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妖精と王子様のへんてこワルツ  作者: 魚野れん
“魔法の虫”の疑念

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1

 最近、隊長と隊長補佐が怪しい。マロリーは通常訓練の後に、居残りしてまで訓練を続ける二人を遠くから観察していた。

 隊長と隊長補佐、とはロスヴィータとエルフリーデの事である。本当は団長と副団長なのだが、“団”と言う割には規模が小さい為、マロリーの中では何となく隊長と隊長補佐という認識が強くなってしまっていた。

 事実、ロスヴィータは団長であり第一小隊の隊長であるのだから、あながち間違ってはいないが。


 マロリーは接近戦の訓練をしている二人に小さな溜息を送る。音は届かないが、楽しそうに笑顔すら浮かべているから、さぞ充実した時間を過ごしている事だろう。

 あの中に入りたいとは思わない。マロリーはマロリーで、やりたい事がごまんとあるのだ。

 なのに、二人を観察する事になったのには理由がある。エルフリーデの空き時間を探す為であった。


 魔法の研究がメインだが、エルフリーデに出会ってからは薬草に興味が湧き、魔法薬でも作れないかと考え始めるようになった。

 エルフリーデが扱っているのはただの薬草。それに魔法が付与できれば世界が広がるというものだ過去に挑戦した人間は、例外なく失敗に終わっている。相性の良い薬草が見つからなかったか、調合がまずかったか、何かしらの原因あってこそ。

 魔法薬を作ろうとした人物の原因不明による失踪は、確か一名だったか。跡形もなくなってしまったと言うのだから恐ろしい。これがもし、本当に魔法薬が原因であったならば。効果が期待できる。


 魔法薬という言葉が生まれてからもう百年以上経っているのにも関わらず、まだ魔法薬は開発されていない。それを形にしてみせるのは魔法を研究している人間にとってのロマンだと言える。

 薬草に詳しい人間は限られていると思っていた。だからこそ、マロリーの「やりたいこと」に入っていなかった。それが現実味を帯びてきている。

 ――はず、だったのだ。エルフリーデがロスヴィータを構い倒すと知るまでは。


 今はもっぱらエルフリーデの隙を見つけては質問するという生活をしている。つまり、何をするにしても彼女が視界に入るような場所を選ぶように自然となっていったのだ。

「あー……今日も無理そうだわ」

 休憩するかと思って、魔法書を読みながら近くで待っていたマロリーだが、隊長も隊長補佐も疲れた様子すら見せていない。体力馬鹿なのだろうか。常人の感覚とはかけ離れている。

 エルフリーデのスケジュールは過密だ。そのほとんどがロスヴィータの為に使われている。……恐ろしい。


「今日は諦めようかな」


 彼女の笑みを遠くから見て、溜息を吐く。マロリーの想像だが、エルフリーデは短期間での雇われ団員だ。根拠は、実習とかではよく先生役になっているし、この女性騎士団の中で一番優秀なのに、他の人間が経験を積めるようにすぐに裏方へ回る。それを上役らが否定しないという不自然な動きがよく見られる事だ。

 そして、おそらく在籍期限が近い。そうでなければあんなにべったりになる訳がない。

「……でも、いちゃいちゃしすぎ」

 やっている事はまともなのだが、どうにも恋人同士に見えて仕方がない。恋愛に疎いマロリーにだって、そう思えてしまうのだからよほどだと思う。

 ロスヴィータはどちらかと言えば演技が下手な部類に組みする為、二人の関係が恋人ではないだろう事は容易に想像がつくものの、エルフリーデの考えは全く分からない。


 マロリーから見たエルフリーデは、天然でぽんやりしていて王子様に夢見心地な少女、と言いたい所だが、その実は違うのではないかと思っている。

 大きく印象を変えさせたのは、彼女たちが遭難した時である。マロリーがエルフリーデの薬草知識の素晴らしさを実感した時でもあるから、余計に印象に残っている。

 二人を見つけた時、エルフリーデはロスヴィータを背負って歩いていた。その姿は、正に山の民であった。遠目でも分かるほどに精悍な顔つきをしていて、これがあのエルフリーデなのかと驚かせられた。

 エルフリーデは野生の猛獣にでもなったのかと聞きたくなるくらいに強い眼孔の光が鋭く、戦いのさなかにいる少年騎士のように見えたのだ。しかしそれも、マロリーたち救援隊に彼女が気が付くまで。


 救援隊に気が付き、方向を変えたエルフリーデは普段のエルフリーデだった。救援隊に編成された他の騎士がその変わりように気が付いたかは分からない。だが、少なくとも気が付いた人間であるマロリーは、彼女が特殊であると認識するようになったのだった。

 マロリーは魔法薬研究に関する質問をするのが目的だが、ついでにエルフリーデを観察する事にした。そうすると、多少なりとも見えてくるものがある。


 それは、二人の距離感がおかしい事だ。絵本に登場する王子様と妖精さんごっこをしているだけだと思っていたが、よくよく見れば全く違う事が分かる。二人とも記号として見ていないのである。

 ロスヴィータもエルフリーデも、愛称のように使いこなすようになっていた。最初の頃はわざとらしく演技がかっていた言い方も、最近では自然に口からあふれ出たかのように単純な言い方になっている。

 マロリーとしてはこのまま二人が恋人になってしまったらどう接すれば良いのか分からず、悩ましいと思っている。


 夜会でエルフリーデが誘拐されそうになった時は、他の人とは違う意味で悩んだ。そもそも、訓練や実践の時にあれだけ他者に実力で勝っておきながら、誘拐されるはずがない、という考えがあったせいだ。

 後で薬を盛られたのだと知ったが、あのエルフリーデがそんなヘマをするようには見えなくなっていたマロリーは、その話を聞くまでの数日間彼女に近付くのを止めた。自作自演だったら、と恐ろしくなったのだ。


 恐ろしいと言えば……とマロリーは二人が装備を槍に替えて模擬戦をしているのを見つめながら、最近、頭の片隅に恐ろしい考えが浮かぶようになってきたのを思い出す。

 それは、“エルフリーデは本当にエルフリーデなのか?”という考えであった。

2022.06.12 誤字修正

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