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「差が分からないな」
「なるほど……」
「これくらいなら知ってるわ」
三者三様の反応だね。なくはないって言っていたマロリーだけど、もしかしたら魔法の研究の為に山に入る事があったのかも。ロスヴィータはゴトゥコラを頼んだら別のものばっかり持ってきそうだなぁ。
単調とは言えないけど、比較的緩やかに登っていく中、もう一つの薬草を見つけた。水を好む樹木で、川の近くに見つけた。
「二つ目を見つけたよ。二つ目は鎮痛剤になる木だ。
サリクアルバ。樹皮をナイフで削って煎じて飲むと痛み止めになるの。煎じる余裕もないときは噛む事。
解熱剤も兼ねてるから、そういう時には摂取した方が生存率が上がるのよ。
ただ、吐き気がする事もあるからテルナータの根を処理したものを持ち歩くようにしていると良いね」
竹の葉にも似た細長い形をしていて、その縁取りはのこぎりのようにぎざぎざとしている。
「怪我をしたら、血が出たり痛くなったりするし、怪我の具合によっては熱が出る。
だからこの二つだけは必ず覚えてね」
ナイフを渡して、それぞれ樹皮削りをやってみてもらう。そうして削られた樹皮はもったいないから持って行く。
そのまま川に出て休憩。川の水を沸かして飲み物を作ったり、足を冷やして疲れを癒したり。
移動を再開したら、今度は山に住む生き物との対し方を説明し始めた。それが終わったら木で作る簡単な罠だとか、対人間との戦闘時の振る舞い方だとか、そういう方面の話をとりとめもなくしていった。
途中、岩場もあったりして大変だったけど、何とか頂上に辿り着けた。普段山に入るときは猟とか薬草目当てだから頂上までは行かないんだよね。
久しぶりに見る高い場所からの光景は、なかなか良いものだなぁ。天気が良くなったっていうのがすごく大きい。
「うわぁ……遠くまで見える」
「あっ、あそこ絶対私達が泊まった町だ!」
「体力的に、きつ……」
「予定より遅くなったけど、お昼にしよう」
感激するロスヴィータに指を指してはしゃぐバルティルデ、二人はまだ元気が有り余っているみたいだけど、マロリーは……下山大丈夫かな。
面々の様子を見ながら平らな岩を探す。山頂付近は慎重の低い木々ばかりがまだらにある位だから、見晴らしは良いしお昼を食べるには最適だと思う。
丁度良い岩を見つけたエルフリートは三人を呼んだ。
「さあ、ここでお昼にするよ。
マロリーは小さな火を点ける練習は完璧?」
「た、たぶん」
マロリーは、繊細な魔法を使っていた割に、その方向性がかなり偏っていた。火種を作る時、大きな火炎球になってしまったりするんだ。
途中で拾ってきていた比較的乾いている小枝や枝を組み合わせて、更に途中で切ってきた木の枝を器用に組み立てていく。ちゃんと説明するのも忘れない。
川で休憩した時は、大惨事を避ける為に解説抜きで勝手にお湯とか作っちゃったんだよね。でも、魔法が使えない事態に陥ったり、そもそも魔法が使えないロスヴィータやバルティルデの事を考えると原始的な調理用の三脚だったりラックだったりが作れないとまずい。
今はその作り方を教えるのとマロリーの魔法の練習。野営する時には初心者二人でこの組立をやってもらい、魔法を使わない火付けを教える予定。反応からして、バルティルデはこの一連の流れはすでに習得しているみたいだし。
この訓練の陰の目的は、“エルフリートがいなくても一泊くらいはできるようにしたい”というものだ。だって、エルフリートは一年契約だから。
「いざとなったら打ち消すから、安心してやってみて」
エルフリートの言葉に頷くと、彼女は真剣な眼差しで手をかざした。ふわりとマロリーの前髪が踊る。魔力を調整しているんだろう。一撃必殺みたいなものと、エンチャント系が得意みたいだからなぁ。
火付けの魔法は「えいっ」ってやって成功するものじゃないけど、初級中の初級だから普通は簡単にできるはずなんだよね……不思議。そういえば、生活に有効な魔法のひとつでもある洗浄系の魔法も使えなかったっけ。
もうこれは彼女の課題にしよう。うん。
どうしてそんなに難しいのかエルフリートにはわからなかったが、マロリーの額から頬に一筋の汗が見えた。
「いっけぇ……っ!」
火付けにしては、やけに強い言葉と共に小さな火が点った。それは移動中にエルフリートが乾燥させておいた樹皮に着火し、燃え始める。
「おめでとう!」
ああ、良かった。これで巨大な火炎球とか出たらと思うとぞっとする。本当に良かった!
それはエルフリートだけではなく魔法の使えない二人も同じだったようで、気の抜けた笑顔をしていた。
そんな笑顔でも相変わらずロスヴィータはさわやか王子様に見える。いつ見ても不思議なくらいかっこいい。エルフリートは訓練に集中している自分から、普段の自分に少しだけ戻れた気がした。




