表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
妖精と王子様のへんてこワルツ  作者: 魚野れん
王子様、お家騒動に巻き込まれる

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

56/76

10

 ロスヴィータは慎重に足を進めていると、再び足音が聞こえてきた。近くの部屋に隠れ、様子を見る。同じような革靴の音だ。きっと上の階で遭遇した人間と同一人物だろう。少しだけ隙間を開けたままにして、顔を見てやろう。

 こっそりと様子をうかがっていると、とうとう目の前を通りがかった。長身の男である。顔は見た事がない。ロスヴィータをさらった男とは別人であった。

 彼は淡々と歩き、そのまま上の階へと消えていった。


「……まさか、な」

 数人しかいないのだろうか。それならば、脱走がばれても問題ないかもしれない。だが、その数人の中に手強い相手がいる場合を考えておかねばなるまい。数人だと見せかける罠、という事もありえる。

 さすがにこんな街中で長時間の監禁はない。きっと今夜中に依頼人へ引き渡す算段になっているはずだ。だからこその少人数という可能性もある。

 ロスヴィータは急いで二階まで降り、こっそりとあいている部屋で男を待つ事にした。あの男は剣を携帯していた。あれを奪おう。先にこの男を制圧し、武器を手にして一階に殴り込む。うん。これだ!


 しばらく待つと、見回りをしている男が一階へと降り……もう一度上がってきた。彼が通り過ぎた後静かにドアを開け、滑るように駆ける。

「っ、侵にゅ――」

 ロスヴィータが近づく気配に気がついた。男は剣を抜きながら振り返る。両手がまだ不自由なロスヴィータは下段の回し蹴りを繰り出した。男は自分の動きを利用された回し蹴りで勢いよく前方へと転倒した。

 彼の手を踏み、膝でうなじを押さえ込む。

「おとなしくしろ」

「ぐ……」

 ロスヴィータはぐぐ、と膝を押さえる力を強めた。


 手から離れた剣に手を伸ばして縄を切ると、剣の柄で気絶させる。力なく倒れた男を自分が隠れていた部屋に隠して階下へと進んだ。

 一階に降りると、少しばかり警備が増えた。階段の目の前は出入り口になっており、その曇りガラスに男の影が透けている。そして、左手には食堂だろうか、大きな部屋があるらしい。その扉をゆっくり開ければ、そこは食堂で、数人の男が見えた。ほぼ全員がロスヴィータに背を向けている。中には見覚えのある男もいる。

 ロスヴィータは一瞬悩む。脱出を優先するか、これを仕組んだ犯人の捕縛を優先するか。おそらくこの家にいる人間は、ただの手下で依頼した人間は別にいる。どうしたものか。


「……あとどれくらいでやってくる?」

「約束の時間まであと少しだ。だが、本当に来るんだろうな?」

 ロスヴィータの目の前で派手に転んで見せた男は質問責めにされている。彼は唯一こちら側に体が向いている。おそらくこの中で一番強いか、リーダー格の人間なのだろう。

「問題ない。前金を多く渡してまで念を押してきたんだ。

 あの男が、だ」

「でもよ、こんなに簡単に事が進むと……むしろ不安になるんだが」

 もう既に、目的の人間が脱走するという異常事態が発生しているぞ。ロスヴィータはほくそ笑んだ。あの男の期待に沿って差し上げよう。

 ゆっくりと食堂から離れる。裏口と正面玄関、両方に一人ずつは配置されているはずだ。食堂での戦闘中に挟み撃ちされるのは困る。先に戦力を削いでおきたい。


 食堂から遠い方、裏口の男を倒す。幸運な事に、相手は一人だった。その上、内側に開く扉になっていて助かった。倒した男は、本人のベルトと靴紐で縛っておく。玄関の男も同じように倒し、縛り上げた。この二人は路上に転がす。

 誰かが異常事態に気がつけばよし、ロスヴィータを迎えにくるらしい奴を警戒させるのに使えてもよし。どっちでも良い。

 ロスヴィータは着々と敵を鎮圧していた。残るは食堂にいる五人であった。




 エルフリートは、魔導具が想定外の方向を示し続けている為、困惑していた。ずっと市街地をぐるぐると移動している。

 おそらく、その中心に彼女はいるのだろう。だが、隠れ家というものは、普通は街の外れに用意するものではないだろうか。

 このままだと中流階級の住宅地に入ってしまう。住宅地での戦闘は避けたいのに。エルフリートは心の中でため息をついた。


 エルフリートがロスヴィータの監禁場所と思われる場所へ辿り着いた時、そこは戦場になっていた。屋敷の入口には馬車が一台、馬具のつけられた馬が五頭。

 玄関には捕縛された男が一人。丁寧に縛られている事から、ロスヴィータが余裕のあった時にやったのだろうと思われる。

 犯人を捕まえようとしている最中に、応援がやってきた、という事かもしれない。という事は。

「ロス!!!」

 エルフリートは剣を抜き、ファルクマン公爵から借りた兵を引き連れ突入した。多数対一人では不利である。それも、魔法の補助なしでなんて!

「戦の女神よ、立ち塞がる敵をなぎ払え!」

 建物の中に入るなり、いきなり魔法を放つ。

 勢いよく男たちが壁に叩きつけられる。まずは三人。少なくとも御者を含めて七人はいるはず。エルフリートは金属の音がする食堂へと足を向けた。

2021.6.19 誤字修正

2022.6.16 誤字修正

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ