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妖精と王子様のへんてこワルツ  作者: 魚野れん
炎と氷と薔薇のお茶会

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2

「そうよね。カルケレニクス辺境伯の所は二人きりの兄妹ですものね。

 ともにまだ婚約者が決まっていないとか。一年だけならば、と辺境伯が言うのも仕方がないわね」

「女性騎士団への所属が悪い事とは思っておりません。おそらく両親も。

 ですが、任期を延長についてはわたくしどもが決める事ではありませんので、本当にお答えする事はできません」


 王妃の機嫌を損なうのは避けたいが、安易に答える訳にはいかない。だって、エルフリートは次期伯爵なのだから。

「ふふ、もちろん分かっているわ。

 残念! 見かけと違ってからかいがいがないのねぇー」

 すぐに扇を閉じて口元に笑みを浮かべる彼女に、ほっとする。機嫌を損ねた訳ではないみたいなのは良かったけど、見かけと違ってってどういう意味かちょっと分かんないや。

 エルフリートは乾いた笑みを浮かべた。

「ああ、でもあなたがいてくれたら本当に心強いわ。

 ロスがあなたと一緒にいると楽しそうだもの」

 ヘカテイアが微笑むと、すぐ横から声がかかった。


「わたくし、ロスが嬉しそうにあなたの事を話している姿を見るのが好きよ」

「アレクシア王女」

「あなたとロス、お似合いだわ。

 わたくしはね、二人の掛け合いが好きなの」


 アレクシアがエルフリートに話しかけるのは初めてだ。エルフリートは彼女と向き合った。

「童話に出てきそうな王子様と妖精さん。正にそんな二人を見ていると、わたくしまで幸せな気持ちになれるのよ」

 両手を合わせて微笑む彼女こそ、童話に出てくるお姫様そのものに見える。やや強めの波打つ金糸は簡単にまとめるだけで、その綺麗な波が目立つように遊ばせている。

 バラをモチーフにしたドレスも相まって、お姫様感が強い。

「二人の雰囲気も自然だし、本当に憧れのカップルなの」

「そうですか。光栄ですわ」

 確か、アレクシアはエルフリートよりも年上だったはず。そんな彼女に対して何と答えて良いのか戸惑ってしまう。


「何と言ってもあのお披露目会のダンス! もう、私夢を見ているんじゃないかって思ったくらいすばらしかったわ」

「ありがとうございます」

「そうそう、ダンスと言えば先日の仮面舞踏会もすばらしいペアがいて、圧巻だったのよ」

「あれってロスとフリーデのお兄様でしょう?」

 ヘカテイアが加わった。……そういえば王家主催だっけ。エルフリートは一人で盛り上がっている王女に、ゆっくりと頷いてみせる。

「ええ、そうなんです。たまたま兄はこちらに来る用事があったようで。

 舞踏会では男女のペアが普通ですから、わたくしよりも適任だと、ファルクマン公爵が兄をロスヴィータ嬢の護衛に指名してくださったんです。

 兄は大喜びでしたわ」

 うん。おおむねこんな感じだよね。エルフリートはしれっと嘘を語った。


「フリーデのお兄様、すごく雰囲気のある方ね」

「そうでしょうか?」


 完璧を目指していてロスヴィータとそのごく周囲しか気にしていなかったエルフリートは、彼女にそう言われてもピンと来なかった。エルフリートが首を傾げると、アレクシアが再び笑う。

「身内の事って鈍感になってしまうわよね。ふふ、あなたのお兄様はとても素敵だったわ。

 ロスに負けない長身でって見目だけじゃないの」

「そうですか」

「彼は気配りの人ね。あの夜、全身全霊でロスに気を配っていたわ。

 彼女を悪意ある視線からも遠ざけていたし、彼自身が目立つ事によってロスヴィータが目立ちすぎるのを誤魔化してもくれていた。

 あんな良い男性、そうそういないわ」

 王家の人間って結構ああいう場では暇なのかな。ずっとエルフリートたちを見ていなければ、そんな事に気がつかないだろう。


「……そう、ですか。

 家での兄はそんな風に見えなかったものですから、想像つきませんわ」

 手放しで誉められると困ってしまう。とりあえず、エルフリートとしての登場は及第点というのは良かったと思えば良いのかな。

 だが、ヘカテイアはもちろんアレクシアも“エルフリーデ”の正体を知っているのではないだろうか。エルフリートはその可能性をアレクシアの発言から感じつつ、エルフリーデとしての振る舞いを続けた。


「目立つ存在が一対のようになっていて、自分たちの世界に入っていたら誰も話しかけてなんかこないものね。もはや仮面舞踏会のオブジェよ。よく考えたわ。

 中途半端に権力のある人間にはご令嬢がたが群がっていたし、最初の頃のロスに群がった紳士がたもそう。あの紳士がたからごく自然に彼女をさらっていったのも大きいわね」


 あれは、単純に支度が遅れちゃったのと、目標が隠れていたらしくて見つけるのに時間がかかっちゃっただけなんだけどな。誉められたのに申し訳ない。

 それと同じくらいに、自分たちをずっと観察していたのだと思うと背筋がちょっと……。

「ふふ、まったく別の方のお話を聞いているみたいですわ」

「本当にすごかったんだから。今度王都にいらっしゃる時には是非お会いしたいわ」

 もう会ってます。そっちだって分かってる癖にずるいです。エルフリートは心の中でそっと返事をするのだった。

2021.2.20 誤字修正

2022.6.10 誤字修正

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