第1話 ドップラー効果の公式は諸悪の根源!
高校物理の中で最も不可解なものの一つ、ドップラー効果について解説してみたいと思います。
高校を卒業してからもうだいぶ経ちました。ドップラー効果が嫌いでした。ドップラー効果の公式が大嫌いでした。センター試験で出題されたドップラー効果の問題を落としました。いまだに恨んでます(ウソです)。なんでこんなに分かりにくいのか、私見を述べてみようかと思います。
ドップラー効果とは、音源や観測者が動くことで、観測者に聞こえる音が高くなったり、低くなったりする現象のことです。救急車が近づくと、サイレンの音が高く聞こえ、遠ざかると音が低く聞こえるというアレですね。
観測者が聞く音波の振動数は、ドップラー効果の公式として、一般に以下のように与えられています。
V-vo
f′= ――――――― ×f …………(公式)
V-vs
V:音の速さ f:音源の振動数 f′:観測される振動数 vs:音源の速さ vo:観測者の速さ
(観測者も音源も同一直線上を動き、音源S(Source) から観測者O(Observer) に向かう向きを正とする。)
もう、この時点でうんざりです。この式の物理的意味はなんなのか? 直感的に理解できません。なぜvsが分母なのか、なぜvoが分子に来るのか? 音源から観測者に向かう向きを正とするというのも分かりません。
もちろん、教科書をみれば、その導出の過程が説明されています。でも、まわりくどいです。なぜ、わざわざ、この形にまとめなければならないのでしょうか? 理解に苦しみます。
学校では、問題を解くには、必ず公式が必要だから、公式を覚えろといわれます。そんなこといわれても、わけの分からないものを覚えたくありません。覚えられません。
無理に覚えたとしても、実際に問題を解く場面では、音源の速さvsや観測者の速さvoの符号のプラスマイナスを間違えます。分母と分子もどっちがどっちだったか分からなくなります。そして、試験が終われば、すぐに忘れます。多くの問題を解いて、時間をつぎ込んでも無駄でした。ホントに納得したという状態になりません。もうこうなると、物理の勉強をしているのか疑わしくなります。単なる間違い探し、単なるルールのお勉強です。
結局、高校時代は、この公式がもつ物理的意味を最後まで理解できませんでした。物理が嫌いになりました。たぶん、教えてる教師の方もよく分かっていないんじゃないかと思います。
ネットで「ドップラー効果」を検索すると、「ドップラー効果がわかりません。教えてください」という質問が沢山あります。きっと、いまも、高校時代の私のように、ドップラー効果が分からず、苦しんでいる高校生がたくさんいるのだと思います。
一方、ドップラー効果について分かりやすく説明するとした解説動画や説明文も沢山でています。GIFなどを使って波の動きを視覚的にイメージできるように工夫したものもあります。昔よりはだいぶましになっているのかな、とは思います。
ですが、依然として「公式」ありきなのです。ネットにはこんな文句が並んでいます。
◇ドップラー効果は簡単です! 覚える公式は1つだけでOK!
◇ドップラー効果の問題を解くのに必要なのは、「一つの公式」と「一つの図」だけです。
だ・か・ら、公式を覚えたくないのです!! もうため息しかでません。世にも珍妙な公式を提示して、問題を当てはめ、答えを導く。大手受験機関の説明もだいたいそうです。分母、分子を間違えないように覚える語呂合わせとか、符号のつけかたとか、間違えないための覚え方とか、いろいろです。
物理の学びというのは、そういうことじゃないだろと、声を大にしていいたいのです。
学校教育も予備校も「公式」を出発点としているのに変わりありません。はたして、この方向は正しいのでしょうか? 物理という学問で扱う数々の式は、本来、実験などを通じて観測した自然現象を整理、解釈し、それを上位概念化したものだと思うのです。導き出された式は、シンプルで美しいものであってほしいと願います。
ドップラー効果の公式は、シンプルで美しいでしょうか? ドップラー現象をちゃんと解釈したものとして表現されているのでしょうか? 物理現象を解釈するために式にまとめたのに、式に振り回されてどうするんだ、と感じます。
私は電子工学を専攻しました。電子や光、電磁波の振舞いなどについてそれなりに勉強し、ある程度理解したつもりです。
だから思うのです。ドップラー効果の公式は、波の振舞いの物理的意味を正しく表していません。この公式はいらないと思います。ドップラー効果の理解をかえって妨げるものです。ドップラー効果が余計に分からなくなるだけです。こいつのせいで物理嫌いが増えます。
この公式が高校物理の教科書から消し去られることを強く願います。
つづく