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神様


一目惚れというものだったに違いない。

一目見て、欲しいと思った。

そのまま連れて帰り、自分の元で育てようとしたが止められた。

それならば


「この子が大人になったら私の嫁にくるように」


***


「神様って、すげぇロリコンだよな。赤ん坊のカヤを嫁にしようとするくらいだもんな」

「……姿形に惚れるのではない。魂に惚れるのだ」

「だけど赤ん坊だよ!」

ねぇよなぁ。と呆れたように言う正樹はカヤの同級生だ。カヤに惚れてるから、私のことが納得できぬようだ。

その割に何故か神社に入り浸っているが。


「魂を見れば、その者の人となりがわかる。

正樹、お前の魂だって私は嫌いではないぞ?

悪ぶっておるが、実は優しいところとかな。

そうそう、怖がりも悪いことではないぞ?慎重になるからの」


意地悪く笑ってやると、正樹は顔を赤くして捨て台詞を吐きながら逃げていった。

「うるせー!!この女好きが!!何人も嫁もらってきたくせに、カヤまで嫁に欲しがるとか!!

俺は許さねーからな!!」


「カヤ以外、欲しいなどと言ったことはない」


数えられぬほど昔から、この村を守護してきたが、度々村人は娘を嫁に。と差し出してくる。

別に要らぬと言えば、娘は泣きだすし、他の娘がいいのかと沢山寄越してくる。

断るのが悪いのかと思って、とりあえず引き取っていた。

といっても、本当の嫁にする気もないので茶飲み友達のように、一緒に過ごすだけ。

他に行きたいところがあれば、何処となりとも行くがよいと言っても娘たちは此処がよいと言うので、置いていただけだ。


愛しいのはカヤのみ。

嫁にしたいと思ったのはカヤだけ。

カヤももうじき14になる。

嫁入りの時期だ。




「神様、神様からも言ってください!

飯綱が高校に行かないと言っているんですよ!神様の嫁になるからと!!

しかし、今の時代……」


カヤの中学校の校長が神社に押し掛けてきた。

そして滔々と語る。

曰く、今の時代14歳で嫁入りは早い。

曰く、法律では女子の婚姻は16歳からである。

曰く、高校には行くべきだ。


「……お前の言うことは判った。カヤに言い聞かせよう」


残念だが、仕方がない。カヤのためというならば、今しばらく待とう。

神は気が長い。


校長は尚も言いたいことがあるらしく、私をジトリと見つめ、

「まさかとは思いますが神様、飯綱に不埒なことはしてませんでしょうな」

と問い詰めた。

思わず茶を吹く私に、またも校長は勢いをつけて語り始める。


曰く、不純異性交遊は人の手本ともなるべき神のすることではない。

曰く、つまり婚前交渉ダメ。

曰く、青少年保護育成条例に淫行条例というものがあり、神様でも適用する。


神も今の時代に沿って法律を守らねばならないらしい。




『親に言われてずっと勉強ばかりしてて…親が言った大学に入った瞬間、もう自分が空っぽだって気付いて…そしたら飛び出して島に来てました。ええ、親とは連絡をとっていません。』


私はテレビの中の女性がポツリポツリと語るのを聞いていた。

哀れだと思う。親も子も。

離れて暮らすことで、再び関係を再構築できれば…


「なあなあなあ!!これってカヤみてぇじゃねえ?」

「正樹…、学校はどうした?」

「サボリ。それよりさ、これってカヤじゃねぇ?

生まれた時から、みんなに神様の嫁になれなれ言われてさ、学校とか友達よりも神様でさー、いざ嫁入りしてみたら『なんか違う。こんな人生嫌だ!』ってさ」

「…………………………」


どうしたらいいのだ

カヤに嫌われたら生きていけない。


「神様って死ぬことあるのか!?」

「なあ?どうしたらいいのだ!?」

正樹にすがりつき、ガクガクと揺さぶる。


「うわわわっ、やめろって!

部活!部活とかやらせて青春ドラマみたいなことやらせればいいんじゃねぇ?!

バイトとかさ!とりあえず、色々やらせればいいだろ!」


なるほど。

学校が終わったあと、すぐに神社にきてくれて私は嬉しかったが、それでは駄目ということか。

しばし寂しくなるが、将来のことを考えると仕方がない。

神は気が長いのだ。




断腸の思いでカヤの結婚して攻撃をかわしたと思ったら、カヤがぐぐいと迫ってきた。


「せめてキスとかしませんか?」


突然のことに動揺して、リモコンのボタンを押してしまった。

そのまま動揺が治まらず、意味もなくボタンを押しながらカヤの言った言葉を咀嚼する。

キス…キス…接吻か…我らは婚約者同士だからな、そういうことをしても全然構わないし、私は全然構わないぞ。


ふらふらとカヤの唇に目を吸い寄せられたところで、校長のジトリの見つめる顔が浮かんだ。


「最近未成年淫行とか、厳しいからな」


うっかり手を出して、嫁にもらえなくなっては敵わない。

カヤは不満そうだが、私も不満だ。

だが、仕方ない。将来のためだ。



カヤは毎日部活が楽しいようだ。

部活が終わったあと、私のところに顔を出してくれるが時刻も遅くなっているので、すぐに帰ってしまう。

休みの日も部活があって、一緒にいる時間が減ってしまった。


寂しい。


不安にもなる。

なにせ、自分は神だ。

人間とは違う。

人と違う(とき)を生きるし、人と違う神力(ちから)を持つ。

その神力だとて、大したことはできない。

天災を退ける力はあれど、この村も専業農家は減り、果たして自分の神力はどこまで必要とされているのかと疑問に思う。

すでにこの世は人の力が巨大になり、神の力など必要とせぬように思える。


神の存在意義が危ういと気付いてしまえば、カヤも神のところになんて嫁に行きたくないと、いつ思っても仕方ないのではと不安は加速する。

よくない事だとわかっていても、水鏡でカヤがどのように生活をしているか視てしまう。

液晶のほうが綺麗に映るとわかればテレビやパソコンの画面にうつして視るようになった。


「神様ぁ、男の人って怖いんですよぉ。付き合ってって言われた時、ちゃんと断ったのにしつこくてぇ、なんかつきまとってくるし、隠れて見てるし、しまいには家に盗聴器とかカメラとか仕掛けられてたんですよぉ。

ストーカーこわいぃぃぃ。男、こわいぃぃぃぃ」


ストーカー

自分がしていることは立派なストーキング行為


久しぶりに帰省した娘に、話をよく聞き、もうストーキング行為を受けないよう護りを授け、不安を取り除いてやったが、心の中では動揺しまくっていた。

誰にも気づかれてはならない。特に正樹とカヤには。

いつも視られていると知ったら、カヤも「気持ち悪い!!」なんて嫌悪もあらわにするのだろうか。

するだろうなぁ、するよなぁ。


それでも視ることはやめられなかった。

そのせいで自分を嫌悪するようになったし、どんどん卑屈にもなっていったように思う。




「カヤ、お前は何かやりたいことはないのか?

なりたいものは、ないのか?」

「神様のお嫁さんになりたいです」


キッパリ答えてくれたことに、うれしくて舞い上がりそうになるが本当にそう思っているのだろうか?

自分に言い聞かせているのではないか?

進学や就職する友を羨ましく思う気持ちはないのだろうか?

嫁に来てから「〇〇したかったなぁ」と後悔することはないだろうか?

神様のところに嫁入りしたせいで私は好きなこと出来なかった!!なんて思う日は来ないだろうか?


進学に興味はないようなので、村役場に勤めさせることにした。

村役場ならば、変な虫はつかぬだろうという打算もあった。

高校では、神の嫁ということが知られていないので何人かの男に言い寄られていた。

カヤは一言も私に言わなかったが、全て視てしまった。

カヤはちゃんと断っていたが、一言私に言えば私が出て行って目の前でキッパリと釘を刺したのに。


しかしながら、私の目論見は大きく外れ、村役場に出向している山田という男がしつこくカヤに付きまとうようになった。

カヤは私に言わない。

今度は村人たちが私に注進に来るようになった。


「神様!カヤちゃんが村外の若造に言い寄られているのに、そんな呑気にしていていいのですか!!」

「だから早く結婚するべきだと言ったではないですか!!」


村人が熱くなればなるほど、私は鷹揚に構えなければいけなくなる。


「神様がなにもしないから、私がバシっと山田に言ってやりましたよ!!カヤちゃんには赤ん坊の時から決まった婚約者がいるとね!!」


それは言ったらダメなやつ!!

案の定、山田は村の権力者に無理やり結婚させられると思い込んで、さらなるアプローチをカヤに仕掛けている。


「結婚前に真面目なヤツほど結婚後遊びたくなるっていいますしねぇ。カヤちゃんも若いんだから、ちょっと遊んだっていいんじゃないかねぇ。

神様だってほら、神様なんだから、それくらいはお許しになるでしょう?」


そんな許せるはずない。


カヤは山田のアプローチを全て断っているが、私には何も言ってこない。

本当は、心の奥底では、山田に熱烈なアプローチをされて喜んでいるのではないか?


一度疑うと、カヤの態度が満更でもないように見えてくる。

タブレットで覗き視ながら不安でやきもきしてくる。


「神様ー、神様ー!います?」

山田の粗を探すべく、タブレットで山田の動向を探っていたらカヤが神社に来ていた。

慌てて、タブレットに映していた山田を消し適当な画を出して誤魔化しておく。

扉を開けると怒ったような泣きそうな顔をしたカヤがいた。


「ちょっとお話があります」


心臓が跳ねあがった。


まさか山田のことが好きだから、嫁入りできないとか。

ストーキング行為をしている私に嫌気がさしたとか。


悪いことばかりが頭の中をぐるぐると回る。


「…ちょうどいい、わたしからも話がある」といえば、カヤは私の話を先に聞いてくれるようだった。

要は反対しなければいい。

人は反対されれば、さらに燃え上がらせるものだ。


『ちょっとくらい遊んだほうが』


最終的に私の元にもどってくれれば構わない。

神は気が長いのだ。


「…付き合ってみるのも悪くはないのでは?」


カヤは無表情のまま固まった。


「カヤ…」


急にカヤが離れてしまったようで、カヤに手を伸ばそうとしたらタブレットが落ちてしまった。

それをじっとカヤは見つめている。


数回デートするくらいなら、私も我慢する。

しかし絶対に私の元に戻って欲しい。

私はずっとカヤを愛している。

カヤと一緒にいたいのだ。


言おうとしていた言葉が出てこなかった。

カヤが見たこともない顔で微かに笑ったから。


それは私を拒絶する顔にみえた。
















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