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妖精と王子様のへんてこワルツ  作者: 魚野れん
夜会には王子様と妖精さんを添え……たかった

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5

 レオンハルトは踊り終わったエルフリートたちの微笑ましい姿を見守っていた。もちろん護衛対象と踊りながら。今回のパートナーは末姫のニコールだ。彼女は幼いながらに落ち着いた雰囲気を見せているが、結構噂好きでもある。

「あのお二人、本当にお似合いですわね」

「ええ。同性とはいえ、あんなに似合う組み合わせはなかなかないでしょう」

 薄桃色のふんわりとした生地を重ねて作られたドレスを揺らしながら、優雅にステップを踏む。今流れている曲は、ニコールの為の曲だ。彼女が疲れない程度の短めの楽曲になっている。

 まだ十になったばかりの幼い彼女は、この曲を踊ったら退場する。王族としての務めを最低限こなすのだ。


 ニコールはエルフリートたちが気になるのか、視線がそちらに向かう。あまり褒められた行為ではないが、レオンハルトは放っておいた。

「あら、大変!」

「どうかしましたか?」

「エルフリーデが倒れましたわ」

 彼らを見つめていたニコールだからこそ気がついたのだろう。彼女の視線が向かった先を見れば、確かにエルフリートが近くの給仕に支えられている。……不自然だった。

 エルフリートが簡単に倒れる訳がない。それは彼の親友であるレオンハルトだからこその意見であるが、周囲はあまり気にした風ではない。


 エルフリートはそのまま給仕によって会場から運び出されてしまった。レオンハルトは思わずニコールに願い出た。

「ニコール様、緊急事態なのでおそばを離れてもよろしいでしょうか?」

「そんなに彼女が気になりますの?」

 少しばかり意地悪そうに彼女が言う。単純に王族を放ってしまう程なのか確認したいだけだろう。

「私は彼女を知っています。今日のスケジュールで倒れるようなひ弱な人間ではありません。

 念の為、彼女の安全を確認したいのです」

「分かりましたわ。もし、何かが起きていた場合はあなたが指揮なさい。宜しいですね?」

「はっ」

 幼くとも王族。踊り終えた彼女は父王に“エルフリーデ”が倒れた事、その様子が不自然だった事、そして事実確認から先の指揮をレオンハルトに任せる事を簡潔に伝えに行った。


 レオンハルトは父王が頷く様子を見て、すぐに行動へと移した。まずはロスヴィータへの報告だ。

 直前まで近くにいた彼女の方がエルフリートの体調に詳しいはずだ。

「フリーデは連れ攫われたに違いない。あんなに可愛らしいんだ。

 どこぞやの馬の骨が彼女を欲しがっても不思議ではない……!」

 なかば憤怒の表情でロスヴィータは走り出した。慌ててレオンハルトは追いかける。途中で警備中の騎士から剣を奪い、馬屋で待機中の馬を引っかける。

 乗馬用の馬ではないが、馬力はあるだろう。ロスヴィータは馬具のついていない馬を適当に選んで乗り駆けた。レオンハルトも彼女に習って剣と馬を確保した。


「おい、少し前に馬車は出なかったか!?」

「ああ……お嬢様が貧血だとの事で、お帰り――」

「分かったありがとう!」

 やってきたのは門だった。この夜会に入退場するにはこの門を必ず通るしかない。

 それを見越してだろう。門番の答えを最後まで聞かず駆け出した。

「すまん、方向は合っているか?」

「合ってます!」

 すごい剣幕で出ていってしまったロスヴィータに驚いている門番の確認が取れたレオンハルトは、再び彼女を追いかける。


 ……いやぁ、王子様はすごい。レオンハルトは親友が憧れてやまない彼女の勇姿を見て、純粋にそんな感想を抱いた。

 馬具のないまま、乗馬に自信のあるレオンハルトが追いかけるのも苦なぐらいにいい走りっぷりを見せている。同じ条件とはいえ、レオンハルトか追いつくのは中々厳しいものがあった。

 更にはそれらしき馬車を見つけて速度を上げ、騎士から奪った剣を御者に向けて投げた。正確には馬に向けて投げたらしいそれは馬の目の前を飛んでいき、驚いた馬が悲鳴をあげた。


 いななく馬を御しきれなくなった御者は、慌てて馬を止める。レオンハルトが追いついた頃には、凄まじい気迫のロスヴィータに負けて両手を上げていた。

「御者を頼む」

「あぁ」

 ロスヴィータは勢いよくドアを開けた。

「フリーデ!」

 中にはエルフリートしかいなかったらしい。そのまま彼女は馬車に乗り込んだ。

「もう大丈夫だっ」

 御者を捕縛したレオンハルトが見たのは、宝物を大切そうに抱きしめる王子様の姿だった。




 エルフリートが再び目を覚ますと、そこは会場の控え室だった。そこのカウチに横になっているらしい。ゆっくりと起きあがろうとして失敗する。まだ力が入らないみたい。

「身体はもう何ともないか?」

 ロスヴィータが近くにひざまずき、視線を合わせてくれる。

「薬を飲まされたらしい。

 連れ攫われた事にすぐに気付いて追いかけたんだ。ちゃんと見つけられて良かった」

「……あり、あと」

 優しく頬をなでられる。あ、お化粧とれちゃう――って、そうだ。夜会!


「やかい」

「問題ない。そろそろ閉会の時間だが、フリーデの不在くらい私が何とか誤魔化してみせよう」

 心配するな、そう付け加えられてエルフリートは眉を下げた。

「戻ってくるまでここで休んでいてくれるか?」

 優しい問いに、瞬きで答える。

「良い子だ。では行ってくる」

 ロスヴィータは颯爽と部屋を出ていった。ぽつんと残されたエルフリートは、薬の影響で動かない肉体を恨めしく思いながら、助けに来てくれた時の彼女を姿を思い出しては小さな笑みを浮かべるのだった。

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