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妖精と王子様のへんてこワルツ  作者: 魚野れん
王子様、お家騒動に巻き込まれる

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12

 ロスヴィータが意識を取り戻した時、周囲は静かだった。だが、一つ前の監禁場所で逃亡を企てていたのがばれてしまったせいだろう。前回よりも厳重に縛られている。

 後ろ手にされて胴体ごと縛られており、そう簡単には縄抜けできそうにない。今回は状況が変わるまで、じっとしていた方が良さそうだ。

 もはや市街ではないはずだが猿ぐつわもきつめである。その代わり、猿ぐつわはロスヴィータの唇を傷つけないようにか、なめらかな感触の布が使われていた。

 変な配慮をする奴らだ。体のあちこちに鈍痛を感じながら、ロスヴィータは思った。


 無理矢理にでも連れて行こうという割には、可能な限り怪我をさせまいという努力を感じる。

 ロスヴィータを捕まえようとする時、あれだけの人数がいながら簡単に捕まらなかったのはそのせいである。エルフリーデが現れた時にロスヴィータの気が逸れなければ、逃げ切れただろう。


 そうだ、エルフリーデ。エルフリートにも見えてそう呟いてしまったが、服装からしてあれはエルフリーデだったはずだ。

 彼女は今、どうしているだろうか。彼女の事だ、目の前でさらわれていったロスヴィータをとても心配しているに違いない。探しに来てくれたという事は、ロスヴィータが連れさらわれた事を知っていたという事である。

 せっかく助けに来てもらったのに、再びさらわれる体たらく。女性騎士団の団長として、情けない事この上ない。


 しかしここまで来ると、この誘拐犯が執念深い人物だろうと察せられる。ロスヴィータが知っていて、かつ執念深そうな人物、それも財力がある――とくれば、思い当たる人物が一人。アルフレッドである。

 ロスヴィータが見合いを断り続けているにも関わらず、ずっと申し込み続けている奇特な人間である。

 どんな手紙をよこしているかは知らないが、両親からの手紙から察するにあまり良い人間ではないだろうし、舞踏会や夜会で見かけたり噂を聞く限りでは自己愛的な面の強い人間という印象も強い。

 あまり当たってほしくない予想だが、これはもしかすると当たりなのかもしれない。ほとんど完全に動きを封じられている今、ロスヴィータにできる事は少なく、自分を捕らえようとしている人物について思考を巡らせたりするしかなかった。


 少ない情報で思考を巡らせるにも限界がある。考える事がなくなってしまったロスヴィータは、ようやく自分の周囲の状況を確認する事にした。

 ロスヴィータが監禁されているのはどこかの廃墟らしいが、中途半端に手入れがされている。ロスヴィータはその、手入れされている一角に転がされていた。

 元は誰かの寝室だったらしいこの部屋は、天蓋付きの大きなベッドがあり、そこに真新しい感触のシーツが敷かれている。ぱりっとした感触のその上にロスヴィータはいた。

 寒くないように隣室にあると思われる暖炉に薪も入っているらしく、どこからかその暖かな空気がこの部屋を循環していた。逆に窓の辺りは全く手入れがされておらず、放置されて朽ちかけたカーテンが寂しそうに下がっていて、その隙間から見える星空は、ここが二階以上の高さにあるのだと教えてくれた。


 ――暇だ。この変な寝室を観察するのにも飽きたぞ。

 ロスヴィータは暇だった。カーテンの隙間から見える星空に異変が起きるまでは。



 深夜のはずの夜空が明るくなった。木漏れ日のような影を作るカーテンの隙間をじっと見つめると、巨大な何かが夜空に輝いているのが見えた。カーテンのせいで全体像が分からないが、あれはおそらくエルフリーデの魔法だろう。

 こんな状況であれだけ大きな幻だか光だかを簡単に作り出せるのは、エルフリーデくらいだ。ロスヴィータはエルフリーデが助けに来てくれたのだと胸を高鳴らせた。


「ロスヴィータ嬢」

「!」


 窓の外に気を取られていてドアが開くのに気がつかなかった。ロスヴィータは勢いよく声のした方へ頭を向けた。そこには、少し前に誘拐犯の心当たりとして想像した顔があった。アルフレッドである。

 誘拐が成功した後で現れれば良いのに、どうしてここに現れたのだ。ロスヴィータはそんなずれた事を考える。

 こんな状況でエルフリーデ達と対峙すれば、自分が親玉ですと宣伝しているのと変わりない。


「あなたがいけないんだ」

 ロスヴィータは馬鹿だろう、と言ってやりたい所だったが、あいにく口をふさがれていて何も言う事ができなかった。颯爽と近づいてくる男は、エルフリーデが生み出しただろう光を反射させたぎらついた瞳でロスヴィータを見つめていた。

「私だって、こんな手段は使いたくなかったが、私が首謀者だとは既に知られているだろう。

 だから、代替案を実行する事にした」

 代替案だと? ロスヴィータは猿ぐつわに手をかけながら言うアルフレッドをにらみつける。


「本当は、屋敷に招待してから説得するつもりだったんだが……時間がなさそうだからここで説得するんだ」

「はっ、説得だと? この私が説得されると思っているのか?」


 ロスヴィータが鼻で笑ってみせると、アルフレッドが夜会で見せるような華やかな笑みを返した。おや、とロスヴィータが片眉を上げれば、彼はうっとりするような穏やかな声で宣告した。

「お前は、ここで私のものになるんだよ。ロスヴィータ」

2022.6.16 誤字修正

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