Scene2
コンテナの内部ではランプの中の青い炎が揺らめき、中央にはパイプ椅子に縄で拘束された白衣を纏う男を照らしていた。
宮内記。
科学に魔術を取り込んだしたテクノロジーを日本に普及させた第一人者だ。クライアントの情報には、彼の年齢は五十二と記されていたが、容姿は三十代前半のように見える。誰が見ても、彼のことを『お兄さん』と呼ぶだろう。
宮内はオレを見ると、好奇心旺盛な子どものように目を輝かせた。そして拘束された手足をばたつかせ、
「待っていたよ。お尻が悲鳴を挙げているんだ。早く解放して欲しい」
この男にはどこか違和感あった。だが彼の気の抜けた第一声を聞いた途端に、オレは違和感を失念していた。オレは風除けのゴーグルを外し、宮内に歩み寄った。そしてナイフを使い、まずは彼の手を縛る縄を、続いて足を拘束する縄を切断した。拘束から解放された彼は勢いよく立ち上がると大きな伸びをし、
「やっと解放されたぁ。この状態で、海外に拉致されたら心身ともに衰弱するところだったよ」
男は腰を回しながら、
「君が暁くんだね? 『マザー』から優秀なエージェントと聞いている。他にも君についてはいろいろな話を聞いたよ。実に興味深かった」
「何を聞いたんですか?」
男は微笑んだ。
「小学生の頃まで、魔術が発展する前の『特区』で生活していたらしいね。だけど、小学校の卒業式の日、キミは新物質アレルギーによる発作を発症して、意識不明の重体になり、保護区に搬送された。その際にキミは『マザー』に救済された」
そしてと、男は興奮気味に続けた。
「保護区に搬送され、キミは女手一つで育てた母親と、両想いの幼なじみと離ればなれになった」
男がどうだと言わんばかりに首を傾げる。オレは曖昧に微笑むことしかできなかった。
「……早く、ここを出ましょう」
オレは男にそう声をかけて、コンテナを出ようとした。だけど男は立ち尽くすだけだった。
「外には見張りがいる。もっと慎重に行動した方がいい」
「外の見張りは始末しました」
それでも男が食い下がろうとするから、
「わかりました。外の確認をします。安全を確認したら合図するので出てきてください」
オレはゴーグルをはめ直し、コンテナを出た。倉庫には依然として強い風が吹き付けていた。この風に頬が振れると、やけにヒリヒリした。だからオレはこの痛みが冷気によるものだと、自分に言い聞かせ、焦る気持ちを落ち着かせた。
だが、冷静にいられたのも束の間だった。オレの視界の隅に拳銃を構えた黒服の男が映っていた。男の胸にはオレがつけた刺傷が残っている。だからオレはとっさにナイフで応戦しようとした。だがそのとき、コンテナの中から安全装置を外す音が聞えた。




