Scene2
獣道から崖をのぞき込めば木々の隙間から河原が見える。この川に反って進めば池の中央にはたどり着けると感じた。後は敵の気配を感じれば、保護区でしてきたように忍び寄り、銃型デバイスまたは柄型デバイスで戦闘不能にすれば良い。気がかりなのはスタッフにデバイスを預けたときに何かされていないかということだった。
心配になったオレは柄型デバイスを取り出し、デバイスに魔力を注いだ。すると想定通り光刃が出力された。だけどオレは背筋が凍り付いた。
デバイスからは緑色の光刃が出力されていたからだ。
オレはデバイスを構え周囲の気配を探った。だが、敵の気配を感じ取ることができなかった。だが敵が近くにいないはずがなかった。
数分前、オレは<白>の魔力特性で彩早の<黄>の魔力を吸収し、彩早と交信していた。その後すぐに<緑>に変色したということは、すぐ近くで<緑>の魔力が発生したということになる。そのせいなのか、デバイスを握る手に力が入り、熱の籠もった掌には汗が滲んでいた。
オレの背後から、女子生徒の息づかいが聞こえたのはそのときだった。オレは体を背後に向けると同時に光刃で空を振り払った。すると光刃が激しい音を上げ、一瞬遅れてデバイスを握る手に衝撃が響いた。何もいなかったはずの空間には、オレと同じく<緑>の光刃を握りしめた女子生徒の姿があった。
オレは力で強引に女子生徒の光刃を弾き、彼女の体に向けて光刃を突き出した。だがこの女子生徒はオレの突きを易々と交わし、猿に身軽な動きで木に登りった。彼女はオレを見下ろすと、底抜けに明るい声で笑った。
「魔術による索敵もせずにウチの気配に気付くなんてやるじゃん! でも、今の一撃でしとめられなかったのか運の尽きよ!」
彼女はポニーテールを揺らし、親指を薄い胸元に当てた。
「ウチの名前は清水美輿。一年生の中で最も緑属性の魔力強度が高い、和菓子屋の看板娘だよ。そういうわけでアッキー! 覚悟しなさい!」
「誰がアッキーだ!」
オレが声をあげると清水は肩を震わせた。
「アキラだから、アッキーじゃん!」
そのときオレの体が硬直した。
だが清水はそんなオレの状態に気付かず続けた。
「フフフ、アレルギーが治ってすぐに戻ってきたばかりで申し訳ないけど、今日のキミの研修はここで幕引きだよ!」
オレは息を飲んだ。
オレの目の前にいる清水美輿は、間違いなく十年前のオレのことを知っていたからだ。




