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妖精と王子様のへんてこワルツ  作者: 魚野れん
まさかの山岳生き残り訓練

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9

「おまえな、もう少しどうにかできなかったのか」

「だってぇ」

 横になっているエルフリートに苦言を呈したのはレオンハルトだった。エルフリートは救護室で安静にしている最中である。先日、滑落したロスヴィータを助けた際に怪我をしてしまった。そこまでは良い。救援に来てくれたロスヴィータ達と合流した先が問題だった。

 聖者に怪我を診られる事になってしまった。エルフリーデとしてこの場にいる訳だが、その実は男である。肋骨を診てもらうという事は、胸元や腹部を見られる可能性が十分にある。

 当然ながら胸は平らだ。筋肉による膨らみはあるが、女性のそれとは全く種類が違う。それに、体幹部――特に肋骨から腰まで――は見る人が見れば骨格が違うと分かってしまうだろう。エルフリートは運び込んでくくれたレオンハルトにこっそりと相談した。

 彼のくれたアドバイスはある意味実に的確だった。


 相手に気がつかれないように幻惑の魔法を使い、更に精神魔法を重ね掛けするという強硬手段だったんだ。

 聖者の彼には、ちんまりとした胸をほんのり柔らかそうなおなかを幻惑で見せて、とってもリラックスするような精神魔法をかけてあげた。結果、何度も肌を見せるのは嫌だろうから一気に治すと言われ、この様だ。

「私は悪くないわ。勝手に治療しすぎたのよ、彼が」

「魔法強すぎたんじゃないか?」

「リラックスさせてあげただけだもの」

「判断力が低下しすぎても、逆に危険だと思わなかったのか」

 エルフリートは首を傾げた。だって、治してもらえるなら治してもらいたかったし。何度も治療されるのは嫌だったから、それはそれで結果はオーライだったかなって。


 ……こんなに寝込むとは思わなかったけど。


 レオンハルトは自分の頭をかきむしった。わあ、ぼっさぼさだぁ。妹の猫そっくり。

「心配したんだからな」

「え?」

「俺は、ロスと二人で山に残されたと聞いた時はそんなに心配していなかった。おまえはプロだからな。でも、合流した途端にこれだ。

 心配で目が離せないよ」

 彼が緩く編まれている髪を持ち、それに口づける。心配されるってむず痒い。

「ごめんね」

「いいさ。俺はとことん付き合ってやる」

 今度はおでこにキス。こんなに過保護だったっけ? あ、カモフラージュか。いくら何でも同性相手にこんな過激なスキンシップしないもんね。レオンハルトの全力でエルフリートをサポートする姿は尊敬に値する。


 私も早く復活してロスのサポートに回らなきゃ。そんな事をぼうっと考える。

「そろそろ俺は行く。ちゃんと寝ていろよ」

「はぁい」

 レオンハルトが何かに気がついたように視線を揺らしたのに気がついた。やっぱり誰かいるんだ。ひらひらと手を振ってレオンハルトを見送ると、エルフリートは訪問者に気がついていないように振る舞った。

 ぽすっと身体をベッドに沈ませる。はあ、体がだるい。こんなになったの、いつぶりだろう?


「……大丈夫か?」


 控えめに声をかけてきたのは、ロスヴィータだった。松葉杖を使ってゆっくりと近づいてくる。慌てて起きあがると、逆に慌てられちゃった。

「落ち着いたら改めて礼を言いたかったんだ」

「私は、私の誓いを守っているだけだけだから」

 エルフリートは、単に自分の役割を全うできなかったという不手際の責任を取っただけだ。そして、ロスヴィータを守るという自分の使命を果たそうとしただけだ。


「でも、お互いに無事で良かったね」

「ああ」

「最後の最後はびっくりしたけど」

「……あれは本当にびっくりした」


 あの時を思い出して、二人で苦笑する。

 ロスヴィータに泣きそうな顔で迫られたのを思い出す。そんなに重度の怪我だったのかと、聞かれた時には首を小さく動かすくらいしかできなかった。そりゃ、さっきまで自分を背負っていた人間が起きあがれないくらいぐったりしていたらショックだよね……。

「驚かせちゃってごめん。でも、怪我事態は完治してるから安心して自分の怪我を心配してよね?」

 本当に自分の怪我を考えてほしい。エルフリートは消耗しきった身体が回復すれば完全復活だけど、ロスヴィータは怪我自体がまだ残っているんだ。安静にして、早く治してほしい。


 彼女は自分の事なんて無頓着なのか、これくらい大丈夫だと軽く見ているのか、どっちにしろ自分を大切にしてほしいよね。エルフリートの息が荒いのを見てか、彼女が苦笑した。

「あなたのかわいらしい身体を損なう事に比べたら、私のこれなんかどうって事ないさ」

「はぅっ」

 精神的に王子様! かっこよすぎて語彙力がなくなっちゃう。

「王子様、私、今度こそ守ってみせますぅ……」

「ははは、そう守られてばかりになるわけないじゃないか」

 レオンハルトが座っていた椅子に腰掛けた彼女は、笑いながら頬をつついてくる。わあ、触られてる。王子様がじゃれてきてるぅ!


 輝いていてまぶしい笑顔、涼やかな碧に穏やかな緑が覗く瞳。絵本の中から出てきたばかりの王子様みたい。優しげに笑む口元も魅力的。

「私の妖精さん。どうか私にもあなたを守らせてほしいな。綺麗好きで身だしなみも整える上品な人なのに、山の中では男顔負けの狩人になる。

 いろいろな側面を持つあなたからすれば、私なぞ小さな器かもしれないが、それでもできる事はあるはずなんだ」

「ロス……」

 何てすばらしい心構えなんだろう。エルフリートはそんな彼女を尊敬するのだった。

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