Scene3
獣道の木の上で清水神輿はフフと笑った。
「そうと決まれば尋常に勝負よ!」
清水は柄型デバイスを両手で構えた。そんな彼女を後目にオレはデバイスから<緑>の光刃を出力し、清水が立つ木の幹を切りつけた。しかし、鈍い手応えがあるだけで木には傷一つ付かない。
清水は揺れる枝の上でよろけながらも、
「木を切断しようとしたのね。でも残念。研修用デバイス程度の威力じゃ、フィールド内の物質は切断できませぇん」
ククク、と笑う清水に苛ついたオレは問答無用で木を蹴りつけた。大きく揺ゆれる枝の上で、清水は腕を振り回し、姿勢を保っている。そんな彼女を下から仰ぎ見ると、スカートの中がよく見えた。
「ピンクでウサちゃんとか、お子さまかよ」
オレが呟くと、清水は両手でとっさにスカートを押さえた。だがそのせいで足を滑らせ、木の枝から逆さまに落下した。彼女が頭から着地する未来が見えたオレは、彼女の下に滑り込み、彼女の体をソフトに抱き止めた。
オレの腕の中で、清水がポカンとした表情でオレを見上げていた。反応に困ったオレは、清水を叱りつけることにした。
「逆さまに落ちるな。怪我じゃすまないだろ」
「ふえぇ、ごめんなさい……じゃないよ!」
清水が脚を振り上げ、膝でオレの頬を打ち抜いた。オレの頬に鈍い痛みが走り、その反動でオレは思わず清水を手放した。もちろん清水は腰から地面に垂直落下し、湿った地面の上をのたうち回った。
数秒もすれば清水は立ち上がったが、彼女の制服は泥だらけになっていた。そして清水は顔を真っ赤にし、スカートの裾を押さえて声を荒げた。
「よくもウチを汚してくれたわね! まだ男の人に見せたことないのに!」
清水は手元にあったデバイスから緑の光刃を出力し、オレに切りかかった。だからオレは後ろに飛び退いたが、清水が振り払った光刃が分裂し、三日月型の衝撃波となってオレに迫った。
オレはとっさに木の幹に飛び込み衝撃波を回避した。衝撃波が木の幹にあたり、枝葉がガサガサと音をたてたが、木の幹そのものには傷一つ付かなかった。オレは木の幹から顔を覗かせ、清水にククク、と笑い返してやった。
もちろん清水は地団駄を踏んだ。
「アッキーが前より意地悪だ!」
「オレのことを前から知ってるようだな?」
オレがそう尋ねたとき、清水はピタリと動きを止め、平坦な声で言った。
「アッキーはウチのこと、覚えてないの?」
オレは答えることができなかった。
「本当に忘れたんだね。でも心配不要だよ」
フィールドの遠くでは爆発音が鳴り響き、それから遅れて、獣道の木々がざわめき、清水のポニーテールがはためいた。
「忘れたことは、思い出させればいいんだよ!」