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妖精と王子様のへんてこワルツ  作者: 魚野れん
王子様、お家騒動に巻き込まれる

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2

 討伐を済ませ、ご機嫌で帰ってきたロスヴィータに、残念な手紙が舞い込んできた。それは、母親からの手紙であった。

「はぁっ?」

 手紙を持つ手が震えてしまう。何度見返しても結果は変わらない。

「いや、何で申し出の拒否を拒否するんだよ。

 申し込んできたのはそっちで、そのお伺いは却下されたらそれで話はおしまいだろう?」

 ロスヴィータは怒りに震える手で返事を書いた。もはや殴り書きに近い、その力強い筆跡を見たら彼女を知る騎士ならば誰だって逃げ出したくなるだろう。

「――むしゃくしゃする」

 ロスヴィータは珍しく眉間にしわを寄せて苛ついた声を出したのだった。




 ひと汗かいてスッキリしようと訓練場へ繰り出したロスヴィータは、打ち込みを行っているレオンハルトを見つけた。

「レオン」

「ロス、どうしたんだい?」

「私もその訓練に混ぜてもらえないだろうか?」

 以前、突然乱入したら迷惑がられてしまった為、先に承諾を得ておかなけねば。軽く手を挙げて挨拶をしながら言えば、レオンハルトはすぐに頷いて背中を向けた。

 足早にアントニオから承諾をもぎとったらしいレオンハルトが両腕を振る。ロスヴィータはそれにもう一度手を挙げる事で応える。


「せっかくだから模擬戦しないかって言ってる」


 ロスヴィータが彼らと合流すると、レオンハルトは笑顔でそう言った。模擬戦か。悪くない。

「勝ち抜きはどうかな?」

「トーナメント制か……面白そうだね」

 そういえば、来期は二人一組での実力を争う特殊御前試合があるんだった。今期の御前試合は通常の御前試合で個々の実力で争うものだったが、女性騎士団は結成して間もないのと、式典を終えていないのとで見送りとなったのだ。

 エルフリーデと出られたら良いところまで駆け上れそうだが、来期には彼女はいない。非常に残念である。


「フリーデは一緒じゃないのか?」

「せっかくだから来期の特殊御前試合と同じ条件でやってみたいな」

「おい、おまえら勝手に言うな。それに彼女たちの組み合わせと勝負になると思っているのか」


 好き勝手に言い始めた部下をたしなめるアントニオだったが、その声に力は入っていない。もしかしたら彼もロスヴィータたちと戦ってみたいのかもしれない。

 強い奴と戦ってみたい。それは上を目指す騎士ならば当然の事だろう。

「問題がなければエルフリーデを探してくるよ。

 多分、自室にいるはずだ」

「分かった。そうだ、バティとマリンも呼んでこよう。

 俺たちは二人に声をかけてくる」

 アントニオの号令で一斉にアントニオの隊員が散った。あまりに迅速でロスヴィータは笑ってしまう。

「では、私も行ってくるよ」

「ああ」

 目印代わりに待つアントニオを背に、ロスヴィータも駆けだした。




 エルフリーデはすぐに見つかった。やはり彼女は自室に戻っていた。

「あら、ロス。どうしたの?」

「休憩していたか。これからアントニオの隊と合同で模擬戦をする事になったんだが、大丈夫か?」

 討伐から帰ってきてすぐの号令である。本来ならば断られても仕方がない。断られてしまったら、ロスヴィータが二人分動くだけだ。むしゃくしゃしていて体を動かしたい気分だから、むしろちょうど良いかもしれない。


「大丈夫だけれど、何か面白い事でもするの?」

 早速彼女が着替え始めた。やる気である。ワンピースの下から制服をはき、ブーツの紐を締める。

「来期の御前試合と同じ、二人一組になって勝ち抜きを行うんだ」

「あっ、それなら私は参加しない方が良いんじゃない?」

 来期の御前試合と同じようにするならば、ロスヴィータの相棒は別の人間になる。エルフリーデはそれを言っているのだろう。

「いや、それは問題ない。

 単純に、口実をつけて私たちと戦ってみたいだけだよ。だからあなたが遠慮してしまうと彼らが残念がる」

 エルフリーデがワンピースの裾を掴む。ロスヴィータは思わず後ろを向いた。同性だから構わないはずなのだが、どうにも見てはいけない気がしてしまう。


 ばさばさと衣擦れの音が聞こえ、耳をふさぎたくなる。人の着替えを覗いているような背徳感が湧き上がってくる。

「そうなのね。じゃあ、思いっきり暴れちゃおうかしら」

「さすがに対魔法の障壁は作れないから補助魔法までになるはずだよ」

「大丈夫。私だってそれくらい分かるもん」

 衣擦れがとぎれ、そっと胸をなで下ろす。この妖精さんは心臓に悪い。ああ、妖精って元々いたずら好きだったか。ロスヴィータは訳の分からない事を頭の中で繰り返す。

 こんな妖精さんをお嫁さんにする男なんか、滅んでしまえば良い。アルフレッドがしつこすぎるから、つい苛ついた言葉ばかりが出てしまうんだ。

 ロスヴィータはむっとした表情で足元を見つめた。


「あっロス!」

「フリーデ?」

 エルフリーデがロスヴィータの眉間を人差し指でグイグイと揉む。

「ロス、何か別の事考えてるでしょう?

 きつい顔してるわ。変よ? 悩み事でもあるの?」

 エルフリーデのアメジストがロスヴィータを映す。そこには、険しい顔をしたロスヴィータの姿があった。瞬きを繰り返すと、エルフリーデがにっこりと笑みを浮かべ、ロスヴィータの両頬を押さえる。

 近くで見れば見るほど、可愛い。ロスヴィータは妖精の笑みを見つめている内に、顔の筋肉が綻んでいった。

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