Scene1
翌朝、オレは部屋の扉をノックする音で目を覚ました。扉を開けると制服姿の憩依が両手に腰を当てて立っている。
「いつまで寝てるの。朝練あるから早く学校に行く準備をして!」
憩依に勢いよく扉を閉められた後、オレは状況が把握できないながらも、手早く制服に着替えて憩依と合流した。その後も憩依はオレに顔洗ってと言ったり、朝ご飯は食べなさいと叱ったり等々、まるで母親のように世話を焼いた。
こうして身支度を整えたオレは憩依と一緒に学校へ登校した。この日の朝は晴天で清々しい空気が流れ、昨夜のような人の気配も感じなかったので、何事も無く学校に到着した。
学校に到着した後、オレは憩依に連れられて計測室に入室した。早朝の閑散とした室内では遠野と和毅が計測装置を操作し、その傍らでは彩早が退屈そうに肩にかかる黒髪を弄んでいた。彩早はオレ達に気付くと満開の花のような笑顔を咲かせ、オレ達におはようと挨拶をし、これから何をするか説明した。
「私達のチームは放課後に勉強会をして、早朝は魔術の実践訓練をするよ。今日は暁くんの魔力計測と実験に注力します。今回の計測はなんと遠野先生が強力してくれます。では今回の試験については和毅くん、説明をお願いします」
彩早が胸を張ると、和毅が髪を流し、今回の計測の趣旨を説明した。どうやら和毅もノリノリらしく、和毅が説明するときの口調には熱が籠もっている。
「今回の計測はマジのマジだ。朝一番の誰も施設を使っていない最もクリーンな状態で、暁の魔力を計測する……と言ってる間に遠野先生からゴーサインが出た。暁には計測準備をしてもらおう」
そんな感じで和毅に促され、オレはガラス張りの部屋に入室した。初めて入ったときは照明が眩しく感じられたが、二度目となるとさすがに目が慣れ、計測室内のグローブも手早く装着することができた。だからオレは窓ガラス越しにいる遠野に合図を送った。
程なくして、遠野から準備完了の意の目配せが返ってきた。後はオレが魔術を発動すれば良いだけなのだが、オレの心臓はバクバクと脈動を早めていた。昨日の計測試験で、魔力属性が変化し、怪我をした記憶が脳裏を過ぎったからだと思った。だからオレは心臓がバクバク音を立てているのは遠野が気持ち悪い目配せをしたからだと自分に言い聞かせ、グローブを的に翳し、意識を集中させた。
次の瞬間、グローブから火球が放出され、オレは自分の火球を観察した。魔力の色は<黄>でも<青>でも<緑>でもなく、新雪のような<白>だった。その白の火球はシャボン玉のように中を漂い、的に触れると光の粒になって弾けた。的には傷も、焼け跡も残っていない。この結果をどう受け止めればいいかわからず、オレは窓ガラス越しのクラスメイトに視線を向けた。だけど彼らも計測機のディスプレイを見つめたまま硬直しており、すぐに返答できる状態ではなさそうだった。そういうわけでオレはグローブを外し、ガラス張りの部屋を退室した。長い沈黙の中、一番最初に口を開いたのは遠野だった。
「……ホワイトカラー」
このいかにも専門用語な言葉は憩依達を困惑させた。もしかしたら芳しくない結果なのかもしれないと思い、オレは遠野に尋ねた。
「ホワイトカラーとは?」
「教科書や参考書には載っていない、希少な魔力属性です。通常、魔力には色がありますが、稀に無色の魔力が検出されます。その無色の魔力を便宜上<ホワイトカラー>とか、<白>の魔力と呼ばれ、魔力に色が着色される以前の『魔力の元』と考えられています」
すると彩朝が挙手した。
「それって暁くんには何か特別な能力があるってことですか。マンガの主人公のように」
「この魔力属性を持つ人は希少で資料がほとんどありません。能力は未知数ですね」
遠野の言葉を受けて、和毅が目を光らせた。
「つまり、暁の魔術特性知るために色々研究する必要があるわけですね」
そこで彩早が瞳を爛々とさせて言った。
「そういうわけで今日は魔術の実習をするよ!」
憩依も彩早の意見に賛成した。
「魔術研修も近いし、暁にも魔術を体で覚えてもらった方がいいし、彩早に賛成」
「なぁ、その魔術研修って何をやるんだ?」
オレの問いに和毅が答えた。
「基本は戦闘訓練だ。複数のチームが参加し、自分達のチーム以外を魔術を用いて無力化する。簡単に言えばサバイバルゲームだ」
「なるほど、魔術研修はいつあるんだ?」
和毅は顔をニヤつかせた。
「来週の頭だ」
オレはその場に固まった。
彩早はそんなオレの右肩に手を置いた。
「……時間はいくらあっても足りないの。オーバーキルだよ」
それに同調し、憩依も左肩に手を置いた。
「今日からみっちり鍛えるから」
そして彩早は憩依と和毅を率いて、魔術計測室の出口に向かった。そんな彼女達の後ろ姿を呆然と眺めていると、傍にいた遠野に耳打ちされた。
「魔術研修は敵が宮内さんに接触しやすいから気をつけてください」
オレは頷き、憩依達を追いかけた。
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