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師匠と弟子  作者: あめちゃん
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3 ナリト国、アリスの街で

サユを連れ、ユカは足早にシューレンの森を歩いた。そうと決まればと出立したのが正午を回る少し前。陽の光で明るさが保たれる所まで抜けた頃には、空は薄ら赤く染まり始めていた。


来た道を戻る羽目にはなったが、昨夜を過ごしたあの場所から一番近いアリスの街にたどり着いたのは空が群青に染まり強い星が光り始めた頃だった。

街に入ってすぐ、サユを薄暗い建物の影で待たせて手早く外套を手に入れ、サユに着させると頭からフードを被せた。そして街の灯が暖かく煌めく中、まっしぐらに宿屋へと向かう。


宿は酒場も兼ねており、多くの人で賑わっていて満室の懸念がよぎったが、運良く部屋を確保することができた。

サユと同室ではあるが、風呂があり柔らかい寝床があるなんて


「あぁ…最高か…」


ベッドに腰掛けそのまま後ろに倒れ込む。久しぶりにお湯に浸かり、この三日間の緊張が一気にほぐれ、やっと人心地つけた気がした。

はぁ、と幸せなため息をついたところで体を起こし、対面に座るサユと向き合う。

彼の記憶は無いが、はたして知識はどの程度残っているのか。様々な質問を繰り返し、読み書き数術に問題はなく、魔法に関しても常識の範疇で知識、というか、この世界の人なら生まれながらに使える範囲なら出来る、という事は確認できた。


「なるほどね、生活する分には困らなさそうだね」


ふむ、とユカは一人納得した様子を見せた後に考え込んだ。

この世界の人々は金や明るい茶、他に緑や赤など様々な色の髪をしているが、青系統の髪は珍しい。だから、もしサユに追っ手がかけられているとしたらすぐに見つかってしまう可能性が高いのだ。これから先の旅を少しだけでも穏便に過ごす為にも、彼の容姿は問題の一つだった。


おもむろに立ち上がったユカは、サユを残し出かけて行った。すぐに戻るから、の言葉通り戻ってきた彼女の手には、宿の目の前のアリス広場で開かれている露店で買ってきたであろう小包が二つ握られている。

一つの包みからガサ、とホットサンドを取り出すとサユに手渡した。手にしたそれはほかほかと暖かく、肉の香ばしい香りが部屋に広がる。目が覚めてから何も口にしていなかったサユは急に空腹を自覚する。


「気がきかなくってごめんねぇ、早くここに着きたかったもんだから」


食べよ食べよ、と彼女に促されて二人で摂る食事に、サユは腹だけでなく心まで満たされていくような心地よさを覚えた。


食べ終えて一息ついたところで、ユカはもう一つの包みを手に取った。掌に乗るほどの小さなそれから、赤い細長い石のピアスを取り出した。

ぐ、ぱ、と二回ほど手を解し、そのピアスを握る。ふぅぅ、と細く息を吐くと、握りしめた拳から赤い光がほのかに発せられた。風が部屋の中にふわりと巻く。

やがて光と風が緩やかに収まっていくと、ゆっくりと掌を開く。そこには先程のピアスが魔力を吸って淡く輝いていた。


「…これは…何をしたんですか?」


「簡単に言えば、めくらましの術をかけたんだよ。サユの髪は目立つからねぇ。これを付ければ、君の髪は青から茶色になる…はず。たぶん」


サユは手渡された輝きの収まったピアスをまじまじと見つめると、自分の耳に付けてみた。すぐに目にかかる前髪が青から明るい茶へと変化したのが見えた。


「…すごい」


「そう?」


サユの感嘆に、ニヤ、とユカが笑う。


「それ、上からカバーしてるだけみたいなものだから、君の体に害はないからね。絶対取ったらダメよ。つけてる間は大丈夫だから」


「わ、かりました。」


驚きの表情で固まるサユ。

記憶はないが、彼女の行った所業は簡単では無い、ということは知っていた。人によって魔力の大きさは様々で、ほとんどの人は内にある魔力をただ放出するだけしかできない。

彼女のように物に込めるとなると、魔力の使い方が器用でなければならないし、その効果を持続させるためには魔力自体が相当な量が必要になる。

サユは純粋に、目の前の女性をすごいと思った。自分にもこんなことが出来るようにならないか。記憶が無い今、自分は何も持っていないし、何も出来ない。良くも悪くも何者でもないのだ。

もし、彼女のように魔法が使えるようになったのなら、記憶を思い出せなかったとしても、自分を自分たらしめる何かになれる気がした。


「僕に、教えてくれませんか」


ぽつりと呟くような突然のサユの言葉に、ユカは聞き違えたかと思って、ん?と聞き返した。


「僕に、魔法の使い方を教えてくれませんか。あなたのような、魔法が使えるようになりたいんです」

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