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妖精と王子様のへんてこワルツ  作者: 魚野れん
まさかの山岳生き残り訓練

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7

 彼女の手に掛かればウサギの皮はするっと剥けて、簡単に裸にされてしまう。

 見事なウサギだ。丸ごと焼いたら、さぞやおいしいだろう。ロスヴィータは思わずのどを鳴らした。彼女はウサギにどこから持ってきたのか竹の棒を刺し、香辛料を擦り込んで、それを枝でできているたき火台にひっかける。まだ火は点いていない。


 少し寝かせている間に、荷物の中から実を取り出した。それを担当で器用に割っていく。何の実だろうか。

「この実、茹でると食べられるのよ」

「へぇ……」

 本当に彼女は山の事なら何でも知っているようだ。何の実なのか全く分からなかった。食べたら分かるよ、と言われてしまえば、それまで待つしかない。

 あらかじめ作られていたもう一つのたき火台の方で湯が沸かされ、実が投入された。ぐらぐらと煮え、クッカーの中で踊る実を見ているとわくわくする。


「栄養があるけど、デザートに使われる事が多いの」

 エルフリーデがヒントをくれたが、ロスヴィータには分からなかった。茹で上がる頃合いを見て、ウサギのかかったたき火台に火が点る。勢いよく燃える火は、ウサギの表面を焼き始め、てらてらと汗のような油を染み出させていた。

「はい、どうぞ」

 エルフリーデが魔法で冷却してくれた木の実を口に入れる。ひんやりとしたそれを噛む。

 ふんわりとした爽やかなリンゴの香りにクルミのような渋みが現れた。噛めば噛むほど甘みが増し、渋みがじんわりと舌を刺激する。


「分かった。ユーグラスティカだ!」

「正解」


 様々なデザートに使われるユーグラスティカは、アルコールで渋みを調節してから使われる事が多い。この渋みの微調節によってデザートの味に幅が生まれるので、メインの食材としてではなく隠し味として使われる。

 よって、基本的にこの形のまま出す事はなく、小さく切り刻まれている事が大半である。元の形を知らぬとも、味を知らない貴族はいないだろう。

「良かった。貴族じゃないって言われても仕方がない失態になるところだった」

 そう言って、もう一粒をひょいっと口に放り込む。おいしい。


「さ、そろそろウサギのお肉だよ」

 エルフリーデはウサギの丸焼きをナイフで削る。削った肉片を軽く炙り、それぞれのクッカーによそっていく。ウサギの肉は昨日の鴨と違って硬めだった。まあ、肉は熟成させるらしいから、こんなものなのだろう。

 この命に感謝しながら、二人で食べきったのだった。




 早朝にエルフリーデが罠を確認し、日中はエルフリーデに背負ってもらって移動、早めの食事を取るという生活はすぐに終わりを迎えた。救援に来た騎士団と合流できたのである。滑落して、四日目の午後だった。

 元々一日で山頂へ登り、下山する事が可能なコースを選んでいた。途中で滑落し、エルフリーデがロスヴィータを背負って移動するとは言え、たかがしれている距離だったという訳である。

 だが、簡単な道のりではなかったはずだ。まだ成長途中ともいえる年齢で、人一人と倍の荷物を抱えて移動するのには無理がある。身体強化でもかけていたに違いない。

 ロスヴィータの完全な落ち度だったのに、それに対する文句もなく、ただひたすらロスヴィータを支えるエルフリーデ。この山での四日間で、ちらほらと見るようになった真剣な眼差しや険しい表情の彼女は妖精というよりも、滅多に会えないエルフの騎士のようだった。


「二人とも、合流できて良かった!」

 馬を伴って山に入ってきたバルティルデ、マロリー、そしてレオンハルト他騎士団の数人を見た瞬間、安堵した。エルフリーデも同じようで、それからの歩きに力が入っている。

「揺れると痛むかもしれないけど」

 そう言いながらレオンハルトの手で馬に乗せられ、ロスヴィータとエルフリーデの荷物は馬に括られた。エルフリーデの方はレオンハルトに抱きしめられ、そのまま別の馬に乗せられていた。


「迷惑をかけて申し訳なかった」

 まず、ロスヴィータがしたのは謝罪だった。自分の落ち度が発端だ。一言、きちんと言っておかなければ。

「私が、訓練中だと言うのに気を抜いたから、皆に迷惑をかけてしまった」

「それは違う! 私が状況判断を間違えたからだもの!」

 馬から身を乗り出してエルフリーデが声を上げた。ロスヴィータは驚いた。いつになく険しい顔の彼女に、エルフリーデが今回の事についてロスヴィータが考えているよりも重く捉えていた事に気がつく。

 皆に謝る前に、エルフリーデと話し合うべきだった。


「はいはい、どっちの主張も正しいと思うけど、二人とも怪我人なんだから早く見てもらわないと」

 レオンハルトが割り込んできた。って、二人とも? ロスヴィータの周囲に疑問符が飛んでいるのに気がついたらしいエルフリーデが大声を出した。

「あっレオン言っちゃだめっ!」

「え、あ、知らないのか」

「おい、私が知らない事って何だ」

 嫌な予感がロスヴィータを支配する。まさか、エルフリーデは大きな怪我をしているのか? それをずっと隠してこの数日を過ごしてきたのではないか。自分はなんて間抜けなんだ!

「言わなくて良いの」

「今後の為にも言った方が良いと思うけど」

「レオン」

 エルフリーデとレオンハルトがにらみ合う。最終的に折れたのはエルフリーデだった。

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