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妖精と王子様のへんてこワルツ  作者: 魚野れん
まさかの山岳生き残り訓練

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8

「……私、たぶん肋骨が折れてるの」

「は?」

「でも固定してるから、大丈夫!」

 取って付けたように笑顔で言う彼女を、思わずにらみつけてしまった。

「抱きしめた時の感触が変だったし、フリーデが息を詰めたから気がついたんだよ」

「だって、あんなに強く抱きしめるんだもの。痛むに決まってるじゃない」

 口論を始める二人を見ながら、ロスヴィータは一人後悔していた。山に詳しい彼女に、すべての無理を押しつけてしまっていた自分が許せなかった。


 狩りは全て彼女に任せていた。道中で遭遇した蛇を退治してもらったし、夜中に近くを狼がうろついていてどきどきとした時には威嚇してもらった。背負って歩くだけでもずいぶんと大変な事だったろうに、ずっと守ってくれた。

 いや、後悔するだけではだめだ。ロスヴィータはぐっと拳を握りしめた。

 そうなってしまったのは全て、ロスヴィータの鍛錬不足が原因だ。自分の未熟っぷりが嫌になる。この怪我が治ったら、自分を鍛え直さないと。そして、エルフリーデを守り抜けるくらいの実力をつけなければ。


「フリーデ。助けてくれてありがとう。

 私はまだまだ半人前だが、近い内にあなたを守りきれるくらいの強さを身につけてみせる。

 そして女性騎士団の隊長として恥じない人間になる!」


 口論を続けていたエルフリーデがぱっと顔を向けた。その顔には驚きが混じっているように見える。

「ロス……」

「だから、もう少しだけ未熟な私を見守っていてほしい。

 あなたが不安に思うようなところがなくなる人間になるまで、待っていてほしい」

 言うだけでは終わらせない。

「神に誓って」

 ロスヴィータは正式に祈りを捧げる時のポーズを取った。左手を胸にあて右手拳を額に当てて、それから拳をを開いて口元までおろす。


「……分かった。一緒にがんばろう?」


 視線を上げれば、静かな微笑みをたたえたエルフリーデがいた。その美しさに言葉が詰まる。

 彼女と一緒なら、どんな壁でも乗り越えていける。そんな気持ちになった。

「マディソン隊長、そろそろよろしいですか」

「すまない」

 話が一段落するタイミングで話しかけてきたのは、レオンハルトが所属している隊の小隊長、アントニオだった。確か、レオンハルトの遠縁だったはず。無骨そうな見た目とは裏腹に、紳士的で優しいと人気の騎士である。

「まずは近くの村まで行き、怪我の状態を確認します。

 その具合でこれからの行程を決めます」

「ありがとう」

 彼はロスヴィータの乗った馬を引き、歩き始めた。


 アントニオの言っていた村、とはイオキア村だった。ロスヴィータ達の経路からは少し外れるが、合流した場所からは一番近い人里になる。イオキアにはアントニオの所属する隊の他にも数隊が待機していたらしく、僻地の村にしてはにぎやかだった。

 確認してみると、救助の方が重要だからと訓練を切り上げて一番近いこの村で待機を命じられていたらしい。本当に迷惑をかけてしまった。ロスヴィータは改めて反省する。

 ある程度の大きな演習ともなると、救護要員がついてくる。医療班と呼ばれる、訓練された「戦って癒せる“聖者”と言うには屈強すぎる隊員」もイオキアで待機していた。


 ロスヴィータとエルフリーデはそれぞれ診てもらえる事になり、改めて自分の状況を思い知らされる事になる。ロスヴィータは右足首の骨が折れ、靱帯も切れていた。痛みに耐えて平気でいられたのは、エルフリーデが適切な処置をし続けてくれていたからだ。

 正確に添え木をし、薬効が切れるまでにサリクアルバを飲ませ、患部にも痛み止めや消炎剤を塗った。そしてきちんと栄養のあるものを食べさせて体力を消耗しないように気を配り、足首を悪化させないように極力安静にさせる。

 これらの事全て、簡単にできる事ではないと言い切られた。そもそも十分な食料を毎回手に入れ、一人の人間が負傷した一人の人間を守り、移動するのは訓練を重ねた騎士にだって並大抵の事ではないという話だ。

 更に本人自身も負傷していたのに、下山するまで隠しきった。それらを成し遂げたのが十五の少女だと言うのだから、推して知るべし。


「エルフリーデ嬢には、心の底から感謝をした方が良いですよ」

「そうだな……診てくれてありがとう」

「いいえ、ご無事だっただけで何よりです」


 担当してくれたジャコモに言われ、ロスヴィータは素直に頷いた。早くエルフリーデに会いたい。そう思っていた彼女だったが、それは想定外の状態で叶えられる事となった。

 それはイオキア村で買い取った幌馬車の中であった。荷台の中で横になって眠り続けるエルフリーデ。その顔は青白く、とてもじゃないが昨日までロスヴィータを背負って歩き続けた人間とは思えない。


 ここ連日の無理が祟った上に、とあるアクシデントが起きたせいだった。それは聖者のせいだった。肋骨はひびが入っている程度だったらしく、簡単に治せると思った医療班の聖者――実は見習いだった――が繋げてしまったらしい。

 だが、そういった乱暴な医療行為は本人の体力をかなり奪う。

 その結果、起きあがれない程になってしまったのだ。


 逆にロスヴィータの方は一気に治療をする事が難しかった為、そういう事態にはならなかった。……治癒魔法って難しい。

 治癒魔法の複雑さは、アカデミーを出るよりも難しいと言われていて、事実難しいようだ。なかでも程度の判断、適切な治療ペースの調整が難しいらしい。

 とにかく、そのとんでも聖者のせいで、負傷者二名に訓練中の女性騎士団員二名が幌馬車によって王都へ輸送される事となったのだった。

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