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お前、正気か!? ロスヴィータは唾と一緒に暴言を飲み込んだ。
「……そこまでして、何のメリットがある?」
男と間違われる容姿や立ち振る舞いのロスヴィータに、以前のアルフレッドならば目もくれなかったはずだ。手のひらを返したのには、必ず理由がある。
「お前は私の中で最終手段だったが、この前の舞踏会で悟ったんだ」
最終手段というのはかなり失礼な発言だが、この前の舞踏会には心当たりがある。かなり気合いを入れた姿に声をかけてきたのは目の前の男だった。
貴婦人としての姿を見せる事ができないと思われていたロスヴィータが、あんな風に化けるとは誰も思わなかったに違いない。
きっと、あの舞踏会が終わってから自分が声をかけたのがロスヴィータだったのだと調べあげたのだろう。
「お前こそが、王の隣に立つべき女だと」
「はあ?」
ロスヴィータの頬を指先でなぞりながら笑みを浮かべるアルフレッドには以前のような気品はなく、ただの男だった。
「お前が女性騎士団なんてものを創る事ができたのだって、次期王妃となるから取り計らってもらったんだろう。
そうでなければ俺からの見合いの申し込みを受けたはずだし、お前ごときが権力を得る事などできなかったはずだ」
……本当に失礼な男だ。ロスヴィータはそんな事を思いながら、男の手がロスヴィータの制服のベルトに手をかけているのを見ていた。エルフリーデは近くまで来ているはずだ。
だから、もうじき助けてくれる。
「そんなお前を娶れば、私が王太子となる日も近い」
かちゃかちゃと金属の揺れる音を立てながらベルトが抜かれた。貞操の危険がじわじわと近づいてきている。ロスヴィータは、ともすれば震えてしまいそうな自分を叱咤し、アルフレッドに反論した。
「私は次期王妃になどなるつもりはないぞ。それに、女性騎士団を立ち上げる許可が下りたのは、ひとえに私の実力のたまものだ。
馬鹿にしないでもらいたい」
アルフレッドはロスヴィータの反論を鼻で笑い、顔を近づけてきた。
「思い上がってしまうのは許してやろう。お前は私の“幸運の女神”だからな。
それに、どうやら磨けば見える姿になるようだし」
外から落雷のような音を皮切りに、にぎやかになってきた。おおかた誰かを引き連れたエルフリーデがアルフレッドが用意した私兵と戦い始めたのだろう。
「本当に幸運の女神だと思うか? 外が騒がしくなってきたぞ」
「気にする事はない。私もそれなりに対策を練ってきたんだ。ちゃんと使える魔法剣士を呼んでおいた」
再びアルフレッドはロスヴィータの服を脱がし始める。使える魔法剣士も気になるが、ロスヴィータの危機は目の前にある。下手に動くと彼の動きを手伝ってしまいそうで、ロスヴィータは動かないように心がけた。
案の定、制服のパンツを下ろそうとしてもうまくいかないらしい。
「おい、腰を浮かせろ」
「嫌だ、断る。私はお前の妻になるつもりは全くない」
「諦めの悪い女だ。決まっているんだよ、我々の婚姻は」
「私はお前の“不幸の始まり”だ。お前の方こそ、いい加減諦めるべきだな」
ロスヴィータの言葉に段々と苛ついてきたのか、アルフレッドの眉間にしわが寄る。動きも乱雑になってきた。無理矢理両足をひっぱり、ロスヴィータを仰向けに横たわらせる。
後ろ手に縛られている彼女は、強制的に腰を浮かせるしかなかった。
「――……後悔しても遅いぞ」
「後悔? しないとも」
勢いよく下ろされたパンツはロスヴィータの膝でひっかかった。下着の上に履いたタイツが露わになる。ロスヴィータは屈辱で顔を赤らめながら、アルフレッドをにらみつけた。
アルフレッドはタイツの紐を丁寧にほどいていく。左が終わったら右。そしてそれをゆっくりと引き下ろす。
寒くはないが、ふるり、とロスヴィータの体が震えた。エルフリーデ、早く助けに来い!
「お前が言う通り、時間がないからな」
そう言いながらロスヴィータの体をうつ伏せに変えようとする。ロスヴィータは反抗した。ロスヴィータが不利な揉み合いになる。
「いい加減、諦めろってっ」
「ぐうっ」
頭をシーツに押しつけられ、ロスヴィータはあえいだ。その時、爆発音と共に寝室の扉が吹き飛んだ。吹き飛んだ扉は、ロスヴィータの視界を通ってベッドのすぐ近くの壁にぶつかった。
扉のあった方はアルフレッドが邪魔で見えず、何が起きたのか全く分からない。
「貴様、何しているのか分かっているな?」
凍りつくような、冷たい声がする。エルフリーデだ。彼女がこんな声を出せるとは思わなかった。
ロスヴィータは自分の姿も気にせず、そんな事をぼうっと考えていた。
「思ったよりも早かったな。もう少しだったものを邪魔するなよ」
「婦女誘拐および強姦未遂で現行犯逮捕する」
アルフレッドの背後に、女性騎士団の制服がちらりと見えた。




