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Scene1

 太陽が地平線に落ちた頃、コンテナが並ぶ倉庫に潮の香りを混じらせた木枯らしが吹き抜けた。冬の到来を告げるこの風は通路を照らすライトを揺さぶり、ケモノのような唸り声を挙げていた。


 このような環境は魔術師達にとって鬱陶しいものであったに違いない。しかし、オレにとっては息を潜めるという意味で非常に好都合だった。


 オレは足下に倒れているスーツ姿の男の胸部からナイフを抜いた。白地のワイシャツに赤いシミが広がっていく。


 男は目を見開き、暗雲に覆われた夜空を眺めていた。魔術に疎い二十の若造に始末されるなど夢にも思わなかったのだろう。オレが始末した他の男達もこの男と同じ表情で、アスファルトに崩れたのを覚えている。


 奴らの誤算はこの倉庫が保護区に位置していたことだろう。保護区ではオレのような新物質過敏症(魔力アレルギー)を患った人間を保護するため、魔術が禁止されている。魔術を使用すると、センサーが新物質を感知し、警備隊に異常を通知する仕組みになっている。


 そういうわけで奴らはリスクを避けるために魔術の行使を控える。魔術を使った索敵に慣れきった奴らは、風切り音の中に隠れたオレの足音に気づけなかった。


「……これも仕事だから。悪く思うなよ」


 オレは男を放置し、目標地点へ歩き出した。クライアントの情報によれば、目標地点は現在地の目と鼻の先にある。情報があまりにも具体的であったため、逆に信頼性に疑問を抱いていた。だがしばらく進むと他者の気配を感じるようになり、情報が正しいことを理解した。


 実際、気配がした場所を物陰から伺うとそこには情報と同じ配置のコンテナがあった。コンテナの前ではやはりスーツを着た男が門番のように立っている。


 オレはゴーグルが風を遮断していることを再確認し、コンテナ前の男の隙を伺った。タイミングはすぐにやってきた。男が反対の方向を向いたのだ。だからオレは物陰から弾けるように飛び出した。


 アスファルトを蹴る音は風切り音に紛れ、男がこちらに反応するタイミングが遅れた。時間にすれば一秒の遅れだが、男との距離を詰めるには十分な時間だった。


 オレは男が身構えるよりも前に懐に飛び込み、男の体にナイフを突き刺した。ナイフの刀身は果物を裂くように男の急所に滑り、男は悲鳴をあげる間もなく、オレの肩にもたれ掛かる。


 オレは男の身体からナイフを抜き、男をアスファルトに倒した。その際に男の血液がオレの肌に付着し、焼けるような痛みが走った。


 男の体内に取り込まれた新物質に反応したのだろう。数秒もすると男の血液が付着した箇所が水膨れを起こしていた。オレが服用したアレルギー対策の薬の効果が切れかかっているのだ。それはオレの命も尽きることを意味している。


 オレは周囲を観察し、敵の気配が無いことを確認し、コンテナに入った。


 

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― 新着の感想 ―
[良い点] 逐一感想を書かせて頂きます。 暁、かっこいいですね。 アレルギー反応に関しても分かりやすく、懸念していた部分の説明がしっかり描写されていて面白いです。 [気になる点]  それでも男が食い…
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