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妖精と王子様のへんてこワルツ  作者: 魚野れん
王子様、お家騒動に巻き込まれる

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3

 緩んでいく頬とは真逆に、考え事のせいで口元が硬くなっていく。半笑いのような中途半端な表情のまま体を強ばらせたロスヴィータを、エルフリーデは柔らかな微笑みで迎えた。

「ふふ、困ったら何でも言ってね。

 私何でもしちゃうから」

 エルフリーデの申し入れはありがたいし、純粋に嬉しい。だが、さすがに見合いの申し込みがしつこいという相談をするのは気が引ける。親からそうういう話を受け付けるならばともかく、特定の一人からの見合い話なのだ。

 何だかきな臭いし、家の事に巻き込みたくない。……が、むしろ中身を言ってしまった方が興味を失うかもしれない。

 秘密にされる方が気になるって言うしな。ロスヴィータは簡単に説明する事にした。


「……ありがとう。でも多分大丈夫だよ。

 単なる見合い話だから」

「――お見合い」

「断ってるのにずっと見合いを申し込んでくる奴がいて、それでいい加減諦めてくれないかと苛ついていただけなんだ」


 きょとんとした瞳に、何だか不穏な炎がちらついたように見える。ロスヴィータは無意識に両手を組んだ。

「しつこい人がいるの。そう……大変だね」

 エルフリーデの声がワントーン下がった。さすが兄妹、声が似ている。けれどそれ以上に、ちょっと肌寒い気がしてきた。あれ、エルフリーデが不機嫌?

 秘密にしておいた方が無難だったかもしれない。ロスヴィータは早くも自分の判断を後悔した。


「ああ。相手にも一応王位継承権があるから、そいつとは絶対に結婚したくないんだ」

 ロスヴィータの口が勝手に動き出す。言わないと、もっとエルフリーデが怖くなりそうで。そこで思い出す。

 そうだ、彼女は猟師。普段は猛禽類のように獲物へ向けてこの瞳を向けているんだった。

 一年近く一緒にいるが、いままでその視線を浴びた事はなかった。それを、今浴びているのだと気がついた。

 自分は決して狙われた獲物ではないと頭では理解していても、獲物になったと肉体が勘違いしている。初めてエルフリーデに対して畏怖を覚えた。


「でも、大丈夫! 私はそんなに柔じゃないし、両親だってこの話は断る方向で一致している。

 あまりにしつこいようならば、陛下に言いつけるつもりだ」


 ロスヴィータを通してアルフレッドへと目を向けているのだろうが、その中間に立たされているロスヴィータはたまったものではない。早口になりながら、大丈夫な理由を伝える。

 このエルフリーデ、ちょっと恐い。獲物はこんな視線を感じているのか……。視線を浴びている内に、段々と思考がおかしくなってくる。

 ロスヴィータは恐ろしい気持ちと初めて受け止める興奮が半分ずつで、恐がりたいのか喜びたいのか自分でも分からない。

 一つ言える事は、これが本題とは全く別のものだという事である。


「そ、それはともかく、今は模擬戦をしに行こう。な?」

「うん……」

 エルフリーデは納得していないらしく、相変わらず眉間にしわが寄ったままだ。エルフリートに教えてもらった、あの技術を使って強制的に彼女を部屋の外へと案内する。

「わっ」

「さ、行こう」

 エルフリートの技術はすごい。エルフリーデが不思議そうにしながらロスヴィータに連れられていく。

 部屋を出たあたりから彼女の恐ろしげな雰囲気は霧散した。恐ろしさを感じさせる視線はもう、ない。

 その代わり、戸惑いと喜びの視線を感じてむず痒い。


 そのまま廊下を突き進む。

「ロス、ロス、私、ちゃんと行くわ」

「そう?」


 ぱっと手を離したら、エルフリーデがほんのりと残念そうな顔をした。どっちだよ、と思うものの、その名残惜しそうな雰囲気が可愛くて、思わず口元が緩んでしまう。

 代わりに彼女の手を握ると、小さく握り返してくれた。くっ、なんて可愛いんだ。

「じゃあ、これで」

「ん」

 可愛らしい妖精さんを独り占めする贅沢をかみしめながら、訓練場へと戻る。他のメンバーは既に揃っていた。少しばかり時間がかかってしまったらしい。

 メンバーが見え始め、ロスヴィータとエルフリーデの手は自然と離れた。


 模擬戦用の武具を選び、駆け寄るなりロスヴィータは謝った。

「すまない、遅くなった」

「問題ない。その間に準備を済ませておいたからな」

 アントニオは小さく笑うと剣を軽く振った。二人が集まったのを確認したレオンハルトが、簡易型の結界を起動させる。

 本当に準備万端だ。

「俺はロス、お前と戦ってみたいんだが良いか?」

「良いよ。私も戦ってみたかったんだ」

 戦うなら強い相手が良いし体を動かせば少しはすっきりするだろうし、何より思い切り胸を借りられる良い機会だ。ロスヴィータは笑顔で応じた。

「アントニオは誰と組むんだ?」

 少なくともレオンハルトではないはずだ。レオンハルトもアントニオと同じく前衛である。だが、前衛の人間が多い隊であるから可能性が全くないとは言えない。

 ワクワクしていると、アントニオが答えた。


「今日は、君の部下を借りる」

「え?」

「俺のパートナーはマリンだ」

「よろしく、二人とも」


 マロリーがアントニオの後ろからひょっこりと顔を出す。何という事だ。

「補助魔法に強く、俺と組んでお前たちと対等に戦えそうな奴がいなくてな」

 なるほど。ロスヴィータは納得した。マロリーとバルティルデが組んで、女性騎士団対騎士団、と思っていたが……。

 マロリーが相手側につくとは、難易度が高いな。ロスヴィータがエルフリーデに目配せすると、彼女はタレ目がちのその大きな瞳をぱちくりと瞬かせ、嬉しそうに笑った。

2022.6.13 誤字修正

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