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妖精と王子様のへんてこワルツ  作者: 魚野れん
魔物制圧には王子と妖精が一番

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3

「毒抵抗はあるけど、物理には弱いから気をつけて」

「では、改めてクエレブレは女性騎士団に任せ、我々はそれ以外を攻める。行くぞ!」

 アントニオの号令で彼らは散開した。ロスヴィータはクエレブレを睨みつけたまま、エルフリートに命令する。

「フリーデ、クエレブレを落とせ! 翼を失えばただのトカゲになろう」

「任せて」

 エルフリートは魔力の放出で興奮状態なのか、瞳がアメジストのように光り輝いている。いつもよりも紫が強いそれは、より確実にクエレブレを落とす手段を考えているはずだ。

 クエレブレが近くを飛んでいる羽つきに気を取られている間に魔法を組み立てるのだろう。


 ロスヴィータは乱戦状態の地上に目を走らせた。マロリーはずいぶんと遠くにいるようだ。時折彼女のものと思われる氷の柱が出現している。補助しろと言ったはずだったが、どうやらその派手な魔法が見えるあたり前線にいるらしい。

 確かに補助魔法をかけたり、攻撃を防ぐ盾をタイミング良く発動するよりは遙かに簡単で手っ取り早い方法だという事は認める。だが、何かあった時のサポートをする人間が離れている現在、無謀な動き方だ。

 彼女が好戦的な性格なのは把握している。無茶や命令無視をしないように、後できつく指導しなければ。


 その一方でバルティルデは傭兵として実戦経験を積んでいるだけあって、ロスヴィータの命令を忠実に守ってくれる。時にはいい具合に補佐してくれる。頼もしい限りだ。

 今はロスヴィータの後ろに立ち、なるべく目立たないように気配を消している。エルフリーデがクエレブレを撃ち落とすまで、どの魔物にも絡まれたくないからだ。タイミングを逃せば、被害が出る可能性がある。だからこそ、今はじっと好機が来るのを待つのである。


 薄暗かった森は一転して明るくなってきていた。というのも、別に日が昇ったわけでも移動したわけでもない。魔獣によって木々が倒れてしまったからだが。立派な森林破壊……足元は危ないものの、だいぶ見晴らしが良くなっていた。

 視界が広がったおかげで、遠くにいるマロリーの位置もある程度把握できるし、上空の様子も分かる。気が付けば、羽つきの数が増えていた。エルフリーデの方は攻撃方法を決めたらしく、なにやら長い呪文を唱えている。

 乱戦状態で、じっと空を見上げているのはなかなか簡単にできる事ではない。エルフリーデはそれをうまくこなしている。どんな視界をしていればそんな風に周囲の動きを読む事ができるのだろうか。

 まるで緩やかなダンスを踊っているような動きだ。投擲された縄に引っかかった魔獣が落ちてくるのをひらりと避け、地上で繰り返される接戦からは距離を置く。倒木に足を取られる事もないし、それらをこなしながらもクエレブレへ向ける視線は変わらない。


「――願わくば、我らが守りの誓いを叶えんことを。我らが神よ。善神よ。尊き全知の神よ。

 神聖なる雷をもって彼の者に裁きを与えたまえ!」


 まっすぐに彼女の指がクエレブレを指し示した。するとクエレブレの真上に雷雲が立ちこめ、あっという間に雷が落ちた。その大きな雷撃は見事にクエレブレへ当たり、撃ち落とす。雷撃はクエレブレを中心に樹木の根のように広がっていき、周囲にいたほかの羽つきへと当たっていく。

 連鎖反応に当てられた羽つきもどんどん墜落していった。

 今まで見た事もない大きな魔法にロスヴィータは我を失う所だった。

「ロス、今だ!」

 バルティルデの声ではっとしたロスヴィータは墜落したクエレブレへ駆け寄った。くすぶる巨体をさらしながら鈍く動くそれは、見るからに弱っていた。


 墜落したほかの魔物を避けて駆け寄りながら剣を構え、そのままクエレブレの腕を切りつける。かなり太さのある腕は簡単には切り裂けなかった。堅い鱗に傷をつけるだけで終わってしまう。

 ロスヴィータが一太刀目を諦めて一歩引けば、それを補うようにバルティルデが飛び出した。彼女は突き刺すようにして剣を鱗の間に差し込んだ。ぐい、とてこの原理で鱗を剥がしてみせる。

「ギギャッ」

 汚らしい声を上げて悲鳴を上げた。鱗一枚でいちいちうるさい奴だ。ロスヴィータはバルティルデの動きを見習って鱗を剥がし始める。暴れる腕やしっぽを避けながらは結構難しい。


「刺せば、死ぬかな」

「いや、難しいと思うよ。麗しの隊長殿」


 ロスの楽観的な観測にバルティルデが軽口をたたく。そりゃそうか。今剥がしているのは肩のあたりなのだから。しかし、その作業は長くは続けられない。

 落雷のダメージをやりすごしたクエレブレが起きあがったのだ。ロスヴィータとバルティルデはすぐに距離をあけて剣を構えなおした。

「ロス! バティ!」

 近くに墜落した魔物たちを無力化しながらやってきているらしく、エルフリーデは少し遠くで魔物に手をかざしている。それを最後にまっすぐ駆け寄ってきた。

「恐ろしく強烈な大業だったな」

「長期戦はこちらが不利だもの。それに、上空で派手にやったら応援が来てくれると思って」

 エルフリーデの言う通り、大きく三つに分かれて活動している。もしほかの二つがはずれだったならば、今の騒ぎで合流してくれるだろう。


「こいつ、結構頑丈なんだ」

「距離が開くとブレスが来るから気をつけて」

「それが結構……っと、暴れるんだよ!」

 距離を置いていた三人はじわりとクエレブレへと近づいていく。一番近くにいたバルティルデがクエレブレの攻撃を避けながら嫌そうに抗議をしたが、ロスヴィータに睨まれた。

 少し動きを抑えつけた方が良いかもしれない。エルフリーデにロスヴィータは頼み事をした。

「一度、鱗を剥がした所へ剣を叩き入れる。ふさわしい付与を頼む」

 クエレブレが不満そうに長い尾を地面に叩きつけた。ちょうどそこにあった岩が砕け散る。あれにあたったら、ただでは済まないだろう。

「賢神よ、悪しき者を捕らえる聖なる力を貸せ」

 何らかの付与がされ、淡く剣が光る。チャンスは一度。一気に距離を縮めたロスヴィータは伸ばされた腕を避け、その肩口に剣を突き刺した。

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