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Scene2

 フィールドには既にオレ達以外の三チームがスタッフの側に集っていた。一つは魔力計測試験をオレ達の前に実施していた女子生徒がいるチーム、もう一つはオレの顔を見るや、怯えるように顔を歪ませる男子生徒がいるチーム、最後に燃えるような赤髪の男子生徒がいるチーム。そしてオレ達が最後に集合すると、スタッフはオレ達に試合の規定について説明した。曰く、魔術研修では公平性を担保するために、使用するデバイスの審査を行い、それ以外のものは衣服も含めスタッフが用意したものを着用するということだった。


 この規定について承諾したオレ達は、使用するデバイスをスタッフに預け、スタッフに指定された男子更衣室に向かった。更衣室にはそれぞれの生徒用のサイズに合った制服が用意されおり、オレは『野原暁』と記名されたハンガーに制服に手をかけた。そのすぐ隣では赤髪の生徒、橘正也がワイシャツに袖を通している。彼は隣にオレがいることに気づくと、オレに微笑みかけた。


「魔術実習の練習試合で旗先生に勝ったんだって? 真面目にオレのチームに移籍してみない? 七光りチームにいるより有意義だと思うけど」


 オレは制服に袖を通し、言葉を返した。


「憩居は七光りじゃない。あいつは人一倍魔術に誠実で魔術を勉強している。それはオレより長く憩居の側にいた橘の方が理解しているだろ?」


 橘は鼻で笑った。


「父親のデバイスの力で仲間にブイブイ言わせている奴を七光りと呼ばないで何と呼べと?」

「それは憩居の体が……」


 オレが言い掛けると、橘は手を伸ばして制止した。


「心の痛みがわかる奴だと信じていたんだ」


 橘はブレザーに袖を通すと、スタッフのチェックを受け、専用のデバイスを受け取り、更衣室を退室をした。そしてオレも手早く支給された制服に着替え、スタッフに歩み寄った、そのとき大柄な男子生徒がオレの前に割り込んだ。彼はオレを一別するとニヤリと笑った。


 その言葉にオレは苛つき、男子生徒の腰に拳を突きつけた。すると彼は肩を飛び上がらせ、そして何も危害を加えられないことがわかると、忌々しげな口調で、


「この前のように行くと思うなよ」


 彼は捨て台詞を残し、更衣室を退室した。


 そして大柄な男子生徒の姿が見えなくなったタイミングで、オレもスタッフから全身を検査を受け、問題がないことを確認し、スタッフからデバイスを受け取り、更衣室を退室した。


 フィールドに戻ると既に和毅と彩早の姿が自分達の居場所を知らせるように手を振っていた。だからオレは二人の側に歩み寄り、彩早に憩居はどうしているのかを尋ねた。彩早が言うには、憩居は女子生徒が全員外に出てから着替える週間があるらしく、戻ってくるまでにはまだ時間がかかるということだった。実際、時間が経過してその他のチームの女子がフィールドに戻ってきても、憩居は戻って来なかった。もしかしたら更衣室で何かされているのではないかと心配になったが、他のチームの女子生徒全員がフィールドに戻ってから程なくして、憩居も戻ってきたので胸をなで下ろした。


 それを見た彩早が目を光らせた。


「遅いよぉ、憩居。さっきから暁くんが心配そうにその場を行ったりしてたんだよぉ?」


 すると憩居はオレをじっと見て言った。


「待たせてごめん。スタッフに全員揃ったことを伝えてくるから」


 憩居はそう言うと、スタッフにチーム全員が集まったことを伝えに向かった。その傍らでは和毅と彩早が驚いたように目を見開き、二人してオレのわき腹を突いて、前のめりになったオレの耳元で囁いた。


「お休みの間に、憩居ちゃんと何かあった?」

「憩居が素直に謝るなんてそうそうないぞ」

「……二人とも私を何だと思ってるの?」


 スタッフへの報告を終えた憩居に声をかけられ、和毅と彩早は気まずそうに笑ってごまかした。一方でオレは憩居に耳打ちした。


「何もなかったか?」

 憩居は少しだけ頬を緩め頷いた。


 そのとき、スタッフが号令をかけたので、生徒達はオレ達も含め、スタッフの前に整列した。スタッフは全盛と集まったことを確認すると、簡単に研修のルールを説明した。ルールは事前に聞いた通りのチーム毎のサバイバルで、デバイスを用いて対戦相手を無力化し、最後に残った一チームが優勝というものだった。


 そしてスタッフは簡単なルール説明を終えると、何かを合図するように手を広げた。その瞬間、フィールドが強い光に包まれた。オレの視界は一瞬で白に塗りつぶされ、その眩しさ故に思わず目を瞑った。それから数秒後、ふいに耳元に草木のざわめきが聞こえた。目を開けると、オレは独りで草木の茂った森の中に立っていた。そして天井からアナウンスが降り注いだ。


『魔術研修、午後の部、スタートです』


 こうして、魔術研修が始まったのである。

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