第2話 公式なんて無視した方がいい!
アクセスいただきありがとうございます。
ドップラー効果の公式を使わないで、問題を解くにはどうしたらいいか?
結論からいうと波の速さを表す基本式だけで十分です。基本式さえ押さえておけば大丈夫です。
まず、基本式を立てる前に、とても大事なことがありますので、確認しておきましょう!
◆◆◆大事なこと その1◆◆◆
登場する主人公(視点)は三つです。「媒質(又は地面)」「音源」「観測者」の三つです。
◆◆◆大事なこと その2◆◆◆
変わるもの、変わらないものをはっきりと区別しましょう! 定数はどれか? 変数はどれか? 変数によって変化する関数はどれか? しっかりと意識することが大事です。
とりあえず、それぞれの主人公(視点)から見た三つの音(音波)の振舞いを基本式で記述してみましょう。媒質(又は地面)は静止、音源Sと観測者Oが一直線上を互いに近づいている場合を考えてみます(下図参照)。風は吹いていないものとします。
図1
[1] 媒質(又は地面)から見た音の速さ
V=f×λ …………(基本式1)
V:音の速さ[m/sec] f:振動数[Hz] λ:波長[m]
Vは定数、fは定数、λも定数。
基本式1の物理的意味は至ってシンプルです。波長に振動数をかけると波の速さになるというものです。1秒当たり一波長の波がf個含まれていて、一波長がλメートルの長さなのですから、1秒当たりf×λ分だけ波は進むのです。だから音の速さVは、秒速f×λメートル! あたりまえといえばあたりまえですね。
ここで、音の速さについて少しだけ補足します。音の速さVは、媒質(空気)などの条件に依存しますが、高校生レベルでは基本的に一定と考えていいと思います。問題では音の速さは340m/secで与えられることが多いので、V=340m/sec:定数と覚えておいてもいいかもしれません。
なぜ一定なのか?ということを疑問に思う人もいるかもしれません。が、これについては、悩むよりも、幾度もの実験などを重ねて確かめられた自然現象の一つ、確認された事実と捉えておくのが無難でしょう。この事実を解釈するためにいろいろなモデルが提案されていますので、興味があれば、あとで研究するのがいいかと思います。
音の振動数fは、媒質中のある定点が音源の振動数をそのまま受け取ったものなので、基本的に一定です。音の速さが一定、振動数が一定ということなので、必然的に波長も特定されます。
なお、風が吹いていると、媒質(空気)と地面の間に相対的な速さが生じますので、地面から見れば、風に乗った音の速さはV+αになるでしょう。だけど、センター試験レベルでは考えなくていいです。
[2] 音源Sから見た音の相対的な速さ
V-vs=f×λ(vs) …………(基本式2)
V:音の速さ[m/sec] f:振動数[Hz]
vs:音源の速さ[m/sec] λ(vs):観測波長[m]
Vは定数、fは定数、vsは変数、λ(vs)は変数vsの関数。
音源Sが音の波を追いかけていくのですから、音源Sから見た音の相対的な速さは「V-vs」です。逆に音源Sが離れていく場合は、音の速さは相対的に速くなるのですから、「V+vs」です。符号のつけ方を覚える必要はありません。理屈を考えればすぐ分かることです。
音の波の振動数fは、音源Sの移動に関係なく一定です。音の振動数fは音源Sが媒質を叩くことによって生じたものですが、一度叩かれたあとは音源Sがどこに行こうと、媒質における振動(波の伝搬)はそのまま続くのです(基本式1参照)。
繰り返しになりますが、音の速さV自体は一定です(基本式1参照)。音源Sの移動の速さvsが足されたり、引かれたりすることはありません。基本式2はあくまで、音源から見た音の相対的な速さ「V-vs」を示しています。音の速さV自体が変化しているわけではありません。
ここで、理解が進まなくなってしまった人は、おそらく、一般の物体の運動と波の振舞いの違いが分かっていません。音源の移動が実体を持った物体の運動であるに対し、波はあくまでも媒質の振動であり、物体の運動ではありません。物体が物体でないものを押すことはできないのです。
例えば、時速100キロで走る車から、石ころを時速100で投げるとどうなるでしょか? 石ころは地面に対して時速200キロで飛んでいきます。車の速さが加算されるのです。これは石ころがあらかじめ時速100キロ分の速さをもっているためです。
では、時速600キロで進む音源から音波が放たれたらどうなるでしょうか? 音の速さ時速約1225キロに、時速600キロ分が加算されるでしょうか? 答えは、加算されません。音波は空気という「場(媒質)」を伝わる振動であり、実体を持つ物体ではないのです。音源が空気という「場」を叩くとその振動が音の波という形で場を伝わっていきます。音の波は物体ではないので、物体である音源の運動とは基本的には無関係なのです。
このため、波に特有の現象が起こります。音源Sが音を追いかけると、音の速さは基本的に一定であるため、前方(観測者に向かう方)の波は詰まっていきます。その結果、観測される音の波長λ(vs)は、vsが存在することによって、小さくなります。逆に音源が離れていく場合は、前方(観測者に向かう方)の波は間延びしていきます。観測される波長λ(vs)は、vsが存在することによって大きくなります。
音の波が詰まるということがイメージできない人は、下図を参照してください。分かりやすくするため、音源Sが振動数10Hzの音を放っているとします。一波長分の波を●として表現しました。この●を仮に「波の弾」と呼ぶことにしましょう。●と●の間隔が波長を現しているとイメージしてください。
(イ)S|● ● ● ● ● ● ● ● ● ●|→V
(ロ) | 音源S vs→● ● ● ● ● ● ● ● ● ●|→V
(ハ) | 音源S vs→●●●●●●●●●●|→V
上図の(イ)では、音源Sは静止しており、波の弾●が1秒間に10発撃たれています。波の弾の速さは、だいたい秒速340メートル、時速でいうとだいたい1225キロです。
では、音源Sが速さvs、例えば、リニアモーターカーくらいの速さ、秒速約160メートル(時速約600キロ)で右に動く場合はどうなるのでしょうか?
上図の(ロ)ように、音源Sは自分が撃った波の弾を追いかけなら次々と波の弾を撃ちます。0秒のときに1発目の弾を撃ってから、1秒後に10発目の弾を撃つまでに最初の弾は340メートル進み、音源Sは160メートルだけ進みます。そうすると、340-160=180メートルの長さの間に波の弾が10個分含まれることになり、弾と弾の間隔は(イ)の場合と比べて見かけ上詰まることになります。この間隔が観測波長λ(vs)です。(基本式2参照)。
上図の(ハ)のように、さらに音源Sの移動が速くなると、波の弾と弾の間隔はどんどん詰まっていきます。さらにどんどん音源の移動が速くなると、どうなるか? 音源の速さが音速を超えるとき、音がはじけます。そして、音を後方に置き去りにします。YOUTUBEなどで「ソニックブーム」「音速突破」などと検索すると、ジェット戦闘機が音速を超えるときの様子を見ることができます。ご参考までに。
以上、基本式2が示す物理的意味をまとめてみます。音源Sが1秒間にvsだけ移動する間に、振動数f個分の波を発するので、V-vsの長さにf個の波がつまる。この結果、本来の波長λとは異なるλ(vs)の波長を観測者に受け渡す、ということだと考えられます。
[3] 観測者Oから見た音の相対的な速さ
V+vo=f(vo)×λ(vs) …………(基本式3)
V:音の速さ[m/sec] f(vo):観測振動数[Hz]
vs:音源の速さ[m/sec] vo:観測者の速さ[m/sec]
λ(vs):観測波長[m]
Vは定数、vsは変数、λ(vs)は変数vsの関数、
voは変数、f(vo)は変数voの関数。
観測者Oが音の波に向かっていくのですから、観測者Oから見た音の相対的な速さは「V+vo」です。逆に観測者が逃げていく場合は、音の速さは相対的に小さくなるのですから、「V-vo」です。これもまた、符号を覚える必要はなく、理屈を考えればすぐ分かることです。
基本式2には、音源Sが速さvsで移動することによって、前方が密になった音の波が形成されることが示されています。そして、観測者Oは、基本式2に示す音の観測波長λ(vs)をそのまま受け取ります。観測者Oの移動は、受け取る音の観測波長λ(vs)に影響を与えません。観測波長λ(vs)は、あくまでも音源Sの移動によって生じたものだからです(基本式2参照)。なお、音源Sが移動していなければ、波長λを受け取ります(基本式1、2参照。vs=0のとき、λ(vs)=λ)。
そして、基本式3に示すように、観測者Oが速さvoで音の波に向かっていくと、V+voの長さにおいて、一波長λ(vs)の波をf(vo)個受け取ることになります。観測者Oが音源に向かっていけば、観測する振動数f(vo)は大きくなり、音源から逃げていけば、振動数f(vo)は小さくなります。
ここまで、基本式を三つ立てましたがいかがでしょか? まとめてみます。
V=f×λ …………(基本式1)
V-vs=f×λ(vs) …………(基本式2)
V+vo=f(vo)×λ(vs) …………(基本式3)
三つの基本式については理解できたでしょうか?
理解できたなら、はい、これでおわりです!
あとはもう単なる代数の問題です。ドップラー効果の問題は、この三式のいずれか一つ以上を用いて解くことができます。
うそだろ!と思う方、試してみましょう。
まず、音源、観測者とも静止している場合は、基本式1に帰結できます。
観測者が観測する音の振動数は、f=V/λです。
音源が静止、観測者が移動している場合は、vs=0、λ(vs)=λなので、基本式2から、
λ(vs)=λ=V/f
これを基本式3に代入すると、
V+vo=f(vo)×V/f
したがって、音に向かっている観測者が観測する音の振動数は、
f(vo)=f×(V+vo)/V
注:観測者が音から逃げている場合、観測者から見た音の相対的な速さは「V-vo」です。
では、音源が移動、観測者が静止している場合は、vo=0なので、基本式3から、
V=f(vo)×λ(vs)
V/f(vo)=λ(vs)
これを基本式2に代入すると、
V-vs=f×V/f(vo)
f(vo)=f×V/(V-vs)
注:音源が音から遠ざかっている場合、音源から見た音の相対的な速さは「V+vs」です。
音源、観測者がともに移動する場合(近づく場合)は、基本式2を変形して、
λ(vs)=(V-vs)/f
これを基本式3に代入すると
V+vo=f(vo)×(V-vs)/f
したがって、観測者が観測する音の振動数は、
f(vo)=f×(V+vo)/(V-vs)
となります。
連立方程式の解き方は一例なので、どうでもいいです。好きなように計算してください。問題文に具体的な数値が示されていれば、題意に沿って当てはめてください。
どうでしょうか? ドップラー効果の公式を覚えなくても、解答を引き出せました。
音の振舞いの物理的意味を考えながら、基本式を三つ立てることができればそれで足りるのです。ドップラー効果の公式をいちいち書き出す必要はありません。ただし、音源又は観測者からみた音の相対的な速さのところは符号を間違えないように気をつけてください。
それと、最後に、勘のいい人はすでに気づいているかと思いますが、もういちど、ドップラー効果の公式をみてみましょう。
V-vo
f′= ――――――― ×f …………(公式)
V-vs
実は、基本式2と基本式3を辺々割ると、以下のようになります。
V-vs f×λ(vs)
―――― = ―――――――――
V+vo f(vo)×λ(vs)
これは、符号は置いておくとして、ドップラー効果の公式と等価ですよね?
つまり、ドップラー効果の公式とは、
「音源から見た音の相対的な速さ」と「観測者から見た音の相対的な速さ」の比を表現したもの
あるいは、
「音源から見た音の相対的な速さ」と「観測者から見た音の相対的な速さ」の数学的な関係式を、関数λ(vs)を介して表現したもの
といえるのだと思います。
ドップラー効果の公式は、音源が速さvsで移動することにより生じる観測波長「λ(vs)」の項が約分されて消えているため、式の持つ物理的意味が分からなくなっているのだと思います。混乱の原因はここにあると推測します。
さあ、みなさん、物理の教科書を用意して、ドップラー効果の公式のところを真っ黒に塗りつぶしましょう! 三個の基本式だけで十分です。
教科書を汚すのが嫌な人は、せめて、観測波長λ(vs)の項を公式に書き入れてください。少しはましになるかと思います。
それでは、みなさん、がんばってください。
なお、本当に教科書を塗りつぶして先生に怒られても私は知りません。
つづく