Scene2
赤髪の生徒はだらりと席を達あがり、彩早の隣のわずかなスペースに腰を卸した。そして、座りにくいとわかると、彼は彩早の肩に手を回し、彩早にピッタリとくっつき、オレの方をみた。
「野原暁だっけ? 初めまして。オレは橘正也だ。お前が試験するところ、後ろから見たよ。転校初日なのに酷い事故に巻き込まれたな」
「事故? どういことだ?」
オレがたずねると、正也は答えた。
「適正試験をするときには試験環境をリセットするんだ。そうしないと、稀に前試験者の魔力が干渉することがある。暁の場合も前試験者の魔力に干渉されたんじゃないか。和毅は環境準備は早いけど、せっかちでケアレスミスが多いよな。彩早は世話を焼きたがり過ぎて、周りが見えなくなるよな。そして憩依、お前は自分勝手過ぎてそもそも後の人のことを考えないだろ。お前等、試験環境のリセットをちゃんとしたのか?」
正也の言葉に和毅も、彩早も沈黙した。憩依も何かを言おうとしたが、言葉に詰まっている様子だった。そんな憩依達の反応にため息を漏らした。そして正也は興味をなくしたように彩早から離れ、オレの方を向いた。
「そういうわけだ。お前を受け入れたチームはポンコツ揃いなんだ。悪いことは言わないから、こいつらと付き合うのはやめて、オレのチームにでもこいよ。憩依みたいな親の七光りがいるチームにいたら、自分の身を滅ぼすぞ」
正也がそう言ったとき、オレの隣席から冷気を感じた。振り向くと憩依が怒りをむき出しに、青白く輝く指輪を正也に翳した。この行動に和毅と彩早もぎょっとして、憩依をなだめようとした。だが、和毅と彩早が行動を起こすよりも、憩依の方が早かった。憩依は指輪の冷気で精製した氷の槍を正也に放った。氷の槍は正也の脇を抜けて壁に刺さった。
正也は頭を掻き、
「こんなところで魔術を使うなよ。危ないだろ」
憩依は声を震わせて言った。
「許せない。あんたに七光りと言われたくない」
そのとき、正也の眉間がピクリと痙攣した。
「勝負は受ける。ただし、次の魔術研修でだ」
「わかった、魔術研修ね……約束したからね?」
憩依は鼻息を荒げながらも、指輪を構えるのをやめた。正也は場が収まったことを確認し、オレ達に背を向けて歩き出した。オレはそんな正也の後ろ姿をじっと見ていた。
橘正也、それはオレの幼なじみを虐めていた、クラスメイトの弟の名前だった。