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妖精と王子様のへんてこワルツ  作者: 魚野れん
夜会には王子様と妖精さんを添え……たかった

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「とりあえず、何もなくて良かった。何が目的だったんだ?」

「分からないけど、人攫いかしらね?」

 人が増えてきて口調を改めながら会話を進める。レオンハルトはのほほんとしたエルフリートの声に苦笑する。

「仲間には注意するように伝えておこう」

「お願いするわ」

 会場の奥からエルフリートを見つめるロスヴィータの姿が見えた。目と目が合った気がして、エルフリートは朗らかに微笑んだ。

「案の定変な男に絡まれていたから、つれてきたよ」

「フリーデ、大丈夫だったかい?」

「ええ、もちろん」

 会場内の明かりが落ちる。柔らかな色合いの光に変わり、優雅な音楽がダンス用の曲へと切り替わる。

 スケジュールを把握しているレオンハルトは、自分の護衛対象を連れて静かに離れていく。


「フリーデ、私と踊っていただけますか?」

 腰を下げて上目遣いで聞いてくる彼女はきまっていた。はあ、なんてかっこいいの。

「……喜んで」

 掲げられた掌に自分の手を添える。ダンスなんてみんなで何度も練習したのに。これが本番だと思うと震えてしまいそう! 胸の高鳴りを覚えながら誘われるがままに中央へと向かう。エルフリートたちが集まるやいなや、中央部だけの照明が明るくなる。

 歓談の場所として使われていた会場中央部の広場は今やダンススペースへと変わっていた。女性騎士団員の披露を含んでいる為、最初の数曲はロスヴィータたちの独占だ。

 それが終わったらパートナー同伴で来ていた貴族たちが参加する。全員どこかしらのタイミングでダンスを踊る事になる。相手を変えながら踊り続ける人もいれば、一曲だけでやめてしまう人や、ひたすら自分のパートナーとだけ踊る人だっている。


「あなたを手放したら、誘う手あまたになるだろうな」

「手放さないで、と言いたい所だけど……それは難しいかもね」


 メヌエットを踊りながら近づいた隙に言葉を交わす。自分たちだけのダンスが終わったらしばらくはワルツが演奏され、最後にバラードで締めくくる予定。

 アップテンポの音楽が始まり、ロスヴィータに身を任せた。コントルダンスだから、タイミングが勝負。

 それにしても、彼女とは身長が近いせいかホールドされた時にしっくりくる。レオンハルトを相手に練習していたせいで身長が自分よりも高い方が楽だと思っていたけど、身長差ってそんなに関係ないのかも。

 ちらりと周囲を見れば、特徴的なレースの袖をたなびかせながら踊るマロリーの姿があった。アントニオとは身長差があるけど、うまくやれている。うん。これは相手との相性もありそうだね。

 リードする側が上手なら、リードされる側は安心して身を任せられる。

「ふふ、体力のある限り踊っていたくなるわ」

「私の妖精さんが願うなら」

 そうしてコントルダンスを踊りきり、元のペアに戻る。少しスローテンポのワルツを披露したら、一度退場。これから貴族たちのダンスタイムだ。


 飲み物を受け取り、口に含みながらダンスを見る。最初は誰もが自分のパートナーと踊っている。

 中には今話題の婚約ペアもいる。詳細は忘れたけど、一波乱あったみたい。そのせいか婚約ペアに視線を向けてる人も結構いる。

「フリーデ、楽しかったよ。また後で少し踊らないか?」

「もちろん喜んで」

 はあ、またきらきらと輝いてる王子様と踊れるなんて。これじゃ妖精さんというよりもお姫様になったみたい。……お姫様も悪くないかも、なんて。

「おや、デザートが並び始めている。取ってくるよ」

「ありがとう」

 ビュッフェブースへと向かう彼女を見送ると、後ろから声をかけられた。


「お飲物のおかわりはいかがですか?」

「あら」

 給仕の男性だった。爽やかな笑顔で進められたのはシードルだ。

「ありがとう」

 捧げられたトレイからグラスを受け取る。甘い香りがする。

「ずいぶんと香りが良いのね」

「はい、今回は特別に楽しめるお飲物を用意させていただきましたので」

「ふふ、おいしそう」

 一口含む。しゅわ、と炭酸が舌の上ではじける。程良い甘み、とはちょっと遠い味に首を傾げ――全身の力が抜けた。

「では、新しい会場にご案内します」

 エルフリートに聞こえたのは、それが最後だった。




 目覚めた時、そこはどこかの馬車の中だった。もやがかかったみたいに頭がぼんやりする。揺れている事から移動中なんだろう。それくらいしか分からない。

 主催側の人間がいなくなっちゃったら大変じゃないか。でも、身体が動かないしなぁ。

「……ぅあ」

 ろれつも回らないや。これでは魔法も使えない。打つ手なしのエルフリートはこのまま誘拐されるしかなかった。

 しばらく馬車に揺られていると、急に揺れが激しくなった。こういう時って、何か異変が起きたって事――だよね? 起きあがる事もままならないエルフリートは窓の外の様子を見る事すらできない。不安に思いながら事態の進展を待つ。

 馬車が急停止して馬のいななきが聞こえる。そして扉が勢いよく開かれた。弾け飛んだのかと思うくらいの速度で開いた所から太陽がのぞき込んだ。

「フリーデ!」

「あ……」

 エルフリートは次の瞬間、ロスヴィータの胸の中にいた。

「もう大丈夫だっ」

 ぐっと抱きしめられたまま、エルフリートは再び意識を失うのだった。

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