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妖精と王子様のへんてこワルツ  作者: 魚野れん
まさかの山岳生き残り訓練

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4

「フリー、デ……」

「ロス、目が覚めた?」

 耳元で微かな声が聞こえた。最後の声を聞いてから一時間と少しくらいなのに、とても久しぶりの気がした。

「動くと傷に障る。状況を説明するから暴れないでね」

「……分かった」

「ロス、君は滑落して右足首の骨が折れた状態だ。幸いにも私は元気だからこうして運んでいる」

 エルフリートは自分の怪我の事は言わなかった。言ったってどうしようもないし、ロスヴィータを心配させるだけだから。

「もう少しで川に着く。そうしたらロスを川辺に降ろすから、足を冷やしてほしいの。

 その間にサリクアルバを煎じちゃうから。

 今夜は木の上で過ごすつもり。木登りは私に任せてね」

 最後の方は安心させるように、極力穏やかに言った。


「悪かった。私のせいで」

「気にしないで。これは私の監督不行き届きだから。それよりも無事で本当に良かったよ」

 怪我をさせてしまったのはエルフリートの責任だ。足元が悪いのを分かっていながら、自分が最後尾を歩くと決めたのだから。

「今は責任がどうのって考えないで。今考えるべきは、どうやってこれ以上の怪我なしで下山するか、だから」

「……分かったよ」


 エルフリートに余裕があれば、魔法でも何でも使って怪我をしないようにできたかもしれない。でも現実はこうなってしまった。起きてしまった事を覆すなんて、誰にもできない。だから、これからの事を考えるしかない。

「安心して。山のプロがここにいるんだから。ちゃんと下山できるよ」

 目の前に川が見えた。足を冷やすのに良さそうな岩場もある。エルフリートは気力を振り絞って重く感じる足を動かした。




 赤黒いあざ、腫れた足首。見るだけで痛々しい。サリクアルバを煎じている間に良さそうな木を探し、添え木を作る。煎じた液体を彼女に渡すと、おいしくなさそうに飲んだ。

 骨折したら痛いし熱も出るから、ちゃんと飲んでもらわないとね。飲み干すのを確認したエルフリートは、口直し兼夕食に干し肉を渡して、これを食べながらもうしばらく足を冷やすように伝え、今度は避難用の木を探しに行った。

 枝ぶりの良い、大きな木がある! エルフリートはほっとした。するすると木に登り、一番太い枝に縄を固定する。ロスヴィータを安全に木の上に運ぶ為の縄だ。結び方を間違えないように、数回確認した。

 暗くなり始めていて視界が悪いなぁ。魔法で光を生み出し目印代わりにしてロスヴィータのもとへと戻る。


 まずは彼女の避難から。しっかりと右足首を固定したロスヴィータを背負って木まで行き、用意したあの縄を使って木を登る。木の幹に近い方に座らせると彼女の体と枝を短めの縄で固定する。これは命綱になるから、慎重に結ぶ。それが終わったらもう一度川へと戻り、荷物を回収する。

 そうして全部木の上に避難させたエルフリートは、ようやく一息ついたのだった。


「吐き気は大丈夫?」

「今のところは問題ない」

 目立たないように光度を下げた魔法の光に照らされたロスヴィータは、やつれているように見えた。

「日が昇るまでは木の上にいるからその間にしっかり休もうね。

 辛いならマリンにかけた精神魔法使うけど、いる?」

「頼む」

「慈悲の善神よ、穏やかな眠りを」


 ロスヴィータの額に手を当て、静かに唱える。彼女はゆっくりと瞼を落とした。力が抜けていく彼女の背に腕を回す。彼女をそっと木の幹にもたれかかせて寄り添った。その上から持ってきていた布で自分ごとくるまった。

 多分、明日はロスヴィータが高熱に浮かされるだろう。色々なものが必要になる。エルフリートは明日の事を考えながら眠りについたのだった。

 翌朝、彼女を起こす前にムダ毛処理。面倒だし緊急時である現在は省きたいくらいなんだけど、正体がばれる訳にはいかないもん。


 それが終わったら彼女を起こして、川まで戻って朝食がてらロスヴィータの足を冷やす。雪の降らない山とは言え、もう冬はすぐそこまで来ている。昨日は緊急だったから長めに直接冷やしたけど、今日は川の水に浸したハンカチを使っている。

 サリクアルバを飲ませ、吐き気が襲ってきた時用に持ってきていた丸薬を渡しておくのも忘れない。今日はついていてあげられないからね。


「ロス」

「何だ」

 少し上気させた顔のロスヴィータに今日の予定を説明する。

「今日の移動はなし。君には療養していてもらう。

 私は午前中にロスの怪我に効きそうなものを探して、午後に食べ物の調達とかをしてくる。

 あなたには非常食じゃなくて、しっかりとした食べ物が必要だ」

「そこまでしなく――」

「いや、するよ」


 遠慮なのか、本当に必要ないと思っているのかわからないけど、彼女の言葉が言い終わらない内に却下した。

「体が持たない。悪いけど、無事に下山して二人と合流するまでは私の指示に従うこと」

 厳しめに言ってから彼女の鼻を軽くつまんだ。ふふ、ロスヴィータの瞳がまん丸になってる。

「私にあなたを守らせて」

 足手まといだとか、面倒をかけているだとか、そういう風に思わないでほしい。今はとにかく、体制を整える時だ。

 なんとしても、早く医者に見せたい。治癒魔法の使える聖者でも良い。でもそれは無事に下山できなければ意味がないんだ。それまではできる限りの事をするしかない。


 エルフリートはロスヴィータを樹上に安置し、そのまま森の中へと入っていった。まずはサリクアルバの樹皮を削り取る。これから探すのは、炎症を抑える効果のある薬草だ。カッシディアボリ。切ってつぶして患部に塗るんだよ。

 時期はずれだから効果は少ないけど、やらないよりはだいぶマシ。これは結構な量が必要になるからいっぱい探さなきゃ。

 あまり背の高い木ではないから、探すのは比較的簡単――に思うでしょ? 雑草や他の薬草に混ざっちゃうから結構難しかったりする。それに、季節はずれなせいで目印になる花も出ていないし。


「この山、結構見あたらない……」


 あちこちに生えているはずの薬草なのに。エルフリートは、ぽたりと葉に垂れた汗を見ながらため息を吐いた。

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