Scene3
店を出た後、近くのバス停からバスに乗車し、坂を上った。座席に座る間、憩依の表情は堅く、時々ため息を漏らしていた。だから、これから向かう場所がオレに話しておきたいことと関係があるのだと察した。
実際、バスを降りた先には大きな病院があった。そして憩依は病院の中に入り、受付で入館証を受けとり、オレを病院の別棟へ先導した。別棟へは本館の二階から渡り廊下を経由し、受付からもらった入館所を使用することで別館に別件に入ることができた。
別館の廊下を進むと小さな広場あり、寝間着を着た子ども達がお喋りしたり、ゲームをして遊んでいた。小さな体躯や立ち振る舞いから皆、小学生くらいだと推測した。中には車椅子に乗った子もいる。
子ども達はオレ達に気づくと、オレ達に歩み寄り、憩依のことをお姉ちゃんと呼び腰に抱きついたり、オレが手に持っている和菓子屋の包みにくっついた。まるで好奇心旺盛な子ネコのようだった。そんな子ども達に負けじと、憩依も歯がむき出しになるくらいの笑みを浮かべ、オレからカステラの包みを受け取り、広場のテーブルに向かい、子ども達にカステラを取り分けている。そのときの憩依はとても穏やかな表情をしていた。
そんな憩依からカステラを一切れ頂き、黄色い生地のフワフワ感と、茶色い生地から感じる蜂蜜の甘みを楽しんでいると、オレの隣に白衣を来た女性が並んだ。きっちりメイクで整えた顔と白衣から除く抜群のプロポーションは、彼女の自信と快活さを感じさせる。女性はオレの方を向き微笑んだ。
「憩依ちゃんの担当医の瀬川です。あなたは憩依ちゃんの彼氏?」
「クラスメイトの野原です。憩依が言わなければならないことがあると言うので付いてきました」
すると瀬川は納得したように頷いた。
「それならキミにも憩依ちゃんの検査に同伴してもらうね」
そう言うと瀬川は子ども達にもみくちゃにされている憩依を連れ出し、オレ達を診察室に案内した。診察室に入室後、瀬川は憩依を座らせ、服を脱ぐように指示した。
憩依は一瞬、オレを見ると覚悟を決めたようにセーター、インナー、ブラジャーを外し、膝の上に置いた。透き通るような白い肌が赤く紅潮しているのが見えた。そんな状態の彼女が見えたオレは気まずくなり、憩依から視線を逸らした。だけど憩依に私を見てと言われたので恐る恐る振り向いた。
憩依はオレと向き合うように立っていた。腕は脱いだセーターとブラジャーの上に置かれ、彼女の乳房が露出していた。だけどオレは性的に興奮する余裕を持てなかった。憩依の左胸の中で、何かが青白く光っていたからだ。
静かな診察室で、憩依の左胸から鼓動が聞こえていた。憩依はオレの手首を掴むと、自分の乳房に押しつけた。オレは女性の扱いには不慣れだったので、憩依の乳房の表面を探るように触れた。
マシュマロのように柔らかい脂質の奥から、脈打つような振動を感じた。それは心臓の鼓動に非常に似ているが、確かな違和感があった。そのとき、オレの脳裏に憩依の噂が過ぎった。
「……これは?」
憩依は赤らんだ顔を逸らして言った。
「私の体には生命を維持するためのデバイスが埋め込まれているの」