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Scene4

 図書館内は放課後ではあるが、生徒の姿を散見した。どの生徒も分厚い書籍に目を通している。館内の奥には自習スペースがあり、憩依達が資料を読み合わせている。割り込むのは気まずいと思いながらも、憩依達に声をかけると、彩早と和毅は来たな、と笑顔を見せた。一方で憩依は、遅い、読み合わせは始まっているから早く座って、と言って目を尖らせた。


 オレは慌てて憩依の隣席に座り、憩依に差し出された資料を受け取った。そしてその資料のタイトルに目を通し、おや、と思った。本のタイトルは保護区の書店でも見かけた、魔力に関わる新書だったからだ。新書程度の内容など、憩依達は読まずとも知っているだろう。それなのになぜ、読み合わせるのだろう。そう考えたら、答えはすぐに導き出せた。今回の勉強会はオレのためにあるのだと。だから、オレは資料を受け取り、積極的に読み合わせをした。一見難しいことが書かれていても、定期的に区切りを入れ、みんなで解釈を話し合うので、内容を理解することができた。率直に言って楽しかった。この日の勉強会はあっという間に時間が過ぎていった。


 そしてオレ達は途中で解散した。夜道は危険だからと言って、和毅が彩早を連れ、オレ達と反対方向に向かったので、オレと憩依は自然と二人で家路を歩くことになった。宮内高校から、オレ達の下宿先までは徒歩十五分。短い距離ではあるはずなの、互い沈黙して歩いていると、その倍の距離を歩いているように感じた。もしかしたら憩依も同じように感じたのかもしれない、憩依はちらりとこちらを見た。


「制服、汚れてるんだけど」


 オレは制服を払った。だけど、憩依は首を横に振り、オレの後ろに回り、背中やズボンを乱暴に叩いた。図書館に向かう前、大柄な男子生徒に突き飛ばされたり、肩を踏まれたりしたことを思い出し、苦笑いした。だけど憩依はこうしたオレの行動を敏感に察したのかもしれない。オレの制服を払い終えると、ぽつりと言った。


「図書館に来る前に何かあったんじゃない?」


「躓いて転んだんだ」


「躓いたにしては、背中ばかりじゃない?」


「後ろに転んだんだ。おかげで受け身が取れた」


「まぁいいや、何かあったらちゃんと言って」


 オレはわかった、と言った。それからオレ達は再び沈黙し、間が持たなくなったので、今度はオレから憩依に話しかけた。


「昨日の夜のこと謝ってなかった。悪かった」


 すると憩依はそっぽを向いた。


「そのこと、幸さんが今朝教えてくれたの。幸さんが誤って部屋を教えたんだって。だから、アンタは悪くない。むしろ誤らなくちゃいけないのは私の方だった」


 憩依はオレの前に立ち、頭を下げた。


「ごめんなさい。傷つけて、ごめんなさい」


 オレは年下の女の子に頭を下げさせている事実に耐えられなくなり、顔を上げて、と彼女の肩を掴んだ。


「知らない男が部屋に入ってきたら、あんな風になるだろ。それに今日、お前と学校で過ごして、お前が良い奴なのはわかったし」


 オレがそう言うと憩依はどう言葉を返せばいいかわからないように言葉を詰まらせ、オレに背を向けてヅカヅカと歩き出した。それからオレ達は下宿先に着くまで、再び沈黙した。今度は不思議と間が持った。憩依が早足で歩いてくれたことに感謝した……物陰に気配を感じたから。


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