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6.正体

 目の前で義人(よしひと)の頭に宙に浮いた本が勢いよくぶつかる。

 水谷(みずたに)は本の飛び出してきた左側へ走った。


 ――――二階に女性がいた……! きっと僕達が今探している人物だ!


 階段を上り、目的の人物を探す。

 ペットボトルから少量の水を取り出し臨戦態勢をとる。

 女性は本棚の裏に隠れていた。女性とは言っても水谷(みずたに)達よりも年上の先輩そうだ。その姿は黒髪のロングで、どこかミステリアスな雰囲気を感じる。


「その水の能力、面白いよね」


 水谷(みずたに)は水を相手から死角の位置に出していたのにも関わらず水の能力について既に知っていたような口振りに驚く。


「結構自由が利くみたいだし、水を高速で動かして物も切れるんでしょ?」


 便利だよねぇ、と付け加える彼女を見て水谷(みずたに)はこの人こそが自分と小倉(おぐら)を操った張本人なのだという確証を得た。


「やだなぁ。別に君たちを操ったんじゃないよ。君たちがあの子に喧嘩をふったんじゃない」


「!?」


 まるで今自分の考えを読んでいたのかのような言動に水谷(みずたに)は動揺を隠せない。


()()()()じゃないけどね」





 本で物を持って遠距離攻撃を、本体の文学少女はハサミで近距離攻撃の武装をする。

 両方の攻撃手段はどちらも牽制としても強力でなかなか近寄れない。

 しかし本は攻撃されたくないというこだわりがあるらしく、そこにつけ込められれば活路はありそうだ。


 ――――食欲を腕力に。


 近くにあった椅子を思い切り文学少女に投げる。

 文学少女は本で持った本棚で防いだがそれはすぐに吹き飛ぶ。小倉(おぐら)がすぐさま爆発させたのだ。

 本棚の木片が飛び散るが気にせず二個目の椅子を投げつける。

 文学少女が近くの本棚を持ってこようとしたが間に合わずに直撃する。

 少しよろけてから文学少女は静かに倒れ込んだ。宙に浮いていた本はバラバラと落ちていく。


「あーあ。呆気ない。()()()()()()さえなければなぁ」


 ため息混じりの声が聞こえ、声の方向へ顔を向ける。小倉(おぐら)はそんな義人(よしひと)を見て後から同じ方向を向く。


「あれ? 聞こえてた? 耳良いんだねぇ」


 二階の手すりに肘を置いて長い黒髪の制服を着た、年上の先輩と思われる少女がこちらの様子を見ていた。


「っ! あいつだ!」


 小倉(おぐら)は面識があるようだ。


「図書館であいつを見た……!」


「そうだねぇ。さっきその子を操ってたのは私。()()()()()()()()()()()()()()


 どうやら目的の人物のようだ。


「でも、私が興味あるのは君。双六(すごろく)義人(よしひと)くん」


「俺?」


「そう。君は面白い能力を持ってるよね」


 謎の少女はただじーっと義人(よしひと)を見つめていた。隣にいる小倉(おぐら)は気が気でないようだ。


「お前、あいつ(水谷)は……!」


「んー? 大丈夫だよ。死んじゃいないさー」


 不安を煽るような言い草に義人(よしひと)まで怖くなってくる。小倉(おぐら)が階段を駆け上って行くのを見て義人(よしひと)も追う。


「はは。ほんとに死んでないよ。安心して」


 嘘を言っていないような様子で何故か少し安心する。本棚の裏から水谷(みずたに)が現れる。別に何か攻撃されたみたいな雰囲気はないが、不自然に虚ろな目をしていた。文学少女のように。


「お? 君は勘が良いねぇ」


 少女は嬉しそうに義人(よしひと)を見つめる。


「そ。今私が操ってるの。攻撃はしないからあなたたちも攻撃しないでね」


 今度は小倉(おぐら)を見つめている。人質のような扱いの水谷(みずたに)を見て小倉(おぐら)は苛立ちを隠せていないみたいだ。


「それで、本題。私は双六(すごろく)くんのその能力を研究したいのよ。何が出来るのかなーとか」

「だから最近君のことを観察してたんだけど」


 そこで一旦話を区切って、義人(よしひと)の目の前まで近づいてからまた口を開く。


「君、全然分かってない」


「な、何が?」


「自分の能力についてだよ。君向上心ないでしょ」


 言われてみれば確かに向上心は無い方かもしれない。学力も運動も平均的で目立つ特技はないし、それを伸ばそうとも思わず満足している。


「だいたいさー、欲を力に変えるって、君の欲求は三つだけな訳ないでしょー? 煩悩だって百八個あるんだよ?」


 呆れたような様子で少女は文句を言っている。


「あ、自己紹介忘れてたけど私の名前は垣谷(かきや)美恵(みえ)。君たちを襲った図書委員のあの子は古本(こもと)三鈴(みすず)ちゃんよ。二人とも君たちより一つ上の先輩」


 垣谷(かきや)は宙に自分の漢字を指でなぞりながら突然自己紹介をする。マイペースな彼女は当然のように話を続ける。


「適当に欲求を数えていったって十は超えるはずなのよ? 君はもっともっと強くなれる」


「それがお前とどう関係があんだよ」


 小倉(おぐら)も横から話を聞いていてもあまり分かっていないらしい。義人(よしひと)も何の話をしたいのかイマイチ掴めていなかった。


「んー? いや、特にないけどさ。自分の能力をもっと使いこなしてみよーってならない? 私が知る中だったら君の能力は特に伸び代があると思うから期待してて」


 ……なんだか余計なお世話だって感じ――――でもないかもしれない。


「でしょ?」


 垣谷(かきや)は何故か得意げな顔で心の問いかけに返事をする。


「あぁ、自衛出来るってのは案外大事かも知れないぜ」


 小倉(おぐら)も同じことを思ってたのか似たような考えに辿り着く。小倉(おぐら)にしては少し知的な言い方な気もするが。


「や、やっぱり君勘が鋭いねぇ、へへ……」


 何かを言い当てられたみたいでわざとらしい動揺を見せる垣谷(かきや)

 ……実験に付き合えと言っているようだ。


「話が早くて助かるねぇ。いきなり襲うとかしても君は覚醒とかしなさそうなタイプみたいだし、これからコツコツ君に勉強させていくことにするよ」


 ……まだ了承した訳でもないのに話が進む。

 隠す気が無くなってきた垣谷(かきや)の能力は人の心を読むことが出来るのだろう。


「それと、その人の思考を書き換えたり出来るの。今はその二人に何も考えないって思考を与えてるけど」


 完全な敵ではなくて良かったと義人(よしひと)は安心する。めちゃくちゃな先輩だ。


「んじゃ、明日からよろしくねぇ。君ん家行くから家に居といてねぇ」


 毎日来るつもりらしい上に明日からは土日だ。勝手な約束を取り付け――――俺はその約束を受け入れた。

 ……この人には逆らわないようにしよう。と心に深く刻み込んだ。

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