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妖精と王子様のへんてこワルツ  作者: 魚野れん
まさかの山岳生き残り訓練

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 じっと身を潜め、動物たちの気配を探る。何でも良い。とにかく精のつくものを食べさせなければ。エルフリートは取ってきた食べられる植物や薬草を集めたその足で、獲物を探していた。

 エルフリートの顔は険しい。それもそのはずだ。怪我をしてしまった王子様と遭難中なのだから。




 女性騎士団が決して弱くはないと最初の模擬戦で理解してくれたらしく、騎士団と合同で訓練する日々が続いてた。そんな中、女性騎士団だけでの実地訓練の話が浮上する。

 といっても、もともとそういう訓練をしたいというロスヴィータの話を聞いていたエルフリートからしたら「ようやく」という気持ちであった。

 採寸を乗り切って作ってもらった制服に袖を通したエルフリートは、用意しておいた装備を身につける。

 エルフリートの装備は、長剣に念の為の短剣二本。一本は短剣っていうか、のこぎりなんだけど。これは武器じゃなくて山での非常用。何があるか分からないから、本当に念の為。


 訓練の場所は国境にそびえ立つ山である。この山を越えると隣国だ。絶対に何もないとは言えないが、隣国の人間がわざわざ喧嘩をふっかけに山へ入ってくるような険悪な仲ではない。

 どちらかと言えば友好的な方だ。緊急事態で侵入する事になっても、お金で済むくらいには……。

 エルフリートは頭に浮かんだ最悪な事態を想像してふるふると頭を振った。普段と違ってきっちりと編み込んだ髪が揺れる。


「大丈夫、私がいるんだから。山はどこも同じ」


 生息する生き物は違えど、やるべき事は同じだ。それに、そういう事態に陥るようなプランではなかった。とはいえ考えられる限りのいやな想像を元に用意した彼の荷物は結構な量だった。


 水嚢代わりになる皮袋が二枚、清潔なハンカチが三枚、長縄が二本、短めの縄が三本に平紐が二本。あと大きめの布が二枚。他は普通に騎士が持ち歩く品々で十分。

 エルフリートは普段よりも少しばかり重たい荷物を背負い直した。うーん、現地に着いたら縄は出しておこうかな。山への道のりは馬で、さすがに現地入りするまでにハプニングは起きないだろう。


 カルケレニクスよりはずいぶん近い、国境まで馬を走らせ丸二日間。はたして、エルフリートの予想通り、現地入りするまでに想定外の事は起きなかった。

 道中の宿には着替えを最低限にする為、魔法が使える人間と使えない人間を組み合わせて泊まった。

 交流を兼ねて初日はエルフリートとロスヴィータ、マロリーとバルティルデ。二日目はエルフリートとバルティルデ、ロスヴィータとマロリーの組み合わせにした。その宿泊での収穫はバルティルデはなかなかに面白い人物だったという事かな。

 エルフリートの事を“几帳面なお嬢様”と言ってみるような、傭兵らしく気さくな女性だった。そのくせ、真面目でしっかりとした考えを持っている。エルフリートはそういう人間がメンバーの一人である事を内心で喜んだ。


 彼女は確実に今後に繋がる人物になるだろうね。逆にマロリーとの接点が上手くつかめていない今、彼女の事が気になっているんだけど。

 きっと山歩きは一番苦手だろう。その時にでも話す機会が作れれば良い。道中そんな風にのんきに考えていたくらいには、順調だった。

 雲行きが怪しくなったのは山に着く直前だった。確かに二日目の夜、雨が降っていたんだけど、朝には止んでいたからそのまま移動を続ける事になった。

 山が近づくにつれ、少々天候が荒れていた。この荒れ具合はちょっと気になるものだったな、とエルフリートは自身の記憶を思い出していた。


 山の天候は変わりやすい。それを知っているエルフリートからすれば、今の状況は問題ない範囲だった。ロスヴィータが天候について相談してきたものの、これくらいなら許容範囲だろうと伝えた。何かが起きる時、天候はまったく関係ない。

 むしろ悪天候であるからこそ起きる事もあるだろう。だから、悪天候も含めて訓練の一つだと考えたのだ。ロスヴィータは多少不安はあるものの、その通りだと同意してくれた。

 本当は、その“多少の不安”の時点で訓練を取りやめれば良かったのかもしれない。あるいは延期していれば。

 そんな事、いまさら言っても仕方ない。とにかくそうして訓練は始まったのだった。


 山の経験があるのはエルフリートとバルティルデで、なくはない、というのがマロリー、避暑程度ならというのが意外にもロスヴィータだった。

 隊長が初心者という事で、エルフリートが今回の訓練ではリーダーとなっていた。どのルートを通って何をするか、ロスヴィータの要望を取り入れて計画したのはエルフリートだ。

 今回は山頂を目指し、下山中に一泊をするだけだった。それぞれに地図を配り、綿密な打ち合わせもした。山中では役に立つ薬草講座、山中での戦闘時の立ち回り方、それらを実地で説明していく事になっている。


 数ヶ月ぶりの山に、エルフリートは心を弾ませていた。だいぶ都会になれたつもりだったけど、やっぱり山が一番だね。

 自然は生命にあふれている。全ての生き物に平等の機会を与えてくれる。厳しさも、優しさも、何もかも。そんなところが大好き。普通に堪能していたいんだけど、ちゃんと訓練はしなきゃね。


「緊急時に必要となる薬草の内、いくつかは現地調達ができる。

 常緑多年草だったり、根の部分を使うものだったり。

 特に重要で覚えて欲しいのは、二つ。これがその一つ」


 突然霧が出てきたりぽつぽつと雨が降ってみたり、不安定な天気のせいで予定が遅れてきている中、エルフリートは見つけた薬草を採って三人へと渡す。ツタ植物で少し厚めの葉っぱが特徴。

 使うには大量に採らなきゃいけないけど、いっぱい採ったって枯れないから安心して使える。

「止血剤になるゴトゥコラ。繁殖力が強くて、だいたいの山で見つけられるの。葉っぱの根本を引っ張れば簡単にぷちって取れるよ。

 ギザギザしている葉っぱのここ、一カ所だけ大きく切り込みみたいなのが入っているのが特徴なんだけど、似た形のものがいっぱいあるから間違えないようにね」

 似た形の全く違う植物をむしり、それを渡す。

2021.8.17 誤字修正

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