の固まりが迫っていたと気が付いたのは、それがエルフリーデの上に落ちてきてからであった。

「慈しみの神よ、我らを包み守り賜え」

 瓦礫の粉が降りかかり、思わず目をつぶる。がらがらという大きな音が周囲を満たす中、ロスヴィータはかすかに目を開けた。

 魔法を使うのが遅かったのか、エルフリーデのすぐ上に結界のようなものが広がっている。小さい欠片から大きなものまで、木片やら煉瓦やらが乗っていた。


 エルフリーデが剣を突き刺したのは、万が一の時に押しつぶされないようにする保険の役割だったらしく、確かにその剣の柄は大きな瓦礫を支えていた。

 視線をエルフリーデへと向けたが、ロスヴィータの頭と胴体を守ろうとしてくれた為、彼女の顔は見えなかった。

 見えるのは、珍しくむき出しになったデコルテ――時折動く喉仏がちょっと色っぽい――と、平たい胸――もしかしたらロスヴィータよりも平たいかもしれない――だった。

 これだけ平たければ、人前に出したくないと過剰に保護するのも納得である。今までロスヴィータが認識していた小さな膨らみは、胸に詰め物をして作り上げていたに違いない……が、先ほどの戦闘と今回の件でそれもすっかり弾け飛んだと思われる。


「フリーデ、ありがとう」

「もう少し我慢してね。――熊の女王よ、小熊を守り、導き賜え」

 エルフリーデの声は少し震えていた。無理のある体勢なのだろう。ロスヴィータよりもおっとりとしていて少女のような彼女だが、鍛え方が別格なのだと思い知らされる。

 エルフリーデの言う“少し”は結構長い時間だった。少しずつ結界が広がっていくのを見ながら、気を紛らわせる為に会話を続ける。

「変わった魔法だな」

「この瓦礫、吹き飛ばすのは簡単だけど周囲の状況が分からないからできないの。

 それで、結界の外側を少しずつ削る事にしたんだ」

 彼女の判断はもっともだ。ロスヴィータは彼女の言葉に小さく頷いた。


 外には先に撤退した人が残っているかもしれない。吹き飛ばされた瓦礫が彼らに当たって怪我などさせてしまったら大変である。

「フリーデは大丈夫なのか? 怪我とか……」

「大丈夫」

 普段とは違う位置から聞こえてくる声がくすぐったい。顔が見えないのが残念だ。腕がしびれてきたのか、時々腕の位置がずれる。

 ぱらぱらとエルフリーデの上に積もっている瓦礫の粉が落ちてきた。


「ごめん、目には入ってない?」

「大丈夫」


 段々と言葉数が減り、聞こえるのは二人の呼吸音と衣擦れ、どこかで瓦礫が崩れる音くらいになる。エルフリーデが作ってくれた魔法の照明のおかげで狭いものの密閉されている事への不安感はない。

 少し息苦しいのが気になるが、閉じこめられているのだからこんなものなのだろうとロスヴィータは考える事にした。

「ロス。ちょっと動くけど、ロスはそのままでいてね」

「分かった」

 エルフリーデが身じろぎし、欠片が落ちてくる。目をつぶってやり過ごしている内に声をかけられた。

「起きあがって良いよ。でも立ち上がらないでね」

 彼女の言葉を守ってゆっくりと上半身を起こす。ロスヴィータの視界に膝を抱えて座るエルフリーデが見えた。綺麗に編み込まれていた銀糸は乱れ、所々ほつれている。ほつれた髪が光に照らされて輝いて見える。


 こんな状態でも、彼女は綺麗だった。

「フリーデ、ぼろぼろだね。本当に怪我はないの?」

「ないよ。ただこんなに服が破けているのは恥ずかしいだけ」

 エルフリーデはそう言って困ったように身を縮ませた。

「どんな格好だって、フリーデは可愛い」

「えぇー」

 困惑する姿も可愛い。ロスヴィータはエルフリーデが怪我していないならば、と彼女の隣に座り直した。

 エルフリーデと同じように膝を抱え、その膝に腕を乗せ、頬を乗せる。

「フリーデは可愛いよ。私の妖精さん」

 ぱっと弾けるような笑みを飛ばすエルフリーデは、まだ元気そうだ。

 ロスヴィータはそんなエルフリーデの頬に手を伸ばした。

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