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妖精と王子様のへんてこワルツ  作者: 魚野れん
炎と氷と薔薇のお茶会

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1

 サロン――それは、煌びやかな装いの女性達が集う場所。普通のサロンと違うのは、ここが王宮の中で集っている何人かに王の血筋が混ざっているという事。かく言うロスヴィータも王の血筋が混ざっている人間の一人である。

 肩を露出した大胆な意匠のドレスを身につけているのは、王妃のヘカテイア。王の庭に咲き誇るバラのような美しいモチーフにくるまれたドレスはその娘である王女アレクシア。彼女達を始め王の親戚が数人。その中にロスヴィータが含まれている。

 末席ながらその列に連なる身であるロスヴィータが呼ばれたのは女性騎士団の件である。その為、ロスヴィータの隣には彼女と同じように飾りたてられたエルフリーデが座っていた。


 エルフリーデは、珍しい形のドレスを身にまとっていた。チョーカーのようにスタンドカラーのカラーだけが独立している襟が特徴的だ。ドレス本体はデコルテを大きく見せるように四角く開かれていて、流行に沿ったボリュームのあるスカートになっている。

 そんなドレスの肩口の辺りからはふっくらとしたパフスリーブが繋がっており、そのパフスリーブが絞られている二の腕から下は、ひらひらと柔らかな曲線を描くゆったりとしたブッファンになっていた。

 スリーブの生地は薄く透け感の強いもので、彼女の腕のラインがうっすらと透けて見えているものの、傷跡は全く分からない。エルフリーデの雰囲気を良く表現しつつ怪我を隠す、すばらしい意匠だ。


 一方ロスヴィータの方は仮面舞踏会の際から解禁された、彼女にふさわしい大人っぽいドレスを身につけていた。肩口まで開かれたオフショルダーで、長めの袖は大きくスリップが入っている。

 ボディラインがはっきりと分かるタイトなドレスは、流行からはずれすぎないように裾が広がるようボリュームが持たせられていた。


「それで、好調みたいだけれど」

 ヘカテイアは美しい黄金色の髪をふんわりと結い上げ、ルビーとサファイアがちりばめられた華美なティアラをつけている。耳飾りにはピンクダイヤモンドが輝いていて、彼女の持つ愛らしさをうまく表現している。

「はい。おかげさまで、活動は順調です。

 あとはもうじき始まる新規騎士募集次第といった所です」

「そうよね。せっかくだもの、優秀な部下はもう少し多い方が良いわよね。

 どんなにエルフリーデを筆頭とした三人が優秀でも、メンバーが少なすぎるわ」

「仰る通りです」

 ヘカテイアの指摘通りである。ロスヴィータもそれは心配していた。特に、来期はエルフリーデが抜ける予定だ。彼女の存在は大きい。

 自分だけでどんな風にこの隊を繋いでいけばいいのか。不安が残る。


「もう一年、エルフリーデに居てもらえないの?」

「王妃!」


 優雅にお茶を口にするエルフリーデは反応が薄い。お茶会が始まってからのエルフリーデは殊更大人しくしている。恐らくは自分が場違いだと思っているからだろう。

 そんな黙りを決め込む彼女の代わりにロスヴィータが声を荒らげた。

「必要ならば、わたくしが陛下にお願いしてあげるわ」

「本人の都合もありますから!

 無理を言って王都まで来ていただいている身、勝手にこちらが決める訳にはいきません」

 エルフリーデが無反応なのを良いことに王妃が好き勝手に言い始めてしまう。ああもう! ロスヴィータは自分が国王の親戚である特権を使いたくないのだと言外に伝えるしかない。


 ヘカテイアはロスヴィータの反応をただ楽しんでいただけらしく、彼女の声が強くなったのを見て笑い出す。

「ふふふ、冗談よ。

 人の気持ちをないがしろにするのは人の上に立つ人間としては失格だもの」

「あなたもお人が悪い……」

「だってロス、あなたが女装してるんだもの。嬉しくって。

 でも男装姿も見たいわ」

 王妃はそう言うと、手を叩いた。あらかじめ控えていたのだろう侍女が数人現れる。王妃様、人の気持ちをないがしろにしないんじゃなかったんですか……ロスヴィータはひっそりとため息を吐くのだった。




 エルフリートは王妃の命令で連れ去られた彼女をのんびりと見送った。

「さて、ロスが王子様になって戻ってくるまで、あなたがわたくしの相手をしてくれるんでしょう? エルフリーデ」

「王妃様、わたくしでよろしければ喜んで」

 このお茶会はほとんど国王と親しい女性で構成されている。それもほぼ血縁関係だ。王妃と王女を筆頭に、王妃の兄妹の中でも親しくつきあっているとされる家の姫や、王の姉弟が結婚した相手の家の姫。

 そもそもヘカテイア自身が王の遠縁である。つまり、ほとんど全員に一定以上の王家の血が流れている事になる。

 エルフリートはその中で少し異質だった。そもそも姫ではない。それに血筋が遠すぎる。ロスヴィータでさえぎりぎりの遠さなのに、それよりも更に遠い。

 ロスヴィータを境界線にすれば、エルフリートの母親がそこを越えられるかどうかといった所である。つまり、薄い血を半分だけ継いでいるエルフリートは、本来ここに座れるような人間ではない。


「エルフリーデは、任期の引き延ばしについてどんな考えをお持ちなのかしら?」

 エルフリートがここに呼ばれたのは、ロスヴィータ関連だろうと予想はついていた。だから時が来るまでは静かにしていたんだ。正直、この話題について決定権はないんだよね……領主からの命令だもん。

「わたくしの一存では決められませんので、回答はできかねますわ」

 エルフリートの答えにヘカテイアはぱさりと扇を広げ、ゆるりと薄い笑みを浮かべた。お気に召さなかったみたい。どうしようかなあ。

 エルフリートはヘカテイアにつられるようにして薄い笑みを作った。

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