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妖精と王子様のへんてこワルツ  作者: 魚野れん
王子様、お家騒動に巻き込まれる

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9

 エルフリートは公爵から借りた、元々ロスヴィータが乗り回していたという馬に飛び乗るなり耳飾りを外した。右耳と左耳、それぞれの耳飾りを組み合わせると一つの魔導具となる。

 魔導具となったそれに魔力を込めると、耳飾りについている宝石が光を帯びた。

「ロスヴィータのいる方向はあっちだ。ついてきてくれ」

 馬上で揺れると、その宝石はある方向に揺れている時にだけ光る。エルフリートはその方向を見逃さないように気を配りながら馬を走らせた。


 エルフリートが考えているよりも、市街地を探索するのは難しかった。道が入り組んでいる為、回り道をしないとその方向に行けなかったり、途中で行き止まりになってしまったりするのである。

 障害物のない屋根を移動するには走るしかないし、かといって空は飛べないし。空、飛べたら良かったのに。エルフリートは自分のスキル不足を嘆きながら、市街を駆け抜ける。

 途中、巡回中の騎士と遭遇するも“野暮用”で切り抜ける。

 詳しく分かっていないのに勝手に騒ぎ立てると後が恐いもんね。もしかしたら本当に人助けか何かで戻ってきていないだけかもしれないんだから。

 ……ただ、その確率は低いと思うけど。




 エルフリートがロスヴィータを探して馬を走らせている頃、ロスヴィータは自分の置かれている状況を把握している最中だった。

「……っむぐ……」

 痛い。まず最初に思ったのはそれだ。特に意識を失う直前に打撃を受けた首が痛い。骨に響くような鈍痛がロスヴィータをさいなんだ。

 弱者を助けようとする良心が徒となるとは思わなかった。ロスヴィータはあらゆる事を想定して動くべきであった。

 ロスヴィータは思う。もし、次があるのなら――ない方が良いに決まっている――警戒を忘れないようにしなければ、と。


 気を取り直したロスヴィータが最初にとった行動は、周囲の警戒であった。誘拐犯が近くで監視をしているとしたら、目覚めたロスヴィータを放ってはおかないだろう。このまま気絶したふりをしてじっとしておいた方が無難である。

 だが、近くにいないのなら。さっさと逃げるに限る。ロスヴィータは慎重に周囲の気配を探った。少なくとも、隣の部屋――壁の向こう側――にはいないようだ。

 さるぐつわを床に擦り付けて何とかはずすと床に耳をつけ、振動を探る。人が歩くような揺れは感じない。相手も動かずにじっとしているか、感じられないほどの距離があるのかどちらかだ。少なくとも、ロスヴィータが動いたからといってすぐにこの部屋にやってきたりはしないだろう。


 念入りに確認し、ようやく気が済んだロスヴィータはむくりと起きあがる。後ろ手に縛られ両足は足首で固定されていて動きにくいが、全く動けない訳ではない。音を立てないように慎重に体を動かし、縄が切れそうな物を探した。

 拘束された時の対処法、今度エルフリーデに教えてもらおう。あ、でもエルフリーデはそんなの知らないか。どう考えても彼女は縛る側だった。

 計画的にロスヴィータを拉致しただけあって、縄を切るような道具類は見あたらない。ガラスのようなものもない。しいて言うならば、窓であるが……。

 窓など破壊しようものならば大きな音がするだろう。そんな事になればすぐに見つかってしまう。可能であれば誘拐犯に気がつかれないように、この建物から逃げ出したい。


「はぁ……」


 ロスヴィータは溜息をついた。困った。手も足も自由ではない今、できる事は少ない。もういっそ窓を割るか? 窓をにらみつける。

 これしかない。窓のそばまで行き、その外を見る。ここは三階か四階らしく、視界が良かった。周囲は普通の家が立ち並ぶ中流階級の住宅街のようだ。穏やかな暖かみのある街灯が日常が続いている事をロスヴィータに伝えてくる。

 向こう側に行かなければ。ロスヴィータは窓から離れた。窓を割るのは駄目だ。逃げられる可能性を少しでも高くしないと。


 エルフリーデはどうしているだろうか。もしかしたら心配性な両親が迷惑をかけていないだろうか。いや、きっと迷惑をかけているに決まっている。こういう時こそ、魔法が使えれば良かったのに。ロスヴィータは自分に魔法の素養が全くない事を恨めしく思った。

 さて、自分に能力がないのは今更である。もう一度考える。そして一つ、重要な事に気がついた。腕を前に回せるのではないか、と。

 しゃがみこみ、そのまま足を通して腕を前に回した。少し、いや割と痛かったがうまくいった。これで少し脱出の成功率が上がる。ロスヴィータは足の拘束を解く事に成功した。先ほどまでは芋虫のようにしか移動できなかったが、今は違う。立って歩けるのである。


 これ以上この部屋にいる必要はない。手が不自由でも足が自由ならば、十分戦える。脱走の途中で使えるものが見つかれば良いし、最終的に敵が何か持っていればそれを奪えば良い。少々過激な思考だが、事情が事情だからかまわないだろう。ロスヴィータは警戒しながら廊下を歩いていた。

 ふと、影がよぎる。慌てて近くの部屋に隠れる。こつ、こつ、と革靴の音がする。硬めの音である。靴底の厚い、しっかりとした作りの靴を履いているらしい。

 その靴音の主は廊下を真っ直ぐ歩き続け、最奥で折り返し、そのまま遠ざかっていった。


 見回りの範囲が広いようだ。つまり、この建物を守る人間の数は、建物の大きさには見合っていない。……手薄な警備はこちらにとって都合が良い。

 いや、もしかしたら見せかけかもしれない。ロスヴィータは騙された事が衝撃的すぎたあまり、疑心暗鬼に陥っていた。

 隠れられそうな場所を確保しつつ、慎重に行動した方が良さそうだ。ひとまず下の階がどうなっているのか、偵察する必要がある。彼女は見張りが降りていった方へと慎重に足を進めるのだった。

2021.6.19 誤字修正

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