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妖精と王子様のへんてこワルツ  作者: 魚野れん
魔物制圧には王子と妖精が一番

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4

「ギャワゥッ」

 まばゆい光が剣から生まれ、クエレブレがうるさく鳴いた。まぶしさに一瞬目を閉じる。

「あ、ロスっ!」

 間近で聞こえたエルフリーデの声に振り向きつつ剣を引き抜くと、羽つきが飛びかかってきていた。

 近い! 獰猛な爪から身を守ろうと剣を構える時間はなかった。

「くっ」

「ロス、しっかりっ!」

 目の前に割り込んできたエルフリーデがかろうじてその爪を受けた。

「クエレブレにとどめを!」

 羽つきの爪は大きかった。受けきれずにエルフリーデの腕が切り裂かれる。彼女の傷を気遣うよりも早く、反射的に身を翻してクエレブレの額を目指す。クエレブレが首を振って暴れながら尾を大きく振り上げて抵抗する。

 その大きな揺れにロスヴィータはクエレブレの頭へしがみついた。


「ロス、大丈夫?」

「問題ない!!」


 エルフリーデの心配する声に、声を張り上げて答える。ともすれば振り落とされてしまいそうだったが、食いしばって前進する。ぴり、と指先が熱を持った。鱗で切れたかもしれない。

 気にせずそのまま進んだ。バルティルデがロスヴィータから気を逸らさせようとクエレブレの目の前に飛び出した。一瞬クエレブレの動きが止まる。ロスヴィータは立ち上がり、飛んだ。

 せり出している鼻の上に着地したロスヴィータは剣を引き抜き目の前にの大きな眼球に突き刺した。

「おとなしく……しろぉ!」

 全体重をかけて剣を刺す。ひときわ大きな雄叫びが上がる。ロスヴィータは耐えきれずに振り落とされた。

 どしゃりと背中から落ちる。強い衝撃に息が詰まった。


「かはっ」

「ロスっ!」

 エルフリーデの声だけが聞こえる。あったま痛いっ! 目の奥が猛烈にちかちかと明滅していた。

「援護する!」

 バルティルデがロスヴィータに声をかけてクエレブレへと向かっていく気配がした。早く起き上がらなければ。何とか仰向けの状態からうつ伏せへと転がったが、目が開かない。腕に力が入らず、ただ地面をかくだけで動くのもままならなかった。

 このままじゃまずい。動け! このまま奴に潰されていいのか!? 頭の中だけではいくらでも自分を叱咤できる。だが、体は動かない。ロスヴィータがここで寝ころんでいる今、頭上ではクエレブレがバルティルデを相手に暴れている。踏まれたり振り払おうとした腕が襲いかかってくるのは時間の問題だ。


 エルフリーデはもう片方の羽つきと対峙していてまだ応援に来てくれないだろう。そう思った時、ふわりと空気が動いた。

「大丈夫、ちょっと離れよう」

 いつもより低いエルフリーデの声が耳に届いた。両脇に腕が差し込まれ、そのまま引きずられる。その震動に合わせて頭がずきずきと痛んだ。

「すぐ戻るから」

「……ああ」

 ロスヴィータが小さく答えれば、彼女の気配はさっと遠のいた。

「全知なる神の裁きよ下れ!」

 様々な音の込み合う中、そんなエルフリーデの声が聞こえ、直後にクエレブレの断末魔が追いかけた。

 ロスヴィータはじっとしている内に、何とか瞼を開けられるようになった。あと少しすれば、立ち上がれるようになるだろう。……最悪だ。重大な局面でこんな間抜けな。未熟な自分に腹が立つ。


「ロス、終わったよ」

 山で遭難した時に見かけたような、泥だらけの妖精がいた。いつもよりも引き締まって見えるその顔は、ロスヴィータをこの上なく安心させた。

「助けてくれて、ありがとう」

「ふふ、それはお互い様。

 頭を打っているみたいだから、ロスは早く診てもらわなきゃね」

「いや、あなたも早く診てもらわないと」

 エルフリーデの腕の事である。彼女の腕は、ロスヴィータを守る為に羽つきの鉤爪で切り裂かれたはずだ。ロスヴィータは決して気が付かなかった訳ではない。それよりもクエレブレの討伐を優先しなければならなかったからだ。エルフリーデの声かけも後押しした。

 彼女の強い意志が込められた声が、ロスヴィータを本来の任務遂行への思考に切り替えさせたのである。


「……腕を怪我させてしまった」

「ロスを守る為の傷なら、それは勲章みたいなものだよ」


 ロスヴィータはエルフリーデの頬を撫でた。見かけ以上に芯のある、可愛らしいだけじゃない私の妖精さん。お互い、たまに失態を犯すけれど、補いあって何とか解決している。

 相性は悪くないどころか、一番だと思う。

「ずっと、あなたが私の補佐なら良いのに……」

 ぽろりと本音がこぼれた。しかし、これは過保護な親が提示してきた条件の一つ。そしてその期限はもうすぐやってくる。

「私はずっと、あなたの妖精よ。これからもね」

 エルフリーデの唇が額に落ちてくる。唇が触れた所だけがほんのりと淡く、熱を持った気がした。

「さあ、王子様。帰りましょうか」

 そう言って微笑むロスヴィータの妖精は、珍しく中性的な雰囲気を持つ天使に見えた。

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