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第八話
やたらと綺麗な夏の空が広がっていた。
真っ白な雲が所々に点在し、8月のものとは思えない涼しい風が、すっと木々のざわめきを生んでいった。
昨日は大阪にいる父に連絡をして、二人でご飯を食べた。
会ったのは2度目に家を出た3月以来だったけれど、元々三つの時から一緒に住んでいた人ではなかったから、何ともなくにこやかな再会だった。
事情を話すと、休学の許可と引っ越し代の準備を約束してくれた。
お守りという事で、4万円をもらった。
「絶対にママに見つからない所に持っておくこと」
それが約束だった。
本当に感謝してもしきれない。
自立をしないといけないと思ったことはあった。
けれど、自立をしたいと思ったのは、初めてかもしれない。
自分の中に、母に対する甘えがあったのだと実感する。
「いざとなったら、自分をとれ。ママじゃなくて、自分をとれ。」
そう最後に言い残して、父は電車に乗る私を見送ってくれた。改札を通れるように、現実に帰れるように。
家には帰れなかったが、心は決まった。
早朝特有のまばらな蝉の声が響き始める中、携帯を取り出してある人に電話をかけながら歩きだした。