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妖精と王子様のへんてこワルツ  作者: 魚野れん
夜会には王子様と妖精さんを添え……たかった

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 寮の玄関で待ち合わせをしていた女性騎士団は、それぞれの姿を見て満足そうに頷いた。ロスヴィータは先ほどまで着ていた礼服を思わせる白に、青と金を基調とした刺繍で彩られた燕尾服を着ている。すっごくかっこいい! 事前に衣装合わせをしたから、どんな姿なのかは分かっていたけど、本番の気合いが入った姿とは雲泥の差だ。

 全て白にするのではなく、ベストは淡い色彩の紫でエルフリートの瞳をイメージした色になっている。これと対になるように、エルフリートの方は髪飾りの宝飾物をロスヴィータの瞳をイメージしたエメラルドにしている。ふふ、本物のカップルみたい。エルフリートは並び立つ自分たちの姿を想像して笑みをこぼす。


 バルティルデはワイン色のタイトなドレスで、彼女の魅力的な筋肉をあますところなく見せつけている。深く入ったスリットには色気というよりも元傭兵らしい潔さを感じる。

 彼女のパートナーとして、夫のグストースが来ている。彼は妻のバルティルデを立たせる為か、控えめの意匠だ。チャコールブラウンの燕尾服で、ベストは黒。どちらも近くで見なければ分からない程に細いストライプの生地を使っていて色のバランスが良い。

 マロリーはエルフリートのドレスをシンプルにしたような、スタンドカラーのドレスだった。ただし、袖は全てレースになっており、財力のある貴族らしい仕上がりで、その袖の形もマロリーに似合っている。袖口の広いそれは、彼女の動きに合わせてふわりと舞う。かっこいいと可愛いの中間で、とてもセンスが良いと思う。


 彼女のパートナーは、護衛も兼ねてアントニオなんだって。彼の隊は、今回要人護衛を担当していて、要人のパートナーとして参加する。普通の貴族が開く夜会からすると異色だけど、特殊な夜会だから許されるんだろうね。

 レオンハルトから貴族のパートナーとして参加するって聞いていたエルフリートは、マロリーのパートナーについて聞かされた時は納得したものである。

 マロリーのお父様、議会貴族だもんね。大切な一人娘、いくら戦えると分かっていても心配してしまうのだろう。ロスヴィータの両親もそんな親の一人だ。それに巻き込まれた側のエルフリートとしては、娘の晴れ舞台には優秀な護衛を念の為につけておきたいという気持ちは分からなくもない。

 因みに当のアントニオは直前まで会場護衛の調整があるという事で、会場で合流する事になっている。


 雑談をしている内に迎えの馬車が到着した。四人乗りの箱型タイプとオープンな二人乗りのタイプ、合計二台。二人乗りの方にバルティルデ夫妻、四人乗りの方には残りの三人が乗り込んだ。

 本当は馬車三台で乗り付けて皆の注目を集めたかったが、アントニオが不在では仕方がない。マロリーが浮かないように四人乗りを選ぶ事となった。

 はあ、どきどきする。目の前にはマロリー、隣には王子様。ちらちらと横目にロスヴィータを見る。凛々しい雰囲気は小さな時から変わらない。いつもかっこいい。


「私の服に何かついているか?」

「えっ?」

 ふっと覗き込まれ、突然視界いっぱいに王子様が広がった。やや暗めの車内で陰った瞳は深緑に染まり、普段の青空のような鮮やかさはない。でも、それが逆に彼女を普段よりもきりっと見せていて、何だか見てはいけないものを見てしまった気持ちにさせる。

「私の事が気になっているようだったから」

 エルフリートが目を見開いたのを見て、いたずらっ子のような笑みを浮かべた。年相応の姿にちょっぴり安心する。

「かっこよかったから、気になっちゃって」

 それに、普段はつけていない香水をまとっているから余計落ち着かない気持ちになる。爽やかな香りだけど、エルフリートがつけている香水にぶつからない。むしろ、相性が良いかもしれない。

 二つの香水を混ぜて一つの香水として使えそうなくらい。


「堂々と見て良いよ。隠れてちらちらと視線を送られる方が気になる」

「あ、うん。ごめん」


 言われるがまま、姿勢を正したロスヴィータを見続ける。うっすらと化粧を施した彼女は、普段よりも男前だ。元々太めの眉は綺麗に整えられ、普段よりもくっきりと描かれているし、エルフリートのメイク同様シャドウが入っていて顔立ちがはっきりとしている。

 頬はうっすらとオレンジ系の頬紅で、唇はややマットなアプリコットのような色だ。男性っぽくなるのではなく、ひっそりと女性らしさを添えた自然な雰囲気でロスヴィータの魅力を引き出している。


 こんな素敵な人と、夜会で踊るんだ。興奮のあまり息が荒くなる。

「フリーデ」

「なぁに?」

 夢見心地のまま返事をする。ロスヴィータがエルフリートを女性らしく見せる為に垂らした一房の髪をつまむ。そしてその髪にゆっくりとキスを落とす。

「今日は一段と可愛らしいよ、私の妖精さん」

「はぁん……王子様ぁ……」

 とすん。エルフリートの胸に彼女の言葉が刺さる。可愛いって言ってもらえた! 麗しい姿の彼女に言われたら、それだけで胸がいっぱいになってしまうし、仕草一つ一つがかっこよくて、見とれてしまう。


 ロスヴィータは名残惜しそうにエルフリートの髪を手放して、髪の毛を整える。その仕草が妙に手慣れていて、くすぐったいような、こんな事を誰にしてたのか気になるような、複雑な気持ちになる。こういう事はエルフリートにだけしていれば良いのに。

「独り占めしてしていたくなる」

 エルフリートの心を読んだかのような発言に、密かに気を遠くする。その隙をつかれ、そっと抱き寄せられて頭がくっつく。はう、近い近い! フル回転でエルフリートは言うべき言葉を探す。えっと、こういう時ってご令嬢なら何て言うんだっけ!? そうだ、これこれ。言ってみたかったの!


「今の私はあなたのもの、なんてね」


 そう言ってエルフリートは小さく笑みを作って体重を預けた。うう、王子様があったかい。普段からスキンシップは少なくない。でも、こんな風に甘えるのはちょっと照れくさい。照れくさいけど、こんなチャンス見逃すわけがない。

 ふふ、幸せぇ……。

「あと半年。もうしばらくは私のものでいてくれ」

 どこか切実な響きをはらむ声に、エルフリートは興奮そのままに小さく頷くのだった。

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