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5.図書館の竜巻

 昨日話し合った通り、義人(よしひと)水谷(みずたに)小倉(おぐら)の三人は放課後、図書館の前で待ち合わせをしていた。

 何故図書館の前で待ち合わせをするかというと、学校の校庭にも近い場所で人通りも少なくなく、敵がいる可能性のある図書館に入るのはあまり得策ではないという話し合いの結果が出たからである。


「昨日は勢いで決めたけど、冷静に考えたら教室で待ち合わせた方が早かった気がするな……」


 義人(よしひと)は夏の暑さで汗を拭いながら次の作戦会議で反省会を開こうと心の中で決めた。


 義人(よしひと)の通う高校には図書()ではなく図書()が建てられている。体育館のような大きさを活かして大量の書物が置かれている図書館は単純に小説等が好きな文系の生徒から数学者の証明をまとめた理系の生徒まで幅広く本を読む人の嗜好がカバーされている。

 その図書館で小倉(おぐら)水谷(みずたに)は記憶を失くし、誰かに操られて義人(よしひと)を襲ったのだと考えたため、小倉(おぐら)水谷(みずたに)の二人を操った張本人が図書館にいると予想しているが、そもそも他に探すあてがないので図書館に関係がなければ犯人探しは難航するだろう。


「ごめん待った?」


 小倉(おぐら)水谷(みずたに)が遅れて校舎から歩いてくる。水の入ったペットボトルを水谷(みずたに)が二本。小倉(おぐら)が一本持っている様子を見ると、戦闘用の水の準備をしていたようだ。


「何があるのか分からないからね。双六(すごろく)くんも一つ持っててもらってもいい?」


 義人(よしひと)はペットボトルを受け取るとある事に気がつく。


「普通の飲料水のペットボトルと違って硬いペットボトルなんだな」


「武器にもなるしな」


 小倉(おぐら)の言い分に妙に納得した義人(よしひと)は今日の行動の予定を振り返る。犯人探しの方法は昨日の時点で決めているので迷うことは無い。

 三人組で固まって動き、怪しそうな人に話しかける……だけであるが、そもそも犯人の特徴などは誰一人知らないため、不審な動きを見せる者だろうという曖昧な考えだが、手掛かりがないためとりあえず図書館に訪れるのである。

 義人(よしひと)は犯人がいるのかもしれないと思い、ごくっと唾を飲み込んでから図書館の扉を開ける。それから数歩歩いた時――――


「あだっ」


 左から頭に何か硬い物がぶつかる。不意の出来事で義人(よしひと)は避けることが出来ずに直撃し、入口付近で倒れ込む。

 頭の痛みに耐えながら視線を上げるとそこには国語辞典が浮かんでいた。


「本が浮いてる……!?」


 小倉(おぐら)水谷(みずたに)は左右に別れ小倉(おぐら)義人(よしひと)を引っ張り上げながら図書館の右側へ行き、水谷(みずたに)は図書館の左側へ走って行ったようだ。

 国語辞典は義人(よしひと)を狙っているのかこちらに接近している。義人(よしひと)は立たせてもらったおかげで水谷(みずたに)から受け取ったペットボトルで国語辞典を思い切り殴りつける。地面と平行に向かってきたため縦にペットボトルを振り下ろすと国語辞典は地面に落ちて動かなくなった。


「俺らが来るのが分かってたから先制攻撃ってか?」


 小倉(おぐら)はちっ、と舌打ちを入れながら本棚の裏に隠れる。


「本が飛んできたから、物を操るか飛ばす能力か?」


「それだと俺らを操れる理由が――」

「いや人や物でも自分が思っているように操作が出来るってことかも。人も条件が合えば操れるとかで、多分物を操る能力だ」


「おっけ、とりあえずぶっ飛んで来るもん吹き飛ばせば解決だな?」


 小倉(おぐら)はポケットから十円玉を取り出す。


「ダメだ、人がいるかもしれない。それに学校の物を壊すのはあまり良くない」


「お前だって今の辞典叩いたじゃねぇか……」


 渋々ポケットに十円玉を戻す。


「……多分傷はついてないから。大丈夫」


 とりあえず能力を使っている人を見つけないと永遠と本やらが飛んでくるだろうと判断した二人は人を探してみることにした。

 はぐれた水谷(みずたに)も探してみるが不自然なように誰もいない。図書館には中心を吹き抜けとした二階も存在し、二階へ移動する階段は吹き抜けの場所から数箇所あり、その一つの階段の一段目に足を乗せた瞬間、


「そっちにも人はいないよ」


 声のする背後へ振り返ると、長い黒髪を三つ編みで結び丸眼鏡をかけた、まるで文学少女のような靴を履いていない裸足の女子高生が立っていた。


「多分あなたたちの探している人は私だから」


 その瞬間文学少女の背後にあった落ちていた国語辞典がひゅんと風を切るような速度で飛んできた。


「あぶねぇ!」


 小倉(おぐら)は咄嗟に国語辞典を避け、辞典が壁に叩きつけられるが、本棚から一冊一冊抜けて移動し始めている様子を見て、埒が明かないと判断し二階へ逃げ出した。

 二階へ上がると一階の様子がよく分かり、現在文学少女が本を端から端まで集め室内に竜巻が発生したかのように本が空中のどこかを中心に円を描いていた。それが何冊も。何十冊も。何百冊も。


「くそ……予想よりもやばいな。どうする? って、お前ペットボトルの蓋が開いてんぞ!」


「え、あぁ、本当だ。蓋もどっかに無くしちゃった。それよりも今はあれをどうにかしないと」


 下側を向いていたペットボトルを上向きにする。

 本の竜巻は次第に回転を強め、その一部が掠めるように義人(よしひと)小倉(おぐら)を襲う。

 小倉(おぐら)は後ろに下がりながら避けるが、義人(よしひと)は焦ってペットボトルを顔の前に構える。その時勢いがついたことで中の水が漏れ出して拡散される。

 義人(よしひと)はその水を避けるように本も避けていく様子を視認する。


 ――――水を避ける……?


 賭けではあるが試しということも含め水が中に入ったペットボトルを全力で回転させながら投げる。図書館の階段前にいる文学少女へ向けて。

 ペットボトルは水を空中で拡散しながら階段をカラカラと音を立てながら落ちる。

 近づく水から本は離れ文学少女も後ずさる。


「この子達が濡れたらどうするの……!」


 怒りとも思える感情をあらわにしながら義人(よしひと)を階段下で睨みつける。


小倉(おぐら)、爆発もありかもしれない。建物を壊さない程度に」

「あぁ、相当大事みてぇ……だな!」


 十円玉を勢いよく振りかぶって投げ、文学少女の近くまで行くと爆発音が鳴り響く。空中を爆煙で目隠しをして小倉(おぐら)は文学少女へ飛び込む。


「動くんじゃねぇ! 動いたら吹き飛ばすぞ!」


 文学少女を押し倒して脅す。小倉(おぐら)は両腕を地面に抑え馬乗りの状態になっている。

本の竜巻はそのままだが、小倉(おぐら)は気にせず抑えつけている。

 普通の少女がこの状況から脱出するのは不可能だと言えるだろう。階段を降りながら義人(よしひと)も文学少女へ近づく。

 文学少女は小倉(おぐら)を恐れず、どこか虚ろな目をしてブツブツと何かを呟いているように口が動いている。

 抑える小倉(おぐら)を見ていない、遠くを見つめるような眼差しをしていた。


「なにブツブツ言ってんだてめぇ……!」


 それは小倉(おぐら)にも聴き取れない声で、不気味だと思うと同時に何か違和感を感じた義人(よしひと)はその声を聴こうと能力を使った。


 ――――睡眠欲を聴力に。


 抑えている小倉(おぐら)にも聴こえないほどの小さな声で呟いていた声がハッキリと聴こえるようになる。


「もう少し右。あと少し後ろ。違う、もっと前」


 ハッとして上を向く。小倉(おぐら)の真上に本棚が本に支えられて中に浮いていた。そしてそれはもう少しで完璧な位置になるらしく、ほんの少しだけしか動いていない様子から微調整をしていたようだった。


小倉(おぐら)避けろ!」


 本棚が落ちる前に小倉(おぐら)を押し退けて真下を避ける。

 同時に行動していたようで本棚は文学少女がいた所に落ちる。しかし、文学少女に当たる直前に本棚は止まる。本棚を避けてゆっくりと文学少女は立ち上がる。

 本棚の上段に数冊残して落下させてあり、小倉(おぐら)にだけ攻撃しようとしていた敵意を二人は感じ取る。


「んなのありかよ」


「あと少しだったのに、よく分かりましたね」


 文学少女は制服の内側からハサミを取り出し、本の竜巻を背後にニヤニヤしながらこちらを見つめていた。

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